研究課題/領域番号 |
23K17902
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分32:物理化学、機能物性化学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小山 知弘 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (60707537)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | スピントロニクス / 光触媒 / 水素 / 触媒 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、スピントロニクスの化学への本格的な応用を視野に、光触媒の動作原理を利用した磁性制御に挑戦する。光触媒材料が示す強力な還元機能を利用して、酸化された磁石を還元しその磁力を蘇らせることを行う。代表的な光触媒である二酸化チタン上に作製した白金/コバルト積層薄膜の磁性を、紫外光の照射により光化学的に制御する。これにより、従来の電気化学的手法とは異なる、光化学的手法に基づく新しい磁気制御が可能となる。本研究では化学の分野で発展してきた現象をスピントロニクスに取り入れるだけでなく、触媒反応の解明にスピントロニクスが活躍する未来を切り開くという、研究の方向性を大きく転換させる可能性を有している。
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研究実績の概要 |
本研究では、スピントロニクスと化学の本格的な融合に向けた第一歩として、光触媒機能が示す還元機能を利用した磁性制御に挑戦する。まず初年度は還元による強磁性金属の磁性変化を観測すべく、強力な還元力を有する水素を利用した磁性制御を試みた。 白金(Pt)/コバルト(Co)/酸化マグネシウム(MgO)積層構造をスパッタ法により作製した。この試料ではMgOの製膜に伴いCoが強く酸化され、磁性を示さないことを確認した。一方、真空チャンバー内でアルゴンと水素の混合ガス雰囲気下において試料を1時間アニールしたところ、垂直磁気異方性を示す磁気ヒステリシスが明瞭に観測された。これは、酸化されたCoが水素アニールにより還元され、磁性が蘇ったことを示している。水素がない状態でアニールした試料では磁性が見られないことから、この結果がインターミキシングや結晶性の変化によるものではないことも確認した。現在Coの還元メカニズムの詳細に関してX線光電子分光などを用いて調べている。 また、上記の還元効果の下地層依存性を調べるため、下地をPtから金(Au)に変えたAu/Co/MgO構造においても同様の実験を行った。その結果、Au下地試料では水素アニールによる磁性の復活が見られなかった。Ptの有する強い触媒作用が磁性の水素アニール効果を支配している可能性がある。このことから、メインテーマである光触媒効果を実証するためには、Ptなどの触媒作用の強い下地層を用いることが有効であることが示唆され、目標達成に向け非常に重要な指針を得ることができたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は予備実験である水素アニールによる磁性制御に成功し、化学反応、特に還元による磁性制御が可能であることを明らかにした。また、Ptなどの触媒作用の強い下地層を用いることが有効であることを示唆する結果を得ることができ、Pt/Co/MgO構造が目標達成に向け有望な試料構造であることを突き止めた。目標達成に向け、実際に紫外光を照射して測定を行う段階にきている。一方、下地層に依存して還元反応の起こりやすさに差があることは計画段階では全く想定していなかった非常に興味深い結果であり、スピントロニクスと化学の融合を推進するにあたり重要な知見であると考えられる。このような発見をなしえたことから、当初に計画以上に進展している面があると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
光触媒作用を示す酸化チタンTiO2基板上にPt/Co/MgO構造を製膜し、紫外光を照射して磁性の変化を観測する。当初は大気下での実験を想定していたが、還元作用の強い水素雰囲気下でも同様の実験をすることにより、メカニズムの理解を深めることを検討している。 また、Ptと同様に触媒として有名なPdを用いたPd/Co構造や、他に光触媒機能を持つ基板として窒化ガリウム(GaN)やチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)を用いた研究を行い、光触媒を用いた磁性制御についてより系統的な知見を得る。
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