研究課題/領域番号 |
23K17971
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分37:生体分子化学およびその関連分野
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
田中 克典 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (00403098)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | プロドラッグ / アクロレイン / がん / 細胞内反応 / ディールス・アルダー反応 |
研究開始時の研究の概要 |
副作用の少ない治療法として、体内のがんの現地で薬剤を活性化させるプロドラッグ法が重要である。本研究では、申請者が発見したがんでのみ大量に発生する「アクロレイン」という分子に着目し、これと有機合成反応を実施することで、がんでのみ抗がん剤を合成して効果的に治療する。1950年ノーベル化学賞受賞対象となった化学反応をがん細胞、さらにマウス動物内のがんで積極的に実施して、副作用のないがん治療を開拓する。
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研究実績の概要 |
本研究では、報告者が最近発見したがんで選択的、かつ大量に発生する共役アルデヒド「アクロレイン」に着目し、これと高選択的なディールス・アルダー反応を実施することで、がん選択的に抗がん剤を放出し効果的な治療を実現することを目的とした。2023年度は特に下記の点について検討を行った。 がん細胞内のアクロレインと効率的にディールス・アルダー反応を起こすプローブとして、Rawalのジエンに注目した。このジエンは末端部分に反応活性化基としてアミノ基が必要であり、アクロレインを代表とする電子不足な二重結合に対して非常に速やかに反応を起こし、6員環化合物を与える。さらにその後、シリルエノールエーテル部分を加水分解することで、アミノ基が放出されることが知られている。そこで、アミノ基が活性の鍵となる抗がん剤を始めとする生物活性分子をジエンに対して導入することによって、がん細胞内で大量に発生するアクロレインと選択的に反応して生物活性分子を放出できると考えた。 まずこのジエンの反応性について検討したところ、ジエンは生体内に存在すると考えられる様々な共役ケトンやアルデヒドの存在下でも、生体内環境の反応条件下では最も反応性の高いアクロレインのみが非常に素早く反応することを見出した。さらに、アクロレインとの付加成生物である6員環化合物の場合では、エノールエーテル部分を加水分解する操作なしに、活性水素からの脱離反応により自動的にアミノ基が放出されることが分かった。 そこでこれらの結果を基に、ジエンの末端部分に対して様々なアミノ基を持つ分子を導入し、アクロレインと反応させたところ、いずれの場合にも良好に反応が進行した。さらに、蛍光基を持つアミノ基を導入したジエンを調製し、アクロレインを高濃度で産生するがん細胞と反応させたところ、細胞内でも期待したディールス・アルダー反応が進行することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ジエン部分に様々なアミノ基導入し、生体内環境と同様の条件下ではアクロレインと選択的に反応が進行することを見出した。さらにがん細胞内でも、内在性のアクロレインと良好に反応し、ディールス・アルダー反応が起こることを明らかにした。これらの結果は、がん細胞で当該反応を起こして抗がん活性分子を放出できることを示しており、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後、アミノ基が活性の鍵となる抗がん剤をジエンに対して導入することによって、がん細胞内で大量に発生するアクロレインと選択的に反応して抗がん剤を放出する。すなわち、ジエンの末端部分に対して、アミノ基が活性の鍵となる抗がん剤として、強力な抗がん剤であるが危篤な副作用があるマイトマイシンCやドキソルビシンを導入して、アクロレインとの反応を検討する。 さらに、上記で合成した各種ジエンを用いて、がん細胞内におけるアクロレインとの反応性を検討する。アクロレインの発生が少ない正常細胞と比較して、各種ジエンをがん細胞に導入したときに抗がん剤の放出量を検討するとともに、抗がん活性を評価する。また、ジエンの細胞内での安定性についても検討し、アクロレインと反応した時にのみ抗がん剤が放出されるプロドラッグ法に適したジエンを開発する。 最終的に、細胞株での検討を基にして、ヌードマウスにがん細胞株を正着し、動物レベルでプロドラッグ法が効果的に機能するかどうか検討する。抗がん剤に応じた至適容量を静脈投与して、がん縮小効果を検討するとともに、抗がん剤そのものを注射した時と比較して、体重や血球数を指標とした副作用について評価する。
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