研究課題
挑戦的研究(萌芽)
研究代表者および研究協力者らは、神経結合ネットワークが解明されている線虫C.エレガンスを用い、立体観測用の顕微鏡で頭部の全神経細胞の活動を時間を追って測定する4Dイメージングに成功している。さらに、測定した結果をgKDR-GMMというモデルで学習させることにより、神経活動を予測および自動生成することができている。本研究ではこの基盤を拡張し、全脳・全身モデルを構築し、それを用いて計算機上での進化実験を行う。その結果、生まれうる神経系の多様性および共通性を明らかにすることを目的とする。
本研究では、代表者らがこれまでに線虫C. elegans用に構築してきた、頭部全神経の活動を4Dイメージングにて観測するシステムを、全身運動の観測と結びつけ、全脳・全身モデルを構築する。さらにこのシミュレーションモデルを人工進化させ、脳神経系の進化の偶然と必然を明らかにする計画である。2023年度の研究計画に従い、以下の結果を得た。1)前年度までに構築した、立体観測用の顕微鏡で線虫を追尾しつつ頭部の全神経細胞の活動を時間を追って測定する4Dトラッキングイメージング装置にて、実際に自由行動中の線虫から神経活動データを取得し、セグメンテーション、トラッキングを行った。線虫が動いているので、従来のマイクロ流路に固定した場合より難易度が高い。これに伴うさまざまな問題を解決していった。行動指標の定量化のため、線虫がまるまった姿勢を示した場合にでも正確に中心線を取得できるWormTracerを開発し、論文投稿した。2)微小流路に固定した線虫については、前年度までに頭部神経の活動を4Dイメージングで取得し、その結果から各シナプスの伝達強度と特性を算出するgKDR-GMMモデルを開発した。測定結果の神経活動データによってこのモデルを学習させることにより、各シナプスについて、プレシナプス神経の約1分間の神経活動からポストシナプス神経の次の活動を予測することができるようになり、自発的な神経活動を長期にわたりシミュレーションできるようになった。この結果を論文に発表した。3)線虫は蛇行運動により前進するが、特に頭部の周期運動の偏りにより曲がって進む行動が誘起される。これをコントロールすることにより好む方向に進んでいく、化学走性の風見鶏機構が達成される。感覚入力に応じて首の運動神経の活動を変化させ、線虫の頭部が化学走性を行うモデルを構築し、実際にモデル線虫がカーブして好みの方向に進むことを実現した。
3: やや遅れている
4Dトラッキングイメージング装置にて実際に神経活動を取得することはできたが、観測された個々の神経の名前を特定するアノテーションの作業が微小流路に固定した場合より難易度が高く、十分な精度で行うことができなかった。ただし、神経グループの活動パターン(モチーフ)と行動指標を対応付けることは初年度に論文発表したTDE-RICA法により達成できた。一方、gKDR-GMMモデルは現在神経接続の知見を用いてモデリングしているのでアノテーションが必須であり、4Dトラッキングイメージング結果をgKDR-GMMでモデル化するという計画通りには進んでいない。したがって、化学走性の行動モデルはできたものの、神経活動から行動に至るモデルが完成しなかった。
A)4Dトラッキングイメージングについては、神経アノテーションのために開発されたNeuroPAL株を導入中であるので、この株を用いることで解決することを期待している。ただし、この株は野生型株よりかなり動きが悪いことを確認しているので、その点が今後問題になる可能性もある。B)一方、微小流路に固定した線虫の4Dイメージングにおいてはアノテーション付きで神経活動データを取得している。この中で、前進後退(後退は方向転換を伴う)に対応する神経群の活動も特定できている。当初計画を変更して、このモデルを用いて進化実験を行う可能性についても検討する。C)環境中に塩濃度勾配があるバーチャル平面上で線虫に化学走性行動を行わせる(化学走性の行動機構には主にピルエット機構と風見鶏機構があり、これらが相加的に寄与するが、前項Bを採用した場合にはピルエット機構のみのモデルとなる)。D)バーチャル環境中に有害物質も準備し、有害物質受容に関わると知られている感覚神経から受容するようモデルを改変し、複数物質環境中での化学走性を行わせる。E)餌の取得と死滅を含めたサバイバルモデルとして世代を超えたシミュレーションを実施する。F)シナプス除去と新規結合の生成、神経の複製除去を加えた進化モデルとして長期間のシミュレーションを行い進化実験とする。
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