研究課題/領域番号 |
23K17988
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分38:農芸化学およびその関連分野
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
西村 慎一 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (30415260)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | 微生物 / 分裂酵母 / コミュニケーション / 揮発性分子 |
研究開始時の研究の概要 |
分裂酵母の特定の変異株は窒素カタボライト抑制条件や栄養素が制限されている合成培地では増殖を示さず、近傍に野生株が共存すると生育を示す(適応生育)ことがある。この現象は細胞間の物理的接触を要しないことから、物質の分泌・授受が想定される。興味深いことに分裂酵母の適応生育はバクテリアによっても引き起こされ、寒天培地を分断しても観察されることがある。すなわち微生物に普遍的な揮発性コミュニケーション分子の存在が示唆されている。本研究では、当該揮発性コミュニケーション分子の探索・同定を行い、その作用機序を解明することで、異種微生物間のコミュニケーションの分子基盤を理解することを目的とする。
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研究実績の概要 |
真菌や放線菌を含む微生物は多様な代謝物を産生し、人類はそれらから多くの抗生物質を見出し、恩恵を受けてきた。一方で、微生物は環境中では様々な相互作用をしており、抗生関係だけでなく、共生・寄生関係を結ぶことで生存していると想定される。しかし一般に、異種微生物間の共生関係に関して、その分子レベルでの理解はほとんど進んでいない。このような背景のもと、本研究は(1)微生物間相互作用ではたらく揮発性コミュニケーション分子の同定、(2)その作用機序および生理機能の解明、さらに、(3)医療や生物生産への応用可能性の探索を目的とする。本年度は分裂酵母Schizosaccharomyces pombeを研究材料として用い、特に(1)にフォーカスして研究を進めた。その結果、分裂酵母のある遺伝子変異株は合成培地上で単独では増殖しないが分裂酵母野生株の共存下で増殖の回復を示すこと、野生株の増殖誘導能力は培地成分やストレス条件に依存すること、バクテリアによっても増殖回復を示すこと、などを見出した。また(1)(2)の推進基盤としてのゲノムワイドスクリーニングを構築中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の開始直前に申請者の異動があり研究進捗は満足なものとは言えない状況であるが、次年度に向けて下記の研究成果を取得している。本研究は(1)微生物間相互作用ではたらく揮発性コミュニケーション分子の同定、(2)その作用機序および生理機能の解明、さらに、(3)医療や生物生産への応用可能性の探索を目的とする。本年度は分裂酵母Schizosaccharomyces pombeを研究材料として用い、特に(1)にフォーカスして研究を進めた。これまでに3400余りの分裂酵母の遺伝子破壊株コレクションから、合成培地上で単独では増殖しないが分裂酵母野生株の共存下で増殖の回復を示す複数の遺伝子破壊株を特定している。それらの中から、野生株の気相により顕著に増殖回復を示す株を選抜し、培養条件の影響を検討した。すると、特定のアミノ酸やペプチドの添加、ストレスの存在によって野生株の気相の増殖回復能が上昇することを見出した。また、特定した分裂酵母の遺伝子破壊株は無作為に選出したグラム陽性バクテリアおよびグラム陰性バクテリアによっても増殖回復を示した。しかし興味深いことにコロニー間の距離によって増殖回復だけでなく増殖の抑制も観察され、作用の異なる複数種の揮発性分子の存在が示唆された。あるいは、濃度によって効果の異なる揮発性分子の可能性もある。また(1)(2)の推進基盤としての網羅的スクリーニングの実験系を構築中であり、次年度における揮発性分子の絞り込み、特定、作用機序の解明に繋げたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で目的とする(1)微生物間相互作用ではたらく揮発性コミュニケーション分子の同定、(2)その作用機序および生理機能の解明、さらに、(3)医療や生物生産への応用可能性の探索を行うため、次年度はまず、構築中のゲノムワイドスクリーニングを実施する。それにより細胞間コミュニケーションで働く揮発性分子の生産・分泌経路を絞り込み、初年度に取得した結果と統合的に解析することでコミュニケーション分子を特定する。一方で、揮発性分子による増殖回復のメカニズムを解明するため、最も顕著な増殖回復を示す分裂酵母遺伝子破壊株を用いて、増殖回復を誘導する一次代謝物を探索する。当該遺伝子破壊株が欠損あるいは機能低下をおこしている代謝経路を見極め、揮発性分子の作用経路を解析する。(3)に関しては、環境中の微生物に対して揮発性コミュニケーション分子を暴露し、当該分子の存在下で増殖を見せる微生物の探索を試みる。
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