研究課題/領域番号 |
23K17925
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分34:無機・錯体化学、分析化学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷川 靖哉 北海道大学, 工学研究院, 教授 (80324797)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2025年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 希土類 / 発光 / 生体応用 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、アミノ酸や酵素等が存在する生体環境中で安定かつ可逆に配位構造変形する水溶性Eu(III)錯体を用いたがん細胞の成長解析を初めて検討する。具体的には、細胞内外の生体分子等と作用して変形する水溶性Eu(III)錯体を用い、がん細胞内にEu(III)錯体を導入する。取り込まれたEu(III)錯体の光物理計測を行い、がん細胞内活性挙動を初めて評価する。
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研究実績の概要 |
ポリエーテル鎖を有するユウロピウム錯体を合成し、そのユウロピウム錯体をがん細胞内へ導入する実験を行なった。本細胞実験に先立ち、ポリエーテル鎖を有するユウロピウム錯体の生理培養液中での安定性を評価した。ポリエーテル鎖を有するユウロピウム錯体は生理培養液中で巨大な分子会合体を形成することが蛍光顕微鏡観察および光散乱測定(DLS測定)により明らかになった。この巨大な分子会合体が生理培養液中のアミノ酸によるユウロピウム錯体の分解を抑制していると考えられる。この巨大な分子会合体はがん細胞表面に吸着し、ユウロピウム錯体が細胞内に侵入して赤色発光することが蛍光顕微鏡観察によって明らかになった。 この赤色発光するがん細胞の発光スペクトルと発光寿命を計測して発光速度定数の算出を行なった。この発光速度定数はがん細胞内によりこまれると急激に増大し、その発光速度定数の変化時間はがん細胞の活性度(悪性度)によって大きく異なることが明らかとなった。様々な種類のがん細胞取り込み実験を行い、悪性度の高いがん細胞ほどユウロピウム錯体が取り込まれやすいことがわかった。特に悪性度の異なる脳細胞(NHA: normal human astrocytes)を用いて実験を行なったところ、悪性度の高いがん細胞ほど発光速度定数の変化速度が早いことがわかった。具体的には、Eu(III)錯体を投入直後と 3 時間後の測定において発光速度定数は NHA/TS (良性グレード II 神経膠腫) で 4%、NHA/TSR (悪性グレード III 神経膠腫) で 7%、NHA/TSRA (悪性、グレード IV 神経膠腫)で 27% の増加を示した。以上、がん細胞の悪性度を光物理化学解析によって初めて評価することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
水溶性のユウロピウム錯体を用いた脳腫瘍細胞への取り込み実験を初めて行い、細胞から放射される赤色発光を光物理化学解析することに初めて成功した。これまで水溶性のユウロピウム錯体をがん細胞に取り込んで蛍光顕微鏡によって観察する研究は多く報告されている。この先行研究では困難ながん細胞から放射される赤色発光を光物理解析することに世界で初めて成功した。この研究成果は、細胞内で分子の立体構造が大きく変化する水溶性のユウロピウム錯体を用いたことが成功の要因と考えられる。申請者らはユウロピウム錯体の立体構造と発光速度の関係をこれまで研究してきており、分子構造が非対称化(歪んだ構造)となることで、ユウロピウムの4fー4f遷移が許容化することを明らかにしている。この光物理化学研究を医学分野で初めて応用する点が注目するポイントとなる。 今回の研究では、がん細胞中に取り込まれた水溶性のユウロピウム錯体の光物理解析によって、がん細胞の悪性度に依存した取り込み速度変化を数値化することに成功した。このがん細胞悪性度の数値化することによってデータ解析が容易になり、医学の細胞研究においてデータサイエンスへの展開が可能になる。このことから、多くの数値情報をデータとして蓄積することで情報科学によるがん細胞評価への展開も切り開かれるため、今回の研究成果の意義は大きい。 以上のことから、初年度半年で優れた研究成果を上げることに成功した。よって、当初の計画以上に進展していると判断する。今後はがん細胞の中の構造情報(タンパク質の関与など)を数値化できる水溶性ユウロピウム錯体を開発することによって、さらなる研究進展が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
ポリエーテル鎖を導入したユウロピウム錯体は水圏環境で巨大な分子会合体を形成し、がん細胞内に侵入してセンシング機能を発現することをこれまで報告している。一方、水溶性の糖骨格を導入したポリマー材料がタンパクを捕捉してセンシングすることが知られている。本研究では、がん細胞内のタンパク質を吸着・補足するユウロピウム錯体の開発検討を行う。具体的には、ガラクトースなどの糖誘導体を導入したEu(III)錯体を合成し、水圏環境(純水中および生理培養液中)における会合体形成と光機能を評価する。 糖誘導体を導入したユウロピウム錯体はホスフィンオキシドに糖骨格をクリック反応で取り付け、その分子をユウロピウムに配位させることで目的物を合成する。得られたユウロピウム錯体の水圏環境中での会合体形成を臨界ミセル濃度測定および光散乱測定によって評価する。さらに、光物性を測定し、メタノール中における光物性と比較する。さらに、水圏へのタンパク導入によって捕捉センシング機能を評価する。 がん細胞中におけるタンパクセンシング機能を蛍光顕微鏡で評価するためのユウロピウム錯体を合成し、蛍光顕微鏡による画像観察細胞内における放射速度定数の変化を評価する。得られた放射速度定数の評価から、がん細胞内のタンパク質関与に関する光物理データ解析を検討する。 さらに、ユウロピウム錯体にキラル構造を導入することで、発光の円偏光情報も獲得することができるため、細胞内で円偏光解析が可能な新しいユウロピウム錯体の開発も行う。
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