研究課題/領域番号 |
23K18040
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分40:森林圏科学、水圏応用科学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤田 雅紀 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (30505251)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2025年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2024年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | クオラムセンシング / オートインデューサー / メタゲノム / インドール |
研究開始時の研究の概要 |
単細胞生物が協調して機能を発現し、有利に生存する仕組みであるクオラムセンシングは多くの微生物に保存される重要な機構である。クオラムセンシングはそれぞれの微生物に固有のオートインデューサーと呼ばれるシグナル物質を介して起きる。一方、我々がメタゲノムから見出した新規インドール誘導体は複数の微生物に対して、固有のオートインデューサーより一桁強い活性を示した。また、本物質は構造的特徴からほぼ全ての細菌が生産可能な物質と考えられる。すなわち、本物質を介した未知の他種微生物間相互作用が存在する可能性があり、また本物質は多種の微生物に対する機能誘導剤になる可能性がある。本研究でhあそれらの可能性を検討する。
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研究実績の概要 |
微生物は同種細胞密度を感知して様々な機能発現を制御するクオラムセンシング機構(QS)を有する。これまでQSは同種細胞にのみ機能し、異種間の相互作用は認識されていなかった。しかし、我々が見出した新規インドロキナゾリン化合物であるQAI-1は、本来の誘導物質(オートインデューサー、AI)が異なる複数のレポーターアッセイ系において、本来のAI以上のQS活性を示した。また、自身ではAIを生産せず、他者からAIを受容すると考えられるLux-soloと呼ばれる細菌が、環境中細菌の7割を占めると報告されている。そこでQAI-1が多くの菌種に対して普遍的に作用するのであれば、LuxR-soloを含め様々な細菌に対する汎用的な微生物機能誘導剤として利用できるのではと考え、その実現可能性を検討した。 ①レポーターアッセイによる有効範囲の検討 それぞれC10-AHLとC6-AHLを本来の基質とするC. violaceun VIR24とS. marcescens AS-1に対してQAI-1を作用させたところ、10 pmolの処理でレポーター活性であるviolaceinの産生が認められた。一方でS. marcescens AS-1Δに関しては、約250 nmolのQAI-1添加によってもレポーター活性であるprodigiosinの産生が認められなかった。これまでレポーターアッセイを行った5株の中で、初めて活性を示さないものを見出した。 ②遺伝子発現スクリーニング法の確立 環境から分離した野生菌株に対する機能発現試験を実施した。野生分離株はどの様な機能がQSで制御されているのかなど全く不明である。そこで、簡便に多検体を試験可能なシデロフォアと抗酸化物質および緑膿菌のQS表現型として知られるバイオフィルム産生試験を確立した。また、150検体を試験したところ73株に何らかの表現型変化が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では大きく分けて、QAI-1がなぜ多くの菌種で活性を示すのか(活性発現機構)、環境中でもなんらかの生態学的機能を有するのか(生態学的意義)、そして汎用的な微生物機能誘導剤として機能するのかという(生物工学的利用)の3つのテーマから成り立っている。初年度は主に生物工学的利用について検討を進め多くの成果を得ている。また活性発現機能についても需要な知見を得ることができた。これらの事から研究計画はおおむね順調に進展しており、以下に詳細な理由を示す。 ①レポーターアッセイによる有効範囲の検討 今回の検討において本来C6-AHLを基質とするS. marcescens AS-1ΔのAHL受容体はQAI-1を基質として認識していないとする結果が得られた。これはQAI-1が全てのAHL受容体のアゴニストとして作用するわけではないことを示す初めての例であり、構造生物学的な検討を行う上で重要な知見を与えるものである。また、さらなる検討からアンタゴニストとしての機能についても否定的な結果であり、受容体に結合していないことが示唆されている。 ②遺伝子発現スクリーニング法の確立 他種のAIを検出する理由として、敵対菌の存在の検知という生態学的理由が推測される。敵対菌への応答として、重要栄養素である鉄の確保、酸化物質からの防御、バイオフィルム形成による薬剤耐性さらに反撃的応答である抗菌物質の産生が予想される。それらを96穴プレートという共通フォーマットで簡便に検出できる系を構築し、約73株の植物バイオフィルム由来の菌に対してスクリーニングを行った。その結果、35株という約半数の菌において表現型変化を見出している。これはQAI-1が多くの菌に対して作用するとともに、様々な表現型を制御する可能性を示すものであり、本物質の有用性を示唆する結果であった。
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今後の研究の推進方策 |
①表現型スクリーニングの継続 本年度は湖沼から採取した水草バイオフィルム由来細菌のみを対象としていた。次年度は海洋環境や土壌を含めたより広範囲な細菌を対象にスクリーニングを行う。また、本年度抗生物質生産菌スクリーニング技術を確立したので、今後は広くスクリーニングを行う。 ②トランスクリプトーム解析 QSで制御される表現型については事前に推測することが難しく、上記スクリーニング系では検出できない可能性も高い。そこで、トランスクリプトーム解析を行い遺伝子発現レベル全ての遺伝子発現制御を検出する。まずは、表現型のわかっている系を用いて本方法論の実現可能性と課題を調べる予定である。 ③ヒット株のゲノム解析と生産物の同定 本年度のスクリーニングでシデロフォアあるいは抗酸化物質産生スクリーニングでヒットしたものについて、ゲノム解析を行い生合成遺伝子の検出を行う。得られた情報に基づいて生産物を予測し、また活性を指標に生産物の精製を行う。さらに、質量分析や核磁気共鳴等の機器分析によりその構造を決定する。 ④微生物叢への影響解析 微生物群衆に対してQAI-1を作用させた際に、有利に働く種はその割合を増やし、不利に作用する種は減少するはずである。また、細菌叢に影響しなければ細菌構成は変わらないはずである。実際に生物共生細菌叢等にQAI-1を作用させ生態系における機能を有するのかを調べるとともに、変化があった場合はメタゲノム解析からその原因を推測する 。 ⑤構造生物学的解析 QAI-1が結合しないと推測されるAHL受容体を見出したことにより、本物質が機能する範囲を推定するための情報が得られた。そこでIn Silicoによる解析を進めるとともに、タンパク質の発現系を構築し、X線結晶構造解析のための準備を進める。
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