研究課題/領域番号 |
23K18006
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分38:農芸化学およびその関連分野
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
渡辺 大輔 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 准教授 (30527148)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 3,510千円 (直接経費: 2,700千円、間接経費: 810千円)
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キーワード | 植物-微生物間相互作用 / クチクラ層 / ω-ヒドロキシ脂肪酸 / 酵母 / トランスポーター / Rhodotorula属酵母 / アシル-CoA合成酵素 |
研究開始時の研究の概要 |
陸上植物の表面を覆うクチクラ層は、外界から植物との共生または植物への侵入を試みる微生物にとって第一の相互作用の場となる。我々は、植物表面に常在する非発酵性酵母がクチクラ層を分解し、主要分解産物であるω-ヒドロキシ脂肪酸を選択的に利用して生育する能力を有することを見出した。本研究では、独自に単離したω-ヒドロキシ脂肪酸資化性酵母を用い、植物と微生物から成る生態系の構築における最重要分子としてのω-ヒドロキシ脂肪酸トランスポーターを同定し、発酵食品製造や植物防疫などにイノベーションをもたらすための分子基盤を確立することを目的とする。
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研究実績の概要 |
陸上植物の表面を覆うクチクラ層は、外界から植物との共生または植物への侵入を試みる微生物にとって第一の相互作用の場となる。我々は、植物表面に常在するRhodotorula属酵母がクチクラ層を分解し、主要分解産物であるω-ヒドロキシ脂肪酸を選択的に利用して生育する能力を有することを見出した。本年度は、まず本研究課題の目的であるω-ヒドロキシ脂肪酸トランスポーターの同定を行うための酵母種の選定を実施した。入手可能なRhodotorula属酵母標準株全27種をω-ヒドロキシパルミチン酸を単一の炭素源とする最少培地中で培養した結果、12株(44%)が良好な生育を示した。このうちゲノム解読済みであるRhodotorula toruloidesを用いて、グルコース、パルミチン酸、ω-ヒドロキシパルミチン酸を単一の炭素源とする最少培地中で培養した酵母菌体からトータルRNAを調製し、RNA-seq解析に供した。遺伝子発現プロファイルを比較し、ω-ヒドロキシパルミチン酸最少培地において特異的に10倍以上の高発現を示す23個の遺伝子群を抽出した。ほとんどの遺伝子が脂肪酸の分解および代謝に関わるものであったが、その中でも特に脂肪酸代謝経路の初発反応を担うアシル-CoA合成酵素(ACS)遺伝子に着目した。ACSは、外部から取り込んだ脂肪酸をアシル化しβ酸化に供する酵素であるが、脂肪酸トランスポーターとしての機能を有するものも報告されている。R. toruloidesの6種類のACSオルソログのうち、RtFAT1、RtFAA2と名付けた2種類の遺伝子が、RNA-seq解析結果と矛盾することなくω-ヒドロキシパルミチン酸最少培地において発現誘導を示すことを、qRT-PCR解析により明らかにした。これらの遺伝子が、本研究課題にて探索を行うω-ヒドロキシ脂肪酸トランスポーターの有望な候補であると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究課題にて探索を行うω-ヒドロキシ脂肪酸トランスポーターの有望な候補として、酵母Rhodotorula toruloidesに由来するRtFAT1およびRtFAA2遺伝子を見出すことができた。当初の研究実施計画時点では全く知見のなかった候補遺伝子に到達することができ、今後の解析に向けての鍵を握る手掛かりを得られたという点で、ここまでの研究は順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の研究実施計画に従い、候補遺伝子の機能や意義に関する解析を実施する予定である。まず、候補遺伝子の破壊株をゲノム編集技術により作製し、ω-ヒドロキシパルミチン酸最少培地での生育やω-ヒドロキシパルミチン酸の取込みに及ぼす影響を調べることで、実際に候補遺伝子がω-ヒドロキシ脂肪酸トランスポーターとしての役割を有することを証明する。破壊株が構築できるまでの間に、既知の長鎖脂肪酸トランスポーターの基質結合ポケットを構成するアミノ酸残基との比較も進めることで、ω-ヒドロキシ脂肪酸トランスポーターに関する構造生物学的な知見も得ていきたい。さらに、構築した破壊株をクチクラ層の豊富な植物体の表面に接種し微生物叢解析を行うことで、ω-ヒドロキシ脂肪酸トランスポーターが植物表層における酵母の常在性にどの程度貢献しているのかに関する理解を深める。以上の研究を通して、我々が独自に単離したω-ヒドロキシ脂肪酸資化性酵母から、ω-ヒドロキシ脂肪酸トランスポーターの分子的実体とその意義を解明するに至る。本研究の進展により、植物-微生物生態系の構築原理を解明し、発酵食品製造や植物防疫などにも資する知見が得られると期待される。
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