研究課題/領域番号 |
23K18109
|
研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分43:分子レベルから細胞レベルの生物学およびその関連分野
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
邊見 久 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (60302189)
|
研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
|
キーワード | 膜脂質 / 古細菌 / 生体膜 / メタン生成古細菌 / イソプレノイド / 細胞膜 / 真正細菌 / 生体膜工学 |
研究開始時の研究の概要 |
超好熱菌は特殊な構造の膜脂質を生産し、それにより構成される安定な細胞膜によって極限環境に適応している。本研究では、我々が過去に超好熱性古細菌における生合成経路を解明した延長型膜脂質、および最近生合成酵素が同定された双頭型膜脂質をツールとして用い、モデル生物である大腸菌の細胞膜の特性改変を目指す。具体的には、生合成前駆体の人工的な供給経路の導入などの代謝工学的な手法を用い、超好熱菌の膜脂質を大腸菌に大量生産させ、細胞膜の主成分とすることで、透過性が低く安定な膜を持つ大腸菌細胞が作製できるか検証する。
|
研究実績の概要 |
超好熱性古細菌Aeropyrum pernixに特異的な延長型膜脂質について、近年開発された人工的なイソプレノイド前駆体供給経路であるイソプレノール利用経路を活用した、大腸菌における大量生産系を構築した。最適化の結果、細胞中の全脂質の1割を超えるまで延長型古細菌膜脂質を増産させることに成功した。この延長型古細菌膜脂質大量生産大腸菌株の細胞膜にどのような変化が起きているかを各種検査試薬を用いて検証したところ、対照株と比べて膜透過性がわずかに低下した一方で、膜の流動性については変化がないという結果を得た。大腸菌自体の性質として、培地中に加えた有機溶媒に対する耐性が予備実験では観察されていたため、様々な条件で検査を行ったが、培養条件のわずかな違いなどで結果が異なり、再現性に難があることがわかった。今後、研究方法の再検討を行う必要がある。 常温性のメタン生成古細菌Methanosarcina acetivoransに対し好熱性古細菌由来の膜脂質生合成酵素遺伝子を導入し、発現させることで、同菌には元々存在せず、好熱性古細菌に特有な脂質である大環状古細菌膜脂質、および双頭型膜脂質を合成させることに成功した。これらの膜脂質の生産性や生産比率は導入した遺伝子ごとに異なっており、同酵素の生成物比率の違いが各生物の膜脂質組成を規定している可能性が示唆された。この特異性については、今後の構造機能相関研究の進展も期待される。また、Methanosarcina属のメタン菌は一般的なメタン菌よりも幅広い基質からメタンを生成でき、応用可能性の高い生物である。したがって、これまでに達成された細胞膜中の膜脂質組成の改変によりメタン菌の細胞にどのような影響があるかを、今後明らかにしていく必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腸菌における古細菌膜脂質の大量生産系の構築と、それが細胞膜に与える影響の検証に関しては論文投稿の段階まで漕ぎ着けている。しかし、当初予想されていた大腸菌の有機溶媒耐性の向上については、実験結果の再現性に問題があり、実験方法を再設定することを迫られている。一方で、大腸菌での試みと並行して進めてきた、メタン生成古細菌を対象とした細胞膜のエンジニアリング技術「生体膜工学」の開発に関しては、好熱菌特異的な膜脂質である大環状膜脂質や双頭型膜脂質を常温性の古細菌に作らせることに成功するといった成果が順調に得られている。古細菌の遺伝子操作は難易度が高いため、これは大きな成果である。これまでに遺伝子組換えメタン菌から抽出した各種膜脂質の構造決定と定量を進めており、まずは膜脂質組成の改変についてまとめて論文として報告したいと考えている。膜脂質組成の変化がメタン生成古細菌の生体膜や細胞に与える影響についてはこれまでにごく簡単な試験しか行えていないため、今後は各種試験を行うことを予定している。
|
今後の研究の推進方策 |
大環状膜脂質や双頭型膜脂質を生産するようになった組換えMethonosarcina acetivoransについて、まずは各種検査試薬を使った生体膜の特性評価を行う。同時に、同菌自体の表現系に変化がないかを調査する。メタン菌は酸素に感受性であり、生細胞を用いた試験はきわめて困難であるが、嫌気チャンバーを使うことで酸素に触れない状態での染色や顕微観察に挑戦する。さらに、メタン菌での生体膜工学をさらに推し進め、これまでに成功していない種類の膜脂質のM. acetivoransにおける生産に取り組むことで、改変された細胞膜を有する生物のサンプル数を増やしたいと考えている。また、未同定の膜脂質の構造決定を進め、導入した酵素の違いにより、どのような構造の膜脂質が生産されるようになったかの対応を明確にする。各酵素の結晶構造解析もしくは計算科学による構造モデリングを実施し、生成物である膜脂質の構造と酵素の構造の関連性を調べる。可能であれば酵素の構造を改変することにより、目的とする膜脂質を生産するメタン菌の作製に取り組みたい。
|