研究課題
挑戦的研究(萌芽)
アブラナ科作物のF1種子生産には自家不和合性形質は効率的であるが、純系種子の大量生産時には、自家不和合性打破のために、ビニールハウス内での5% CO2処理が必須である。大気中濃度の100倍以上のCO2暴露・放出による採種体系からCO2排出を伴わない環境調和型採種技術の構築は低炭素社会実現に向けた挑戦的研究である。本研究では自家不和合性打破を細胞間の膨圧調節と捉え直し、類似の生理現象との比較から特定の薬剤処理が不和合性打破のコア分子と考え、薬剤処理の作用機序を解明し、その作用点に機能阻害をもたらす低分子化合物を同定し、農薬のような施用の可能も探る。
ハクサイ、キャベツを含むアブラナ科作物は我が国の主力露地野菜であり、国内野菜生産量の30%を超える。この生産を可能にしているのは北海道から沖縄県まで栽培可能、かつ周年出荷に対応した多様な品種であり、種子生産額だけで270億円に達する。このようにアブラナ科作物は種苗産業にとって重要な位置を占め、同時にスムーズな新品種開発と安定的種子提供は農家経営にも重要である。アブラナ科作物に限らず、現在の野菜品種の大半はF1雑種育種法で生産される。遺伝的に異なる純系間の交雑により両親の優良形質を継承でき、雑種強勢も現れることから、F1種子を用いた野菜栽培が農家経営を支えている。F1種子生産にはアブラナ科作物が有している自己花粉と受精できない自家不和合性形質は効率的であるが、純系種子の大量生産時には、自家不和合性打破のために、ビニールハウス内での5% CO2処理が必須である。大気中濃度の100倍以上のCO2暴露・放出による採種体系からCO2排出を伴わない環境調和型採種技術の構築は低炭素社会実現に向けた喫緊の課題であり、これまでの採種体系を大きく変更できるゲームチェンジングで、挑戦的な研究である。本研究では従来の5% CO2処理という環境高負荷型採種・作物生産体系からの脱却を目指し、これまで着目されていないジエチルエーテルが有する「膨圧調節」に着目し、自家不和合性の新規な打破手法、作用機序、知財活用の可能性を探る。初年度は自家不和合性打破に対するジエチルエーテル処理の可能性を探るとともに、本文や関連知財の検討を行った。
3: やや遅れている
遺伝的背景の異なるBrassica rapaを材料として、受粉前後の異なるタイミングでジエチルエーテルを室温での気化により処理した。初期の予想とは異なり、自家不和合性が打破され、花粉管侵入は観察されなかった。一方で、花粉吸水、花粉管発芽の促進は観察された。処理方法が充分でない可能性があることから、類似の実験を参考にして、閉鎖系の構築などを再検討する必要性が出てきたことから、研究そのものがやや遅れていると判断した。上記のような結果になったことから、生化学的な実験の基礎的なことは実施したが、目的とするタンパク質間相互作用などは次年度以降の課題とした。また、知財としての価値があるかについては、関連現象について調査し、次年度以降も調査を継続することとした。
他植物の異なる現象で「ジエチルエーテル」処理効果があることから、自家不和合性の打破に効果があるという挑戦的な研究に取り組んだが、想定された効果が見出されなかった。今後の研究の推進方策として、「ジエチルエーテル」処理方法の再検討、「ジエチルエーテル」以外の物質による打破の検討を優先事項として取り組む。あるいは、花粉吸水、花粉発芽には効果があることから、この現象に影響を与えている遺伝子の調査を試みる。それ以外については、計画に沿って研究を推進する。
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