研究課題/領域番号 |
23K17980
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分37:生体分子化学およびその関連分野
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
一二三 恵美 大分大学, 研究マネジメント機構, 教授 (90254606)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | 抗体酵素 / 新型コロナウイルス / RBD / ACE2 / 機能性ナノ分子 / 高度保存領域 |
研究開始時の研究の概要 |
CoV-2の蔓延によるパンデミックが世界的な混乱を招いた。CoV-2は変異が入りやすく、かつ、感染能が高い。CoV-2側の変異は抑えられないが、受容体側のACE2には変異が入らない。本研究では、CoV-2側の宿主細胞への結合部位「RBD」および宿主側の受容体「ACE2」の分解のみならず、両者が結合している構造をも壊して、感染を強力に阻害する「multi-task型機能性ナノ分子」の作出に挑む。受容体には変異は入らないので、ウイルスに変異が入っても対応出来る新しい手法である。ACE2遺伝子は無傷で残るので、必要に応じて再発現でき、これまでのワクチンや既存薬などでは成し得ない特長を有している。
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研究実績の概要 |
本研究では、新型コロナウイルス(CoV-2)側のRBD、およびヒト細胞側のACE2に対する高活性なスーパー抗体酵素(以下、「抗体酵素」と称す)をそれぞれ作製する。次いで、これらを基本ユニットとする機能性ナノ分子を作出し、RBD/ACE2結合状態を壊すことにより、ウイルスの変異に関わらず感染を強力に阻止する計画である。RBD側の抗体酵素は候補を抽出しているので、ACE2を分解する抗体酵素の取得から開始した。今年度の実施内容の概略を以下に示す。 1. ACE2を分解する抗体酵素のスクリーニング:ヒトACE2の24-42配列(標的-1)が、CoV-2のReceptor Binding Domain (RBD)と強く相互作用する。これに加えて63-74配列(標的-2)も、RBDと相互作用する領域である。そこで、標的-1および-2配列のペプチドをFRET修飾し、これを基質として一二三研究室所有の抗体酵素バンクに対するスクリーニングを行った。試験したクローンのなかで、標的-1よりも標的-2に対する分解活性が高かったのは2種類で、残りの7種類は標的-2よりも標的-1に対してより高い分解活性を示した。 2. 既存抗体からのACE2分解抗体酵素の開発:一二三等は既存の抗体に抗原分解活性を付与する革新的手法を見出している(2020年, Sci Adv)。そこで、上述の手法とは別に、既報のACE2に対するモノクローナル抗体のアミノ酸配列を検索し、これを抗体酵素化する計画に取り組んでいる。可能性のある抗体を数種類見出した。 3. 既存抗体からのRBD分解抗体酵素の開発:CoV-2については、RBDを認識する中和抗体が多数報告されている。そこで、上記ACE2と同様に、既報の中和抗体配列を使った抗体酵素の作製を計画した。候補の一つについて、コンストラクトの作製を終えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本計画は、新型コロナウイルス(CoV-2)およびACE2に対するスーパー抗体酵素の作製を中心に実験を進め、その結果に基づいて、両標的分子(CoV-2およびACE2)を同時に分解できる機能性ナノ分子を作製することを目的としている。初年度(令和5年)の目標は、ヒトACE2に対するスーパー抗体酵素のスクリーニングを行い、希望する性能を有するクローンを特定することであった。ACE2の標的配列としては、24-42配列(QAKTFLDKFNHEAEDLFYQ)と63-74配列(NNAGDKWSAFLKEQST)を用いた。これら領域は共にヘリックス構造をしており、CoV-2のRDBと相互作用をしている部位である。従って、これらのどちらかでも分解すれば、CoV-2とACE-2の結合を防ぐ可能性がある。一二三研究室で所有している抗体酵素バンクにするスクリーニングは順調に進み、複数の候補を抽出した。また、世界で作製された既存の抗ACE2抗体、言い換えると「特異性や親和性などの高い機能が実証されている抗ACE2モノクローナル抗体」を検索し、抗原認識部位の配列や分子モデリングの結果を基に、独自の技術を用いてスーパー抗体酵素に改変する課題にも取り組み、候補を抽出した。 加えて、「抗体をスーパー抗体酵素化する手法」による、既存の抗RBD中和抗体のスーパー抗体酵素化にも取り組んだ。その一部についてコンストラクトの作製まで進めている。これらの結果から総合的に(1)当初の計画以上に進展している、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度(初年度)で、当初予定したACE2を分解するスーパー抗体酵素(以下、「抗体酵素」と称す)の候補が絞れただけでなく、既存のACE2に対するモノクローナル抗体の抗体酵素への改変にも着手した。新型コロナウイルス(CoV-2)に対する抗体酵素は、本研究の申請時点で抗体酵素バンクからの抽出を終えており、ACE2と同様の手法により既存の中和抗体の抗体酵素への改変も進めている。 そこで最終年度(R6年度)では計画通り、CoV-2を分解する抗体酵素とACE2を分解する抗体酵素の両者の可変領域を遺伝子工学的にLinkerで繋いで、機能の異なる2種類の抗体酵素を繋げた機能性ナノ分子の設計と合成に取りかかる。二つの抗体酵素を繋ぐことで立体的障害が発生して上手く機能出来ないケースや、人工的なコンストラクトであるために、発現が上手く進まない可能性もある。そこで、複数の組み合わせでコンストラクトを設計・作製して、大腸菌による発現を試みる。現行の発現系では不溶化し、十分量の精製タンパク(機能性ナノ分子)が得られない場合には、機能性ナノ分子配列の前に可溶性への移行を促す配列を導入するなど、発現系の改良を試みる。大腸菌での発現そのものが困難な場合には、哺乳類などの別の発現系を試す。 機能性ナノ分子取得後には、ただちに本研究の主目的であるCoV-2とACE2の結合阻害実験に取り組む。分子間相互作用解析装置を用いて、阻害の程度を定量的に解析する。この実験に用いるrecombinant抗原の一部はすでに購入済みである。この実験に続いて、ウイルスを用いる感染阻害実験まで漕ぎ着けたい。
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