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新しい確率過程モデルを用いた抗原空間上のウイルス進化軌道予測の研究

研究課題

研究課題/領域番号 23K18150
研究種目

挑戦的研究(萌芽)

配分区分基金
審査区分 中区分45:個体レベルから集団レベルの生物学と人類学およびその関連分野
研究機関総合研究大学院大学

研究代表者

佐々木 顕  総合研究大学院大学, 統合進化科学研究センター, 教授 (90211937)

研究期間 (年度) 2023-06-30 – 2025-03-31
研究課題ステータス 交付 (2023年度)
配分額 *注記
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
キーワード抗原連続変異 / インフルエンザウイルス / 新型コロナウイルス / 交差免疫 / 免疫逃避 / 系統樹形 / 多次元尺度法 / ファイロダイナミクス / 進化予測 / 宿主免疫 / ベイズ更新モデル
研究開始時の研究の概要

インフルエンザウイルスは、その表面抗原タンパク質の多数の「可変座位」を急速に進化させることで劇的に進化してきた。このような急速で複雑な進化を予測するために、「ある変異株が流行すると、宿主集団免疫の変化により、それに近いウイルス変異株が広がりにくくなる」ことと、「突然変異でランダムに作られる新しい抗原タイプは、現在の流行タイプに近い」という2つの特徴を取り入れた、確率的なウイルス抗原性進化モデルを提唱する。モデルの解析により、長年の課題であったインフルエンザウイルスの進化予測の困難を解消し、ウイルス進化の軌跡や系統樹分岐の特徴と、その背景に潜むメカニズムを解明する。

研究実績の概要

インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスは、その表面抗原タンパク質の多数の座位を急速に進化させることで宿主免疫から逃避して急速かつ持続的に進化してきた。このような急速で複雑な進化を予測するために、「ある変異株が流行すると、宿主集団免疫の変化により、それに近いウイルス変異株が広がりにくくなる」ことと、「突然変異でランダムに作られる新しい抗原タイプは、現在の流行タイプに近い」という2つの特徴を取り入れた、確率的なウイルス抗原性進化モデルを提唱した。モデルの解析により、長年の課題であったインフルエンザウイルスの進化予測の困難を解消し、ウイルス進化の軌跡や系統樹分岐の特徴と、その背景に潜むメカニズムを解明することを目的に理論的研究を行った。
「病原体と宿主の強い相互作用のもとでの抗原連続変異」という現象に、抗原型と免疫構造のベイズ更新モデルという新しい数理モデルの解析により、超多次元抗原空間上の進化軌道の1次元性が自律的に出現することを示した。また抗原空間上の交差免疫の蓄積のプロセスだけで、多年周期の流行が生じることを明らかにし、その条件を理論的に明らかにした。ウイルス系統樹のトポロジー(樹形)の定量化と、系統樹の樹形からウイルスの疫学的・進化的特徴をどう抽出するかに関しての理論研究を進め、その第一段階として、ウイルスが中立進化する際の系統樹樹形のスケーリング則を明らかにした。また、感受性宿主を取り合って競争するウイルス間の季節適応性の共進化を適応動態モデルを開発し、季節適応性の適応的多様化の条件などを明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

抗原進化予測のためのベイズ更新更新を開発し、低次元抗原空間上の突然変異分布からの新系統の出現と宿主免疫獲得によるウイルス適応度地形の変化のダイナミクスを定式化する。ある年に、低次元抗原空間上のどの点で流行が起こるかは、抗原空間に過去の年の流行型の分布によって決まる宿主免疫地形と、前年の流行型を中心とする突然変異抗原の分布とで決まる。つまり、次の年の流行株は、抗原空間上の宿主感受性の地形によって決まる新しい変異株の定着確率と、既存株からの突然変異株の抗原性の分布を掛け合わせたものが出現株の尤度となる。新しいウイルスが出現した1年目の流行型の近くは宿主集団の感受性が下がるためウイルスにとって不利になり、2年目は1年目の流行タイプの中心は避けるが、突然変異で出現できる程度には近いドーナツ状状の尤度分布から流行株が選ばれやすくなる。3年目には、2年目の流行株の近くの感受性が下がるので、尤度分布は山形の崩れたカルデラ型となり、尤度分布の対称性が破れ、進化軌道に方向性が生まれるはずだと予想された。この予想は解析的、および数値実験で確認され、このモデルによるウイルスの進化軌道を予測する理論的基盤を構築できた。
季節性のあるウイルス流行の多年周期性について、またウイルス系統樹形の定量化とパラメータ依存性、ウイルスの季節適応性をめぐる適応的多様化の理論解析も順調に進んでいる。

