研究課題/領域番号 |
23K18236
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分50:腫瘍学およびその関連分野
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
大島 正伸 金沢大学, がん進展制御研究所, 教授 (40324610)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 多段階発がん / ネガティブ選択 / 転移 / オルガノイド / サブクローニング / 大腸がん / 肝転移 / がん進化 |
研究開始時の研究の概要 |
がん細胞は、ドライバー遺伝子変異とポジティブ選択の繰り返しにより悪性化に進化すると考えられ、多段階発がん説として知られる。一方で、がんの悪性化過程におけるネガティブ選択機構については、ほとんど研究報告がない。本研究では、マウス腸管腫瘍由来オルガノイドからサブクローンを樹立し、転移性を失った細胞が存在し、ネガティブ選択により排除されることで集団全体の悪性化が維持されているのか、明らかにする。
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研究実績の概要 |
多段階発がんモデルでは、ドライバー遺伝子変異が蓄積することにより、腫瘍細胞の悪性化形質が段階的に進行し、がんが悪性化進展するメカニズムが説明されている。これは、ダーウィン進化の概念を基盤としており、遺伝子変異により腫瘍細胞にとって、生存や増殖に有利な形質を獲得した細胞が、ポジティブ選択により選択され、優先的に増殖することで、がん組織内で亜集団を形成するという概念である。一方で、正常組織の発生や成長過程において出現する異常細胞は、ネガティブ選択により排除され、正常な組織形成が守られることが報告されているが、がんの悪性化過程におけるネガティブ選択については、ほとんど研究がされず報告がない。申請者らはこれまでに、マウス腸管上皮細胞に、4種類の大腸がんドライバー遺伝子、Apc (A)、Kras (K)、Tgfbr2 (T)、Trp53 (P)に変異を導入した、AKTPオルガノイド細胞を樹立し、腸管腫瘍の浸潤、転移などの悪性化機構の研究を推進している。本研究では、これまでに樹立した、転移性を獲得したAKTPオルガノイドを用いて、サブクローニングを実施し、がん細胞集団の中に、転移性に関する多様性が認められるのか、また転移性を失ったがん細胞は集団からネガティブ選択により排除されるのか、in vitroおよびin vivoの解析により明らかにすることを目的とする。これまでに、転移性を獲得したAKTPオルガノイド細胞集団の中に、一定の頻度で転移性を消失する細胞集団が存在することが明らかとなった。それらの細胞は、脾臓移植して肝臓に到達した際に、がん細胞が生存するために必要な線維性微小環境の形成能力が低下している可能性が観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、大腸がんのドライバー遺伝子Apc (A)、Kras (K)、Tgfbr2 (T)、Trp53 (P)に変異を導入したオルガノイドAKTPを、脾臓移植した際に肝転移巣が形成されることを確認した。そこで、AKTPオルガノイド細胞を、トリプシン処理により単一細胞とし、各単一細胞を増殖させて24系統のサブクローンを樹立した。それぞれのサブクローンにはルシフェラーゼ発現遺伝子を導入し、個体レベルで肝転移巣形成を観察できるようにし、さらに4種類のドライバー変異が失われていないことを、genomic PCRや、ERKリン酸化、p53安定化などのウェスタンブロッティングで確認した。これらの樹立したサブクローンをマウス脾臓にそれぞれ移植し、肝転移巣形成をin vivoイメージングで解析した結果、興味深いことに約30%のサブクローンで転移性を消失していることが確認された。それぞれのサブクローンを脾臓移植したマウスの肝臓組織の免疫組織学的解析した結果、転移巣を形成しないサブクローンではKi67陽性の増殖腫瘍細胞が認められず、transgelinやalpha-SMAを発現する活性化線維芽細胞による、微小環境形成が見られなかった。したがって、転移巣形成する腫瘍細胞集団の中には、転移先臓器における微小環境形成能力を失った細胞集団が一定の頻度で存在することが明らかとなった。また、本研究ではヒト大腸がん組織を用いた解析を計画しており、それを実施するためのオルガノイド樹立を行った。
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今後の研究の推進方策 |
AKTPオルガノイドは、AKTPマウスに発生した浸潤性腸管腫瘍から樹立し、一度サブクローニングしてから50世代の継代を経て維持された細胞株である。すなわち、転移性を獲得したシングルセルに由来した細胞集団の中に、転移性を獲得した細胞が含まれていることは、ダーウィン進化を基盤としたポジティブ進化のみで考えられて来た、がんの悪性化進展に、ネガティブ選択が関与する可能性を示している。そこで、転移性を維持したサブクローンと、転移性を消失したサブクローン間での細胞増殖率や、クローニング効率に差が認められないか確認する。さらに、実際にネガティブ選択が起こっているかを明らかにするため、双方のサブクローンを混在させて継代培養し、クローン存在比の変化を明らかにする。さらに、ネガティブ選択が個体レベルでも起こっているのかについて、混在させた細胞集団を脾臓移植し、肝転移巣形成効率の比較解析を実施する。さらに、ヒト大腸がん組織から樹立したオルガノイドを用いて、マウス実験と同様にサブクローニングし、バーコード等で個別標識を行い、各サブクローン間の増殖率、クローニング効率等の比較解析を行う。さらに、サブクローンを混在させて脾臓移植し、ネガティブ選択が認められるのか明らかにする。
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