研究課題/領域番号 |
23K18194
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分48:生体の構造と機能およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
五十嵐 和彦 東北大学, 医学系研究科, 教授 (00250738)
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研究分担者 |
西澤 弘成 東北大学, 医学系研究科, 学術研究員 (30846655)
加藤 浩貴 東北大学, 医学系研究科, 助教 (50801677)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2023年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | エピゲノム / 代謝 / S-アデノシルメチオニン / メチル化 / 液性免疫 |
研究開始時の研究の概要 |
分化細胞がそれぞれ、多彩な機能を発揮するには、メチル化を中心とするエピゲノム・エピトランスクリプトームによる適切な遺伝子の発現調節が欠かせない。このメチル化修飾にはS-adenosylmethionine(SAM)が主なメチル基供与体として使われる。代表者は未発表の知見に基づき、SAM代謝がエピゲノム情報等とフェロトーシスを制御するという仮説をたてた。そこで本研究ではSAM代謝系の制御機構を操作し、SAM合成の液性免疫での役割と進化的意義を解明する。脊椎動物に特有のSAM代謝制御機構をBリンパ球で破壊し、液性免疫応答の変化を調べる。そして液性免疫におけるSAM代謝系進化の意義を解明する。
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研究実績の概要 |
エピゲノムのメチル化修飾にはS-adenosylmethionine(SAM)がメチル基供与体として使われる。しかし、SAM代謝系自体の制御や、SAM代謝と非ゲノム情報修飾の連動には不明な点が多く残っている。代表者は、脊椎動物のSAM代謝系が特有の制御機構を獲得したことを見いだした。一方、SAMは鉄依存性細胞死フェロトーシスを促進することも見いだした。よって、SAM代謝が、非ゲノム情報を調節するとともにフェロトーシスを制御するという仮説をたてた。この仕組みは、脊椎動物に特有の高次生命現象を支えるのではないか?これらの問題について、本年度は以下の成果を得た。まず、SAMによるフェロトーシスの促進機構について、SAM依存性経路の中でフェロトーシスに関わる経路の特定を試みた。細胞をシスチン制限培地で培養することでフェロトーシスが起きること、そのフェロトーシスがメチオニン制限を組み合わせることで回避されることを見いだした。SAMの代謝経路の阻害剤や遺伝子ノックダウンを用いるレスキュー実験で、ポリアミンがフェロトーシスを促進することを確定した。SAM濃度低下時のヒストンH3K4トリメチル化低下について、B細胞ゲノム上での分布の変化をクロマチン免疫沈降シークエンス法を用いて比較することで、SAM濃度低下に特に感受性の高いクロマチン領域があることを見いだした。その一部は遺伝子発現変化とも相関する可能性を見いだしたが、予想以上に多くの遺伝子は発現変動を示さなかった。H3K4トリメチル化は遺伝子転写に必須ではない場合も多いことが推察された。制御因子をノックアウトすることでSAM合成酵素が核移行できない細胞株やその各種レスキュー細胞株を作成し、その遺伝子発現変化をRNAシークエンス法にて比較した。核移行できない状態でも発現変動する遺伝子が予想外に少ないことを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フェロトーシスにSAM、そしてその下流のポリアミン合成が関わることを確定することができた。当初はメチル化反応が関わることを想定していたが、メチル化反応はそれぞれ特定の酵素が関わり、しかもその数が多いことから、個別に関与を検討するためには例えばメチル化酵素を標的とするガイドRNAライブラリーを用いるCRISPR-Cas9ノックアウトが必要と考えられた。現時点ではまだ実施できておらず、メチル化酵素のいずれかがフェロトーシスに関わる可能性は否定できてはいない。しかし、一方で、SAM下流のグルタチオン合成につながる酵素などの関与は既に検証できている。さらに、上記のようにポリアミン合成に関わる複数の酵素について、ノックダウンと阻害剤を用いる実験により、ポリアミンおよびその前駆体がフェロトーシスに関わることを証明できている。これをさらに確定するためにポリアミンやその前駆体の添加実験も実施し、これらが細胞死を誘導することも確認できている。ただし、この際の細胞死はフェロトーシス阻害剤では完全にはレスキューできなかったことから、外来性ポリアミンや前駆体には、内生されたものとは異なる細胞死メカニズムを誘導できる可能性が考えられた。このように細胞死とSAM代謝の関係性が明解になり、今後の課題も明らかになってきた。SAM合成酵素の核移行は、特定のヒストンH3K4トリメチル化の維持に重要であることを確定できた。遺伝子発現自体は大きく変化しない遺伝子が多いという予想外な結果であった。核移行不全SAM合成酵素発現細胞の遺伝子発現変動が予想外に少なかったことも、この知見と整合するものと考えられた。H3K4トリメチル化依存性の高い遺伝子と依存性の低い遺伝子があるのかどうか、それら遺伝子は機能的にグループ分けできるのか、その制御はメカニズム的にどう異なるのかなど、今後の課題が明確になってきた。
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今後の研究の推進方策 |
大枠では当初の計画にそって研究を進めるが、以下の点は重点的に取り上げることとする。まず、核移行の意義を核移行できないSAM合成酵素を用いて検証する点については、当初予定した線虫SAM合成酵素アイソザイム複数の細胞内分布を詳細に解析したところ、核分布は少ないものの例えば制御因子ノックアウトで観察されたような細胞質オンリーの分布ではなかったことから、核移行の意義を解明する上ではマウスやヒトのSAM合成酵素の核移行不全型酵素、あるいは制御因子ノックアウト・レスキュー細胞に集中することとする。これであっても細胞内分布は細胞質がメインとなること、そして、この制御因子自体は下等生物ではSAM合成酵素と結合しないことから、進化逆転という当初のコンセプトに沿って研究を進めることができると考えている。ヒストンH3K4トリメチル化と遺伝子発現の関係性については、大きく2つの方向性があり得る。まず、H3K4トリメチル化が遺伝子発現におおよそ必要ではないという観察結果をさらに発展させる方向、そして、少数ながら遺伝子発現が低下した遺伝子群について、細胞分化や免疫応答との関連性を追求する方向である。SAM合成酵素核局在の生物学的意義を調べるという本課題の方向性からすれば、第二の方向を中心に研究を進めることを優先したいと現時点では考えている。また、この第二の方向では遺伝子発現以外のクロマチンイベント、例えばDNA損傷修復応答への関与なども念頭において可能性を調べる。論文発表の計画としては、まず、フェロトーシスにおけるSAMおよびその代謝系の役割については、論文発表のためのデータを補足しつつ今年度中の公開を目指す。さらに、SAM合成酵素と遺伝子発現の関係性(予想以上に依存する遺伝子が少ないこと)は広く重要な知見と考えられることから、今年度中の論文投稿を目指し、さらにデータ補足を進めて行く。
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