今後の研究の推進方策

今後は、ウイルス抗原性進化軌道の進行方向変化の角度の分布や、進化軌道の大きな方向転換が起こるメカニスズムを明らかにする。特に、抗原空間上のウイルス進化軌道が直線的になる理由は、複数年の流行型に対する宿主免疫からのエスケープが抗原空間上の進化方向の対称性を破ることにあるという理論にもとづく仮説を、新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスのデータを用いて検証を試みる。
このモデルの網羅的解析により、ウイルスの系統樹におけるクレード分岐条件や絶滅条件などに関する定量的かつ実証的な予測が可能になれば、様々なウイルスの亜型の存続や分裂、消滅等のマクロレベルの進化予測に役立つことが期待されるので、デングウイルスや、パラインフルエンザ、インフルエンザB型など、インフルエンザA型や新型コロナウイルスと異なる進化パターンをみせるウイルスのデータを用いて理論とのフィードバック的な解析を行う。また、ウイルスの進化予測にもとずく有効なワクチン株の提言を試みる。

報告書

(1件)
  • 2023 実施状況報告書
  • 研究成果

    (16件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 4件) 備考 (5件)

  • [雑誌論文] Evolution of parental care in haploid?diploid plants2024

    • 著者名/発表者名
      Bessho Kazuhiro、Sasaki Akira
    • 雑誌名

      Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences

      巻: 291 号: 2016 ページ: 20232351-20232351

    • DOI

      10.1098/rspb.2023.2351

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] The Adaptation Front Equation Explains Innovation-Driven Taxonomic Turnovers and Living Fossilization2023

    • 著者名/発表者名
      Ito Hiroshi C.、Sasaki Akira
    • 雑誌名

      The American Naturalist

      巻: 202 号: 6 ページ: E163-E180

    • DOI

      10.1086/727046

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 種内の相加遺伝分散・共分散の変化を伴う装飾形質のオス二型の進化2024

    • 著者名/発表者名
      森田慶一、大槻久、佐々木顕
    • 学会等名
      日本生態学会年会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 病原体と宿主の共進化ゲーム2024

    • 著者名/発表者名
      佐々木顕
    • 学会等名
      ゲーム理論ワークショップ
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 招待講演
  • [学会発表] 空き地を伴う有限集団における固定確率 - 低出生率低死亡率戦略の有利性2023

    • 著者名/発表者名
      別所和博、佐藤一憲、佐々木顕
    • 学会等名
      日本数理生物学会大会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 有限集団 における協力の進化の2/3則: 集団サイズが遺伝子頻度に依存する効果2023

    • 著者名/発表者名
      佐々⽊ 顕
    • 学会等名
      日本数理生物学会大会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 共生系における進化的心中2023

    • 著者名/発表者名
      内海邑、佐藤正都、佐々木顕
    • 学会等名
      日本数理生物学会大会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 大型種は適応進化が遅いせいで更に大型化する2023

    • 著者名/発表者名
      伊藤洋、佐々木顕
    • 学会等名
      日本数理生物学会大会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] Mathematical Models Describing Evolutionary Immune Escapes of Pathogens2023

    • 著者名/発表者名
      Akira Sasaki,
    • 学会等名
      6th Workshop on Virus Dynamics
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 病原体の進化に挑む:数理生物学の挑戦2023

    • 著者名/発表者名
      佐々木顕
    • 学会等名
      数理生物学夏の学校 2023
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 招待講演
  • [学会発表] Evolution of pathogens in heterogeneous host metapopulation2023

    • 著者名/発表者名
      Akira Sasaki
    • 学会等名
      京都賞シンポジウム
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 国際学会 / 招待講演
  • [備考] 適応進化の時計は辺境ほどゆっくりと時を刻む

    • URL

      https://www.soken.ac.jp/news/2023/20231030.html

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [備考] 生態系における種を超えた協力関係は絶滅へ向かう逆説的な適応進化をもたらす

    • URL

      https://www.soken.ac.jp/news/2022/20230210.html

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [備考] 免疫不全宿主の存在がウイルスの免疫逃避を加速する

    • URL

      https://www.soken.ac.jp/news/2022/20221122.html

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [備考] 免疫やワクチンからの逃避を繰り返す病原体は高い病原性を進化させる

    • URL

      https://www.soken.ac.jp/news/2021/20220117.html

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [備考] 植物だって子育てに悩んでます!?

    • URL

      https://www.soken.ac.jp/news/2023/20240311.html

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書

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公開日: 2023-07-04   更新日: 2024-12-25  

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