研究課題/領域番号 |
23K17927
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分34:無機・錯体化学、分析化学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小澤 岳昌 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40302806)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | GPCR / DRD1 / GLP1R / ルシフェラーゼ / センサー / 膜タンパク質 |
研究開始時の研究の概要 |
生命の素過程を分子レベルで解明する技術開発,特に生体内の環境のあるがままの場で分析する革新的基盤技術の開発は現代の分析化学に課せられた最も重要な課題である.本研究では,生体内ではたらく低分子量化合物を特異的に認識する膜タンパク質(GPCR)センサーを開発する.さらに分子認識の特異性を人為的に改変したセンサーを開発し,新たな低・中分子を検出する基盤技術を創発する.
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研究実績の概要 |
生命の素過程を分子レベルで解明する技術開発,特に生体内の環境のあるがままの場で分析する革新的基盤技術の開発は現代の分析化学に課せられた最も重要な課題である.本研究では,生体内ではたらく低分子量化合物を特異的に認識する革新的分子認識モジュールを開発し,新たな分析技術のプラットフォームとなる基盤技術の創発を目的とした.2023年度は,1.GPCRに情報変換を組み込む(センサーの開発)を遂行した.具体的には,GPCRの一つであるdopamine receptor(DRD1)およびglucagon like peptide 1 receptor (GLP1R)に発光タンパク質ルシフェラーゼを挿入し,リガンド添加による発光強度の変化を調査した.ルシフェラーゼは,円順列変異体を独自に作製し,GPCRのTM5とTM6に挿入できるように,新たな切断位置を決定した.結果,リガンド添加に伴い,発光強度の減少が観測されたことから,センサータンパク質として機能することがわかった.今後はルシフェラーゼ発光強度変化のダイナミックレンジの拡大を目指し,アミノ酸変位や分子デザインの精密化を進める予定である.本研究により得られるGPCRセンサーならびに光分析技術は,低分子から中分子をターゲットとした新たな分子認識のための共通のプラットフォームとして,あるがままの生体環境における小分子を分析する基盤技術となる極めて重要な学術的意義を有している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
GPCRに情報変換を組み込む(センサーの開発):赤色ルシフェラーゼ(Akaluc)のGPCRへの挿入部位を決定するために、DRD1 の構造予測を行った.構造が解明されいてるβ2 アドレナリン受容体 (β2AR) とアミノ酸配列を比較したところ,TM5とTM6 の細胞内アミノ酸領域が,ルシフェラーゼ挿入の最適部位であることが判明した. AkalucのN―C末端の距離は約4.3 nmと離れており,DRD1に挿入するには距離にミスマッチがあることが判明した. そこでAkaluc の 円順列変異体 (cpAkaluc) を開発した.このcpAkaluc の特定の切断位置を,DRD1のTM5-TM6に連結したセンサーを開発した.接続するペプチドのリンカー長やアミノ酸変位を導入した変異体を複数作製し,その融合タンパク質の細胞膜への発現をHEK293T細胞を用いて確認した. 結果,複数の変異体において融合タンパク質の細胞膜局在を確認できたことから,融合タンパク質が正しくフォールディングしていることが示唆された.次にリガンドを細胞に添加し,Akalucの発光能を検証した.結果,PBS投与(コントロール)と比較して,一つの融合タンパク質においてリガンド刺激により明らかな生物発光の減少が確認できた. この結果は,DRD1 へのリガンド結合がセンサータンパク質の構造変化を引き起こし,Akaluc 酵素活性を低下させることを示している. 同様にGLP1RのTM5とTM6にALuc23ルシフェラーゼを挿入した融合タンパク質(グルカゴンセンサー)を複数作製し,HEK293T細胞を用いてその局在ならびに発光特性を調べた.結果,特定の融合タンパク質は細胞膜に局在し,リガンド添加により発光値が減少することが解った.DRD1に加えGLP1Rのセンサー開発が推進したことは,計画以上の進展となった.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,ドーパミンセンサーとグルカゴンセンサーのプロトタイプの開発に成功している.しかし発光の減少量は10%程度と低いため,マウスを用いた動物実験には不十分である.そこで,さらに開発したセンサープロトタイプに変異を加え,ルシフェラーゼ発光強度変化のダイナミックレンジの拡大を目指す.次に,分子認識能の拡張を目指す.骨格となるDRD1のリガンド結合アミノ酸にランダム変異を加え,ドーパミン認識能をその前駆体であるアドレナリン,およびその代謝物である3-メトキシチラミンに変換する.変異導入を繰り返すことで,高親和性かつ優れた選択性を示すGPCR変異体の開発を実践する.一連のGPCR変異体の作成技術は,GPCRのリガンドポケット(ワイングラス)のサイズを選ぶことで,様々なサイズの分子に対応することが可能となる.ペプチドや脂質をリガンドとするGPCRにも同方法が適応できれば,非天然有機分子のセンサー開発も可能となり,大きな波及効果が期待できる.
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