研究課題/領域番号 |
23K17937
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分35:高分子、有機材料およびその関連分野
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
一川 尚広 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80598798)
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研究分担者 |
山田 武 一般財団法人総合科学研究機構, 中性子科学センター, 副主任研究員 (80512318)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | ジャイロイド / プロトン伝導 / ホッピング伝導 / 液晶 / 高分子膜 |
研究開始時の研究の概要 |
これまで我々はジャイロイド構造を有するプロトン伝導性膜を構築してきた。この膜中において、界面プロトンホッピング伝導が支配的な伝導メカニズムであることを示唆する結果が得られてきている。本研究では、ジャイロイド極小界面上の水分子のダイナミクスを中性子準弾性散乱測定(QENS測定)により解明し、界面におけるプロトン伝導メカニズムを解明する。また、得られた知見を基盤とし、界面プロトンホッピング伝導メカニズム支配型のプロトン伝導性膜の設計技術を構築する。
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研究実績の概要 |
プロトンが疎水性壁の表面に存在するスルホ基から隣接する スルホ基に水分子を介して移動する界面プロトンホッピング伝導(SPHC) メカニズムという。他の伝導機構に比べて、伝導度が低い機構であり、これまでほとんど注目されてこなかった。我々は、このSPHC機構に着目した。我々の着想点は、疎水壁の表面のスルホ基間距離を小さくかつ等間隔な場を作ることが出来れば、疎水壁表面のポテンシャルが均一化でき、極めて高速なSPHC機構を達成できるのではないかと考えた。本研究において、我々がこれまで設計した両親媒性Zwitterion(GZ)の自己組織化及びin situ 重合により、極めて精密なナノ構造を持つジャイロイド構造膜を作製した。この膜内のジャイロイド極小界面に沿ってスルホ基が配列し、高速なプロトン伝導現象が起きることが分かっている。本年度は、この界面上における水分子の状態及びダイナミクスを調べた。DSC測定の結果、水分子はすべて結合水であることが分かった。中性子準弾性散乱測定の結果、これらの結合水は局所的な運動をしていることが分かった。更に、プロトン伝導度の温度/含水率依存性などを詳細に調べたところ、『スルホ基間距離が極めて小さいこと』及び『極めて小さな活性化エネルギーEaを持つこと』を明らかにすることができた。以上の結果より、我々の創ったジャイロイド構造膜内においてSPHC機構による伝導が支配的に起こっていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
中性子準弾性散乱測定(QENS測定)は、ピコ~ナノ秒の時間およびÅスケールでの分子の動的挙動を調べる強力な手法である。水素は中性子線に対して大きな非干渉性散乱断面積を持つ一方、重水素のそれは非常に小さい。そのため、試料の選択的重水素化と組み合わせることで、見たい部分のダイナミクスを選択的に観測できる。本年度において、選択的重水素化したジャイロイド構造膜に対してQENS測定を行うことで、ジャイロイド構造膜中の水分子のダイナミクス・プロトンのサイト間ホップにかかる平均時間などを明らかにすることができた。サンプルの準備(サイズ・形状)から実際の測定・解析を綿密に行うことで、非常に限定的な測定時間で重要データを得ることに成功した。これらの結果は、高速なSPHCメカニズムの発現に関わる重要な因子であり、SPHCメカニズム支配型のプロトン伝導膜を設計するための重要な指針を得ることができ、順調に計画通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
水素を基盤としたクリーン社会を実現する上で、燃料電池は中核を担うデバイスである。様々な形態の燃料電池が開発されているが、プロトン伝導性高分子膜を用いた固体高分子形燃料電池は、低温から中温域(80°C付近)で活躍するシステムであり、自動車などに最適なシステムである。ナフィオンというフッ素系高分子電解質膜を用いて非常に優れた固体高分子形燃料電池が実現されているが、更なる高機能化・低コスト化・環境調和性の改善などを実現するためには、『フッ素元素に頼らないプロトン伝導膜設計技術』や『中高温域(100~120°C付近)でも機能する電解質膜設計』が求められている。一般に、高分子膜中における高速なプロトン伝導の誘起には『自由水』の存在が不可欠である。これは、水分子が水素結合ネットワークを形成しているとバケツリレー型の高速伝導機構(Grotthuss機構)が働くためである。しかし、これらの自由水は昇温に伴い蒸発してしまうため、自由水に依存した電解質膜設計では、次世代デバイスのための電解質膜に求められる要件を全て満たすことは不可能と言える。 本研究を通して、『結合水』のみで高いプロトン伝導性を実現できるということを晃高にすることができた。これらの設計技術は、『中高温型燃料電池』・『低温型燃料電池』・『無水燃料電池』など次世代の燃料電池技術の革新を達成するための設計として極めて有望である。本研究を通して基礎知見・原理の解明を追求した上で設計改良を進めることで、社会実装に適したレベルまで我々の材料を進化させる。
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