研究課題/領域番号 |
23K18013
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分38:農芸化学およびその関連分野
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
原島 俊 崇城大学, 生物生命学部, 特任教授 (70116086)
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研究分担者 |
浴野 圭輔 崇城大学, 生物生命学部, 教授 (30310030)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2024年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 出芽酵母 / 倍数性 / 低次倍数体化 / 細胞サイズ / 超高次倍数体 / 酵母 / ゲノムの安定性 / 異数体 |
研究開始時の研究の概要 |
なぜ4倍体のヒトは存在しないのか。なぜがん細胞の多くが高次倍数体であるのかなど倍数性は基礎生命科学・医学における重要課題のひとつである。一方、酵母や小麦などの産業(微)生物では、しばしば高次倍数体が知られており、有用形質の発現には倍数性が重要な役割を果たしていることが認識されつつある。申請者らは、これまでの研究によって出芽酵母の高次倍数体を自在に育種できる新しい技術を開発し、倍数性研究に新しい道を開くことができた。本研究では、この技術がなければこれまで挑戦できなかった以下の2つの課題、i) どこまで高次の倍数体を育種できるか(課題1)、ii) 倍数性の限界を規定する因子は何か(課題2)に挑戦する。
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研究実績の概要 |
ヒトなど哺乳動物が2倍体であることはよく知られている。それに対しイチゴ(8倍体)やバナナ(3倍体)など多くの植物には多様な倍数体が存在する。なぜ4倍体のヒトは存在しないのかなど、倍数性は多くの謎を含む挑戦的な課題である。本研究の目標は、酵母を材料に、倍数性を決めている因子を明らかにすることにある。 酵母のa、α細胞は接合してa/α細胞となる。a/α細胞は接合能を示さない。しかし、申請者らは、a細胞と接合しても、なおα接合能を付与できる特異な変異(α2-102変異と命名)を世界で初めて分離した。この変異を利用すれば、同一菌株間で繰り返し交雑が可能であり、超高次倍数体を育種できる。そこで初年度には、どこまで高次の倍数体を育種できるかに挑戦した。その結果、a型1倍体から出発し、これまでに64倍体までの高次倍数体を育種することができた。しかし倍数性が高くなると小さな細胞が出現し、FACS解析などにより、高次倍数体では高頻度で低次倍数体化が起こっていることが明らかになった。その機構を明らかにするため倍数性が安定に維持される変異株を分離することにした。 倍数性が上昇すると染色体の正確な分配が低下することが示唆されているので、それが起こらない変異株を5-FOA感受性法を利用して(方法1)8倍体から4株分離した。しかし、それらの細胞は、低次倍数体化した細胞であることがわかった。従って、目的の変異株ではなく、低次倍数体化したために、見かけ上染色体均等分配の正確度が上昇した細胞であった。そこで次に、コロニーサイズが増殖速度と細胞の大きさによって決まることに着目した。増殖が制限される低栄養培地(方法2)、および銅含有培地(方法3)を利用して、16倍体から、コロニーサイズが大きいものをスクリーニングした。それらのコロニーから顕微鏡観察により大きな細胞から構成されるものを選択した。その結果、2株の変異株候補を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3通りの方法論で高次倍数性を安定に維持できる目的の変異株(低次倍数体化しない変異株)の分離を試みた。しかし、染色体の均等分配頻度を利用して分離した変異株候補が目的の変異株ではなく、低次倍数体化したために、見かけ上均等分配頻度の正確度が上昇したものであったことは想定外の結果であった。一方、増殖速度が制限される培地で、目視的に、コロニーサイズが大きいものをスクリーニングし、その中から、サイズが大きい細胞から構成されるものを少なくとも2株見出した。この結果は、期待のもてるものであると考えている。また、この結果から、今後の研究の推進方策のところで記載したが、染色体の均等分配あるいは不均等分配を指標とする変異株のスクリーニングではなく、大きな娘細胞を出芽し続ける変異株を分離する方法論が、倍数性が安定に維持される変異株を分離する方法論として適切であることを認識した。具体的な方法論は、次項で記述するが、このことは大きな成果のひとつであったと考えている。これが研究がおおむね順調に進展していると判断した理由である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に分離した2株の変異株候補について、まず細胞サイズが有意に8倍体より大きいかどうかを解析する。同時に、染色体の均等分配頻度を測定する。さらに低次倍数体化が真に抑制された変異株かどうかを、FACS解析により明らかにする。 次に、全く新しい方法論、すなわち、高次倍数体でもゲノムが安定に維持される(低次倍数体化しない)変異株を、"小さなサイズの娘細胞を生み出さない変異株"として分離することを試みる。そのため、比較的倍数性が安定なa型4倍体株(a型を示す)と、それにα2-102変異を持つプラスミドを導入した4倍体株(α型を示す)を交雑し、8倍体雑種(a/a[α2-102])を取得する。8倍体雑種は、α2-102変異の存在によりα型を示す。しかし、もし出芽時に、プラスミドが脱落した娘細胞が出芽すれば、それはa型を示すので、物理的にすぐ隣に存在する母細胞(α型を示す)と接合し、もともとの8倍体より大きなサイズの細胞が生成すると期待できる。静置培養中に、一定頻度で、こうした反応が起こるので、一定期間(24時間)静置培養を続ければ、細胞集団中に大きな細胞が増えてくることが期待できるであろう。もちろん目的の変異株でなければ小さな細胞も生み出し続ける。しかし、8倍体の細胞サイズ(平均15μm)より大きいpore sizeを持つfilter を利用してfiltrationを行えば、filter上に、本来の8倍体より大きなサイズの細胞を捕捉できると考えられる。こうした操作を数回繰り返したあと、filterを無菌的に取り外し、filter上に捕捉された8倍体より大きな細胞を変異株候補集団として回収する。それらの細胞集団を培養後、適当に希釈してプレーティングし、単一細胞よりコロニーを形成させる。それらのコロニーを構成する細胞のサイズを解析し、小さな細胞が出現していないかどうかによって真に目的の変異株かどうかを判断する。
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