研究課題/領域番号 |
23K18182
|
研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分47:薬学およびその関連分野
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
加藤 将夫 金沢大学, 薬学系, 教授 (30251440)
|
研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2025年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
|
キーワード | 膜輸送体 / 神経脱落 / 運動神経 / アデノ随伴ウイルス / 薬物排出 |
研究開始時の研究の概要 |
Multidrug resistance associated protein (Mrp)は薬物等を細胞外へ排出する膜輸送体である。我々の予備検討において、MrpXに対するshRNAを搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV)をマウス小脳に投与し神経特異的にknockdown したところ、神経細胞の脱落と顕著な筋力低下が見られた。神経脱落は神経変性を伴う筋力低下を示すヒト疾患にも類似した。そこで本研究は、MrpX発現低下による神経脱落と運動機能低下の機序を解明し、MrpXの発現低下を体液から評価可能なバイオマーカーを見出す。本研究は神経変性疾患の原因解明を目指す臨床研究の前段階に位置づけられる。
|
研究実績の概要 |
薬物排出膜輸送体であるmultidrug resistance-associated protein (MRP) familyの中でも神経細胞における発現の高いMRP Xは、cGMPやcAMP等の内因性化合物を輸送することが知られるが、神経細胞での役割は不明である。そこで、それら内因性化合物の濃度調節を介して神経細胞の保護を担う可能性を考え、MRP X発現抑制による神経細胞障害とそのメカニズムを検証した。分化誘導させた神経芽細胞腫株Neuro2AにMRP Xに対するsiRNA (siMrpX)を導入したところ、対照群と比較して、神経伝達物質であるN-acetylaspartyl-glutamate (NAAG)の細胞内濃度が有意に高く、一方で生細胞数の指標であるMTT還元能は対照群と比較して有意に低かった。このMTT還元能の低下はNAAG添加によって一部抑制された。したがって、MRP Xの発現抑制は細胞内NAAG濃度の上昇および神経細胞死を引き起こすことが示唆され、細胞外NAAGが神経細胞死からの保護に関与する可能性が考えられた。一方、神経細胞に特異性の高いアデノ随伴ウイルスAAV-PHP.eBのカプシドベクターを用い、MRP Xに対するshRNAをコードしたAAV-PHP.eB-U6-shMrpX-CMV-ZsGreen1 (AAV-shMrpX)を作製しマウス脳内に注入したところ、Zsgreen1の蛍光が投与箇所で確認された。Foot fault testを行ったところ、格子からの踏み外し回数が有意に上昇した。Open field testを行なったところ、総移動距離が有意に低下した。以上より、脳でのMRP Xの発現抑制により運動障害が生じることが示唆された。AAV-shMrpX群での脳内NAAG量は対照群よりも高い傾向にあったことから、NAAGが運動機能変化に影響を及ぼすことが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、薬物排出膜輸送体であるmultidrug resistance associated protein (Mrp) Xの神経細胞特異的なノックダウンによる神経細胞の脱落と筋力低下を解明するとともに、神経脱落と運動機能低下の作用機序を解明し、Mrp Xの発現低下を患者から採取可能な体液を用いて評価可能なバイオマーカーを見出すことを目的としている。本年度はMRP Xの神経細胞における発現低下が運動機能を低下させることを解明するとともに、運動機能に関わると考えられる生体内基質を解明することができた。さらに、神経細胞死が関わる可能性を示唆するため、アポトーシスとの関連を評価したところ、アポトーシスマーカーであるcaspase-3の神経細胞での発現上昇が確認されたほか、神経細胞死に関連するグルタミン酸受容体の活性化との関連も評価したところ、グルタミン酸受容体の下流シグナルであるERKのリン酸化の上昇傾向も見出されたことから、観察されている現象が、神経細胞における特異的な情報伝達に関連する可能性が示された。これらの結果は、来年度以降本研究において運動機能低下の機序を解明することや、体液で評価可能なバイオマーカーを見出す上で、有益な知見となることから、本研究はおおむね順調に推移していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
MrpXのshRNAを組み込んだアデノ随伴ウイルスAAV-shMrpXをマウス脳内にinjection後の痙攣スコア、筋力、不安様行動、自発運動量、認知機能を評価するとともに、小脳切片を、NeuN(神経細胞)、GFAP(グリア細胞)、Iba1(ミクログリア)、c-fos(活性化した神経細胞)等の抗体で免疫染色することで、AAV-shMrpX投与による神経細胞死を示す。さらに、microdialysis (MD) probeを脳内に挿入し神経伝達物質の細胞外濃度を質量分析装置で測定することにより、MrpXのKDにより変化する神経伝達物質を解明する。MrpXの阻害薬を探索する目的で、MrpXを発現する細胞に、被験薬共存下で5-chloromethylfluorescein diacetateを添加後、加水分解産物CMFDA(MrpX基質)の細胞外への排出を蛍光plate readerで測定し、被験薬による低下(阻害)を見る。遺伝子安定発現細胞を構築して同様に評価し、阻害効果を示すものを選別する。安定発現細胞より調製した膜小胞に前項で解明した伝達物質を添加しATP依存的な取り込みを見ることで阻害薬をさらに選別する。MRP X阻害薬による神経毒性を解明するため、選別された阻害薬をマウスに定速静注し、神経毒性を観察するとともに、MD probeを用いて脳内非結合形濃度を測定することで脳移行性を評価する。血清中細胞外小胞を単離し、western blotで測定することにより、血中でMRP Xの発現量の変化をモニターできるかを検討するとともに、神経伝達物質の血漿、脳脊髄液、尿中濃度を測定することで、脳内Mrp Xの活性変化に対応した変化が観察できるかどうかを検討し、バイオマーカーの候補とする。
|