研究課題/領域番号 |
23K17907
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分32:物理化学、機能物性化学およびその関連分野
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
佐甲 徳栄 日本大学, 理工学部, 教授 (60361565)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | 時間モード / 超短光パルス / 光パラメトリック周波数変換 / シンプレクティック積分法 / 群速度分散 / シュミットモード |
研究開始時の研究の概要 |
光物質計測においては,目的とする情報を運ぶシグナル光を入射光や散乱光などの背景光から分離する工夫が不可欠である.シグナル光が背景光と周波数・時間・空間的に重なり,同じ偏光を持つ一般的な場合には,両者の分離は極めて難しい問題となる.本研究では,光の時間モードに着目し,シグナル光の時間モードのみを非線形光学過程を用いて周波数変換することによって,背景光から分離することを目指す.このために,非線形結晶中における光パルスの混合過程を記述する多時間グリーン関数を計算するシステムを開発し,任意の時間波形を持つシグナル光を「選択的かつ高効率で」変換するポンプ光の理論設計を行う.
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研究実績の概要 |
本研究は超短パルスレーザー光を用いた実時間物質計測において,光の時間モードに着目し,物質の情報を担うシグナル光を非線形光学過程を用いて背景光から分離する方法を理論デザインすることを目的とする.研究の初年度であるR.5年度は,2次の非線形光学過程の理論の基礎となる「三波共鳴相互作用方程式」に着目し,群速度分散による波形の変形の効果を取り入れた理論モデルの構築を行った.本研究で対象とするパルス幅が50フェムト秒以下の超短光パルスにおいては,非線形結晶中の伝播過程においてパルス幅が大きく広がるため,三波混合過程よる光パラメトリック周波数変換に大きな影響を与える.従来三波共鳴相互作用方程式では,群速度整合条件を扱う一方,この群速度分散による波形の変形は無視されてきた. 本研究ではまず,媒質中の光パルスの伝播を記述する時間依存マックスウェル方程式に立ち返り,電場・磁場を物質パラメータで適切にスケールすることによって,シンプレクティック形式を導入した.これによって時間発展を記述するグリーン関数を,指数関数型の平行移動演算子として簡潔に記述することが可能となった.また非線形結晶の群速度分散を取り入れるために,セルマイヤー方程式を用いて屈折率の波長依存性を導入し,時間発展演算子の作用を波数空間で計算する方法を考案した.これよって,高精度かつ高効率であり,直感的な解釈が可能な計算方法を開発した.また近年話題となっている中心波長が時間的に変化するチャープパルスの取り扱いを可能とするために,時間変数と空間変数の役割を入れ替えた「空間発展演算子」を導入し,通常の時間発展に対して空間発展によってパルスの波形変化を計算する方法を開発した.この方法を具体例として,中心波長が400nmおよび1064nm,パルス幅が50fsの二つの超短パルスに適応し,リチウムナイオベイト結晶中の光伝播の計算に成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,非線形光学過程を用いて特定の時間モードの光パルスのみを,シグナル光から自在に抽出することを目的とする.従来光パラメトリック周波数変換過程を記述する三波共鳴相互作用方程式では,光の周波数分散による「パルスの広がり」が無視されており,このためそのグリーン関数のシュミット分解から得られる時間モードの波形においても,群速度分散による波形変形の効果が取り入れられてこなかった.一方,本研究で対象とする50フェムト秒以下の超短光パルスにおいては,非線形結晶中の伝播過程におけるパルス幅の広がりが本質的な影響を与える.このため研究初年度であるR.5年度は,群速度分散の効果を取り入れた理論モデルを構築することによって基礎方程式の整備を行った. 電磁波の伝播を記述する時間依存マックスウェル方程式にシンプレクティック形式を導入することによって,光パルスの時間/空間発展を計算するグリーン関数を高精度な計算が可能でありなおかつ直感的な解釈が可能な形で導出した.得られた計算方法を具体的な物理系に適用し,群速度分散による典型的なパルス広がりおよび,負チャープされた光の「パルス圧縮」のデモンストレーションを行うことに成功した.これらの成果は現在学術論文の形でまとめられており,近日中に投稿予定である.このため,研究はおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
R.6年度は,まずR.5年度に開発した「非線形結晶中の群速度分散を取り入れた時間発展法」を拡張し,屈折率が空間座標に応じて任意に変化をする一般的な場合についての計算を可能とする.これによって複雑な多層構造を持つ機能性光学媒質を理論モデルに組み込むことが可能となる.これについては既に数値計算可能性について数学的な検討を終了している.次に,非線形光学過程を記述するグリーン関数を大規模数値シミュレーションを用いて計算し,そのシュミット分解によって時間モードを求める計算システムの開発を行う.これによって,与えられた実験条件に対して,高効率かつ高選択性的に周波数変換される入射光の時間モードを求めることが可能となる.そして次年度のR.7年度に,この問題を「逆問題」として解く方法,すなわち,任意の時間モードを持つ入力光を高効率かつ選択的に周波数変換するポンプ光の設計法を開発する.これによって,背景光に埋もれた微弱な信号光に対して,信号の時間モードのみを周波数変換することによって背景光から分離する新規光物質計測原理の理論設計を行う.
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