研究課題/領域番号 |
23K17918
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分33:有機化学およびその関連分野
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
池田 篤志 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 教授 (90274505)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 光音響 / ポルフィリン / フタロシアニン / 多糖 / ポリペプチド / 超分子化学 |
研究開始時の研究の概要 |
光音響イメージングは、従来の蛍光イメージングに比べより深い場所でもイメージングできることから次世代がん診断法として注目されている。本研究では、当研究室で開発した“多糖、もしくはポリペプチドを可溶化剤とするポルフィリン誘導体・類縁体の安定な水溶液”を、がん診断などが期待されている光音響イメージングに展開することで、非常に高感度な造影剤の開発を目指す。さらに光温熱療法を組み合わせることで、がん治療と診断を同時に行える造影剤を開発する。
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研究実績の概要 |
当研究室で開発した天然高分子を可溶化剤とするポルフィリン誘導体の安定な水溶液を作製することに成功している。本研究では、これらの錯体を用いて、がん診断が期待されている光音響イメージングに展開することで、非常に高感度な造影剤の開発を目指す。光音響イメージングは、従来の蛍光イメージングに比べより深い場所でもイメージングできることから次世代がん診断法として注目されている。 すでに、光線力学治療効果を有するテトラキス(4-ヒドロキシフェニル)ポルフィリン(THPP)とテトラキス(4-アミノフェニル)ポルフィリン(TAPP)のカラギーナン(CGN)錯体水溶液を用いた。一方、対照化合物としてはテトラフェニルポルフィリン(TPP)を用いた。それぞれの水溶液において光音響イメージングの強度は680 nm の光照射においてTHPP-CGN錯体>TAPP-CGN錯体>>TPP-CGN錯体の順番になった。一方、がん細胞中での強度を測定したところ、TAPP-CGN錯体>THPP-CGN錯体>>TPP-CGN錯体の順番となり、TAPPで最も高い値になった。この原因は、エンドサイトーシスによって取り込まれた錯体がリソソーム内での環境pH = 5付近において、TAPPは比較的錯体内に残り、THPPは錯体外に放出され細胞膜内に移ることによることがわかった。錯体内に残ったTAPPは自己会合によって蛍光をもたず、分子運動が抑制されるため、光音響強度が強くなる。また、錯体中でTAPPは pH = 5.0 の条件においてプロトン化され、700~800 nmに新たな吸収が現れることがわかった。その結果、より皮膚透過性の高い780 nm の光照射においても、光音響が観測された。以上の結果から、TAPP-CGN錯体はがん治療とがん診断を組み合わせたセラノスティクスへの応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、初年度で測定予定であったTHPP-CGN錯体とTAPP-CGN錯体の光音響イメージングを測定することができた。これらについてはin vitro であるが、がん細胞中においても光音響が確認された。その光音響強度は、特にTAPP-CGN錯体においてTPP-CGN錯体に比べ13倍大きな値であった。また、TAPPのプロトン化によって当初予測されていた波長(680 nm)よりも長波長(780 nm)においても光音響イメージングが観測された。これらの錯体はすでにがん治療に利用できる光線力学治療とがん診断を行う光音響イメージングの両方の機能を持ち合わせているため、がん治療とがん診断を組み合わせたセラノスティクスへの応用が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今回、in vitro においてTAPP-CGN錯体が高い光音響イメージングを示すことを明らかにした。今後、担癌マウスを用いた in vivo での検討を行う予定である。 さらに、光音響強度の増強を目指すため金属ポルフィリンを用いて検討を行う。金属ポルフィリンも可溶化剤として多糖やポリペプチドを用いる。細胞導入量、血中滞留性、および吸収波長の違いなどによる光音響強度の違いについて考察する。 一方、より長波長での光音響イメージングを可能にするため、長波長に吸収をもつフタロシアニンとナフタロシアニンを用いる。また、光音響強度の向上のためには細胞導入量を多くする必要がある。そのため、置換基の違うフタロシアニンとナフタロシアニンを合成し、その多糖やポリペプチドとの錯形成による水への溶解性の違いも評価する。これらフタロシアニンあるいはナフタロシアニン誘導体と多糖もしくはポリペプチドとの錯体を用いて、長波長の光照射による光線力学治療としての効率を検討する。最終的には担癌マウスを用いた in vivo での検討を行い、セラノスティクス材料としての評価を行う。
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