研究課題/領域番号 |
23K18062
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分41:社会経済農学、農業工学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
橋本 渉 京都大学, 農学研究科, 教授 (30273519)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2023年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
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キーワード | ブルーカーボン / アルギン酸 / ラミナリン / マンニトール / レアメタル / 海洋微生物叢 / バイオ燃料 / バイオプラスチック / 窒素固定 / 生分解性プラスチック |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、広大な排他的経済水域をもつ日本の特性を活かし、エタノール生産菌、海洋細菌、及び窒素固定細菌を用いて、ブルーカーボンとレアメタルを含む褐藻類からバイオ燃料やバイオプラスチック素材の生産、及びレアメタル回収を可能とする基盤技術を確立する。この「褐藻類」標的型微生物発酵モデルは、「グリーンカーボン」のみならず「ブルーカーボン」も代替エネルギー資源としての利用の途を開き、かつハーバー・ボッシュ法よりも環境に優しい細菌によるアンモニア(次世代エネルギー)生産を達成することにつながる。
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研究実績の概要 |
大気中に放出されたCO2の吸収に関して、陸上での固定炭素(グリーンカーボン)よりも海洋での固定炭素(ブルーカーボン)が多いと報告されている。本研究では、微生物を用いて、ブルーカーボンの貯留源の代表例であり且つレアメタルを含む褐藻類を対象に、その主要なブルーカーボン(糖類:アルギン酸、ラミナリン、マンニトール)からの有用物質生産とレアメタル回収を可能とする基盤技術の確立を目指す。今年度は以下の成果を得た。 アルギン酸資化性Sphingomonas属細菌A1野生株と合成生物学的に育種したエタノール合成性A1改変株は、褐藻類藻体を単一炭素源とする最少培地で生育した。A1野生株とは異なり、A1改変株は菌体外にバイオ燃料(エタノール)を分泌生産した。培養条件を検討した結果、A1改変株は顕著にエタノールを生産した。A1株はラミナリンを資化しないため、海洋微生物叢のラミナリン資化性を菌叢解析により評価した結果、Pseudoalteromonas属細菌が優占することを見いだした。 窒素固定細菌は、大気中の窒素を直接利用でき、次世代エネルギーとして注目されているアンモニアを生産できる。バイオプラスチック素材(ポリヒドロキシ酪酸:PHB)を生産する窒素固定細菌Azotobacter vinelandiiならびに新たに分離したAzotobacter tropicalisを対象にマンニトールからのPHB生産を比較した。その結果、両株ともマンニトールからPHBを生産し、A. tropicalisの方が著量生産することがわかった。 A1株の細胞表層タンパク質(Algp7: EfeOII)は、金属(鉄)輸送Efe系(EfeUOIBOII)を構成し、種々のレアメタルと結合する。そこで、レアメタル(サマリウム)含有培地でA1株を培養したところ、A1株はアルギン酸存在下で顕著にレアメタルを回収した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルギン酸資化性且つエタノール合成性のSphingomonas属細菌A1改変株を用いることにより、当初の計画通り、ブルーカーボンであるアルギン酸を豊富に含む褐藻類からバイオ燃料(バイオエタノール)を生産することを達成した。一方、A1株はラミナリン(ブルーカーボン)を資化できないため、塩耐性を示す海洋微生物叢を対象にラミナリン資化性を評価し、ラミナリンから有用物質を生産するために必要な海洋微生物叢の挙動に関する新たな知見を得た。 A1株はブルーカーボンであるマンニトールも資化できない。そこで、環境・エネルギー分野で注目されている窒素固定細菌(大気窒素をアンモニアに変換できるAzotobacter vinelandii)を用いて、マンニトールからの有用物質生産を解析した結果、バイオプラスチック素材(ポリヒドロキシ酪酸:PHB)を合成することができた。さらに、新たにスクリーニングにより取得した窒素固定細菌Azotobacter tropicalisがA. vinelandiiより著量のPHBを生産することを見いだした。 レアメタル回収能を示すA1株に関して、レアメタル結合タンパク質(Algp7: EfeOII)が構成要素となる金属(鉄)輸送Efe系(EfeUOIBOII)の分子機構の解明が必要であるが、膜輸送体であるEfeUの発現が困難であった。そこで、同様の分子機構をもつ大腸菌(Escherichia coli)のEfeUを対象とした解析に着手したところ、EfeUの発現ならびに精製系を構築することができた。これは、未解明であるEfeUの立体構造について、EfeUとEfe系全容の構造機能相関を明らかにする研究の端緒となる成果である。 以上の通り、本挑戦的研究は順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
微生物を用いて、褐藻類の主要なブルーカーボン(糖類:アルギン酸、ラミナリン、マンニトール)からの有用物質生産とレアメタル回収を可能とする基盤技術の確立を目指すため、各微生物の分子機構を解析する。 Sphingomonas属細菌A1株はアルギン酸ならびに褐藻類に接近することから、正の走化性を示す。走化性を付与したエタノール合成性A1改変株はアルギン酸からのエタノール生産を早める予備的成果を得ているため、バイオ燃料の効率的生産には原料にいち早く接近することの重要性が示唆される。そこで、A1株のアルギン酸走化性発現機構を解析する。具体的には、A1株のアルギン酸認識に関わるタンパク質を明らかにし、走化性発現に関わるトリガー分子を特定する。 ラミナリンの利活用を進めるため、海洋微生物叢よりラミナリン資化性微生物を単離する。すでに、資化性微生物候補として、Pseudoalteromonas属細菌を単離している。ラミナリンから有用物質を生産させるため、本細菌の性状を明らかにする。 窒素固定細菌Azotobacter tropicalisがAzotobacter vinelandiiと比較して、マンニトールから著量のバイオプラスチック素材(ポリヒドロキシ酪酸:PHB)を生産する。そこで、A. tropicalisのゲノム解析を進め、PHBの効率的生産に関わる遺伝的要因を明らかにする。 レアメタル回収に関して、金属輸送Efe系(EfeUOIBOII)の構造機能相関を解析する。特に、未解明の膜輸送体EfeUの立体構造を明らかにする。また、各種細菌のレアメタル回収能を評価し、回収に関わる要因を細胞生物学と分子生物学の観点から解析する。 ブルーカーボンの貯留源である褐藻類のさらなる有効活用を図るため、褐藻類を含む海水の微生物叢変化を調べ、単一微生物のみならず、複合微生物系での有用物質生産に着手する。
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