研究課題/領域番号 |
23K17932
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分34:無機・錯体化学、分析化学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
林 高史 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (20222226)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
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キーワード | 金属酵素 / ヘムタンパク質 / 生体触媒 |
研究開始時の研究の概要 |
酸素貯蔵タンパク質であるミオグロビンに対して、本来の機能とは全く異なる触媒活性を付与することを目的とし、特に有機合成で重要な結合形成をつかさどる触媒反応に焦点をあてる。これまでのヘムタンパク質の補因子置換による人工金属酵素の創製やタンパク質の遺伝子操作によるヘムポケットの構造改変の知見と実績をもとに、本研究では生体系でヘム酵素が行っている酸化還元反応ではなく、天然の酵素反応系では見られない重要な有機反応をつかさどる斬新な生体触媒の開拓に挑戦する。
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研究実績の概要 |
生体内には多くの金属酵素が存在する。これらの金属酵素は、酸化還元反応や加水分解反応、電子移動反応等に関与し、生合成や代謝分解を支援している。しかし金属酵素も一般の酵素と同様に、基質や反応の種類は限定的であり、金属酵素を触媒として物質変換反応に用いる際には基質や反応の制限が存在する。この酵素の欠点を克服し、天然には見られない多様性のある生体金属触媒(人工金属酵素)を創製する目的で、錯体化学と酵素工学の両方の立場から金属酵素の機能改変を実施する。実際には、取り扱いが容易なヘムタンパク質であるミオグロビンに着目し、補因子であるヘムを除去したアポタンパク質を反応場に用い、そこに人工金属補因子を挿入し、前例のない有益な触媒反応系を開拓することを目標としている。当該年度は特に天然の酵素反応では取り扱うことの出来ないオレフィンのシクロプロパン化反応に着目し、ヘムの代わりとなる人工補因子の新たな分子設計を行い、その補因子を挿入した再構成ミオグロビンにおいて、これまで以上に活性の高い化学修飾ミオグロビンを人工金属酵素として獲得した。また、天然のアルドキシムデヒドラターゼではほとんど反応しないO-アルキルアルドキシム基質についても、我々の考案した鉄ポルフィセン含有再構成ミオグロビンを用いて目的物のニトリルをスムーズに合成する方法も考案した。また、これまでに例のないアルドール反応をつかさどるヘムタンパク質の分子デザインにも着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、タンパク質を自在に操り、新しい生体分子触媒の創製に挑戦することにある。その中でも、特に、ヘム(ポルフィリン鉄錯体)を補因子に有するヘムタンパク質に着目し、天然のヘムを除去したアポミオグロビンに、新規の金属錯体を挿入した再構成タンパク質を人工金属酵素として評価する。さらに、補因子の金属錯体の検討と共に、周囲のタンパク質を配位圏と位置づけて遺伝子工学的手法も駆使し、金属錯体とタンパク質の統合的分子デザインを精力的に実施している。 当該年度はまず、オレフィンのシクロプロパン化に着目した。これまでに我々も含めて幾つかのグループがエチルジアゾベンゼンをカルベンドナーとして用い、スチレンのシクロプロパン化反応をミオグロビンを用いて行った。しかしながら、スチレンよりも活性の低いアルカンの同様な反応は困難であった。そこで、今回我々のグループでは、CF3基をヘム側鎖に有する鉄ポルフィリンを新たに作製し、アポミオグロビンのヘムポケットに挿入し、得られた再構成ミオグロビンが、1-オクテンやメチルスチレンのエポキシ化反応を促進させることを見いだした。また、その際の反応は、ラジカル機構であることも、種々の実験から明らかにし、現在論文を投稿中である。 一方、ミオグロビンを用いたアルドキシムの脱水によるニトリル合成にも挑戦した。本反応は比較的最近見つかったヘム酵素であるアルデヒドデヒドラターゼが行っている反応であるが、天然のミオグロビンではこの活性は全くない。しかし、鉄ポルフィセン(ポルフィリンの構造異性体)を含有する再構成ミオグロビンでは、スムーズに本反応が進行することが明らかとなった。さらに、天然酵素では対応できない幾つかのアルドキシムが再構成ミオグロビンを用いてニトリルに誘導できることも新たに見いだした。本結果もすでに成果の一部を論文として投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、シクロプロパン化反応においては、立体選択性に着目した研究を進める。特に、スチレンのエポキシ化について、4つの立体異性体をそれぞれ選択的に得るためのヘムタンパク質に由来する人工金属酵素を獲得する。方法としては、ミオグロビンのヘムタンパク質の反応部位(ヘムポケット)を変異導入により改変し、それぞれの立体異性体を選択的に得る変異ミオグロビンを見いだす。もう一つの方法としては、当研究室で作製しているヘムタンパク質ライブラリーから立体選択的に1つの生成物を優先的に与えるヘムタンパク質を見いだし、さらにそのタンパク質に変異を施し、より立体選択的に生成物を与えるものを創製することを検討したい。 アルドキシムのニトリルへの変換は、鉄ポルフィセンを含むミオグロビンで活性が得られることが示されたので、令和6年度はアルドキシムデヒドラターゼそのもののヘムを鉄ポルフィセンに置換して、アルドキシムデヒドラターゼそのものの活性化を向上することも試みたい。 さらに、最近ヘムタンパク質ポケット内でアルドール反応を進めるために、幾つかの基質を分子設計し、その合成に着手している。令和6年度は、得られた基質に対して、実際にミオグロビンをはじめとするヘムタンパク質及び鉄ポルフィセンを含む再構成タンパク質を触媒として用いて、アルドール反応に挑戦し、生成物をGC-MSやLC-MSを用いて検出し、生成物が確認された場合には、触媒活性の向上をタンパク質の変異や補因子の修飾体を駆使して実現したい。
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