研究課題/領域番号 |
23K18241
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分50:腫瘍学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
菊池 章 大阪大学, 感染症総合教育研究拠点, 特任教授(常勤) (10204827)
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研究分担者 |
原田 昭和 大阪大学, 感染症総合教育研究拠点, 特任助教(常勤) (30963350)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | Wnt5a / 線維芽細胞 / 大腸がん / 1細胞RNAシーケンス / がん微小環境 / 炎症 |
研究開始時の研究の概要 |
腫瘍においてがん関連線維芽細胞(CAF)は、がんの進展に寄与する。1細胞RNAシーケンスにより、CAFの不均一性が明らかになったが、腫瘍内で多種類の線維芽細胞が存在する意義は不明である。炎症性大腸がんモデルを用いて、ステージ毎の新たなCAF分類を構築し、その中でWnt5aが発現する線維芽細胞集団を見出した。本研究では、Wnt5a発現線維芽細胞に注目し、腫瘍において線維芽細胞の不均一性が維持される機構を解明する。細胞間のコミュニケーションや細胞状態の変化を追跡するという新たな研究手法を用いて、本研究を遂行することにより、悪性腫瘍形成において多種類の線維芽細胞を作り出される意義を明らかにできる。
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研究実績の概要 |
本研究は腫瘍環境、特に線維化を強くきたす大腸がんにおいて多種類の線維芽細胞が存在する意義とその不均一性が維持される機構を解明することを目的としている。そのために、まずヒト大腸線維芽細胞を反映するマウスモデルの評価系の作成を試みた。正常大腸と炎症性腸疾患、大腸がんの3病態における線維芽細胞の一細胞RNA-seq(scRNA-seq)のメタ解析により、ヒト大腸線維芽細胞アトラスを構築した。さらに生物種横断的な解析から、ヒトアトラスにおけるサブタイプ分類を反映したマウスモデルの評価系を確立した。一方、私共はこれまでにWnt5aが大腸がん線維芽細胞の一部に発現し、腫瘍促進的に機能しうることを見出しており、Wnt5aによって間質細胞のリモデリングが生じる可能性を示唆した。そこで、独自の評価系においてWnt5aノックアウトマウスにおける間質細胞の変容パターンを解析したところ、Wnt5a自身を高発現する線維芽細胞のサブタイプの一つであるInf Fibの割合が最も有意に減弱していた。scRNA-seqにもとづく疑似時系列解析ならびに組織学的な空間解析の結果から、Inf Fibは正常大腸由来のBMP+Fibから誘導されることが判明し、Wnt5aはその制御に関与する可能性が示唆された。現在、Inf Fibの誘導に寄与する因子の同定を試みており、Wnt5aによる線維芽細胞の不均一性獲得の機序の解明につなげたいと考えている。さらに、Inf Fibと腫瘍細胞の相互作用を明らかにすることで、多様な線維芽細胞サブタイプの意義についても示すことができると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス大腸がんモデルにおける線維芽細胞のプロファイリングを行うにあたり、実際のヒト大腸がんにおける線維芽細胞の分類を決定した。正常からがんに至る過程での線維芽細胞の活性化を理解するために、正常大腸と炎症性腸疾患、大腸がんの3病態における線維芽細胞の一細胞RNA-seq(scRNA-seq)のメタ解析を実施した。計47328細胞からなるデータセットを構築し、NMF法により定義した遺伝子発現プログラムに基づいて6種類の線維芽細胞サブタイプを定義した。このヒト大腸線維芽細胞アトラスをもとに、マウスの大腸がん線維芽細胞のプロファイリングを試みた。私共が独自に取得したAOM/DSS大腸がんモデルのscRNA-seqに加え、異なる大腸がんモデルマウスのデータを統合し、生物種横断的に解析を行ったところ、ヒトとマウスにおける大腸に存在する線維芽細胞やその活性化パターンが共通していることが明らかとなり、マウスモデルを用いた線維芽細胞評価モデルを確立した。その中でWnt5aを高発現するサブタイプとして、BMP+FibとInf Fibを見出した。各サブタイプのマーカー遺伝子を同定し、それぞれの空間的配置を解析したところ、BMP+FibとInf Fibは腫瘍内で近接して存在していて、scRNA-seqデータを用いた疑似時系列解析とあわせて、Inf FibはBMP+Fibから誘導されていることが判明した。さらに、Wnt5aノックアウトマウスにおける腫瘍構成細胞の変化を評価したところ、Wnt5aを欠損することで全細胞種のうちInf Fibの割合が最も有意に減弱した。 以上の結果を得たことから、本年度の計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の本研究により、Wnt5aを高発現する線維芽細胞サブタイプInf Fibの存在を明らかにした。Inf Fibは炎症や発がんに伴って誘導されるサブタイプであり、腫瘍細胞に対して腫瘍促進的に作用しうるか否かを確認する必要がある。今後、Inf Fibにて特異的に発現する遺伝子群の中から候補遺伝子を探索し、腫瘍細胞との相互作用を明らかにしていく予定である。また、組織学的な空間解析により、大腸管腔側に局在するBMP+Fibが発がんに伴ってInf Fibにリモデリングをきたすことも判明した。遺伝子発現プロファイルにて、Inf Fibでは低酸素に関連したパスウェイが亢進しており、組織学的にもInf Fibが特異的に存在する腫瘍管腔側は周囲に比べ低酸素状態であることを見出したので、Inf Fibの誘導に低酸素応答が関与するか否かを明らかにする。さらに、大腸がん由来の線維芽細胞を用いた再構成実験系を樹立し、低酸素刺激による細胞変化を評価する予定である。仮に低酸素によってInf Fibが誘導された場合、Wnt5aシグナルがどのようにその誘導経路に関与するか明らかにする必要があるので、Wnt5aの作用点を線維芽細胞に限定せず、間質環境における多細胞間でのシグナル伝達が行われるか否かを解析する。そのために、Wnt5aの受容体(Ror2やRyk)の組織学的な発現プロファイリングをすでに行っており、Wnt5aシグナルが伝播したことを腫瘍組織上で評価する方法の開発に現在取り組んでいる。
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