研究課題
挑戦的研究(萌芽)
神経発達症群の発症機序は今尚多くが不明であり、根治的な治療法は確立していない。一部の症例においてRACファミリー、mTOR経路の異常が報告されているが、これらは複数の腫瘍の発生にも寄与することが知られている。すなわち、神経発達症群と腫瘍発生の分子病態にはクロストークが介在することが予測されるが、双方に関与する分子病態は十分に解明されていない。そこで本研究では、多層的オミクス、オルガネラ培養技術およびPDXマウス解析技術を駆使して、神経発達症群と腫瘍発生の共通の遺伝学的基盤を解明することで、双方の病態に有効な本質的な新規治療法の開発を目指す。
神経発達症と小児腫瘍では、mTOR経路やRAS経路など共通のパスウエイが存在することが知られているが、両者に共通の分子病態に立脚した治療戦略の開発は立ち遅れている。そこで本研究では、多層的オミクス解析を駆使して、神経発達症と腫瘍の発症に関わる共通の分子病態を解明し、双方に有効な治療法の開発を目指す。神経発達症を呈する代表的な先天性染色体異常症であるDown症候群は、固形腫瘍の発症頻度が少ないことが知られているが、胚細胞腫瘍の発生頻度は健常人よりも高いことが判明している。そこで、今年度は、Down症候群に合併した胚細胞腫瘍の特有の分子病態を解明するために、網羅的ゲノム解析を実施し、Non-Down症候群における胚細胞腫瘍の分子病態との比較検討を行った。29例のDown症候群に合併した胚細胞腫瘍のパラフィン検体を収集し、DNA、RNAを抽出し、エクソーム解析とトランスクリプトーム解析を施行した。その結果、Down症候群に合併した胚細胞腫瘍においては、Non-Down症候群と同様にKIT遺伝子の変異が約10%の例に認められたが、他の遺伝子変異の頻度は成人がんと比較して極めて低くいことが判明した。KIT遺伝子は変異が検出されていない例においても高発現が確認され、胚細胞腫瘍の発症に寄与していることが示唆された。一方、ゲノムコピー数異常としては12番染色体短腕の同腕染色体が最も頻度の高い異常であった。トランスクリプトーム解析では、組織型と発現プロファイルが一致していることが確認された。以上の結果から、Down症候群に合併した胚細胞腫瘍においては、Non-Down症候群と類似の遺伝子変異スペクトラム、コピー数異常、発現プロファイルを有することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
非常に稀なDown症候群に合併した胚細胞腫瘍の臨床検体を予定通り収集することができ、比較的質の高いDNA、RNAの抽出に成功している。またエクソーム解析、トランスクリプト―ム解析も予定通り行うことができた。今後、メチル化解析を行うDNA、マイクロRNA解析を行うためのmRNAの確保もできており、順調に進展している。
Down症候群に合併した胚細胞腫瘍における網羅的メチル化解析、網羅的マイクロRNA解析を実施し、エピゲノムプロファイルを明らかにする。また疾患IPS細胞を確立し、テラトーマを作成した上で、一連の多層的オミクス解析を施行する。健常人のIPS細胞から作成したテラトーマと分子病態の比較検討を進める。更に、京都大学小児科ならびに関連施設でフォローされている原因遺伝子が未同定である腫瘍を合併した神経発達症群例および高発がん性先天性症候群を対象に、全エクソーム解析、全ゲノム解析、トランスクリプトーム解析、単一細胞シーケンス、miRNA解析、DNAメチル化解析を展開し、共通経路の探索を試みる。本研究における全エクソーム解析の一部は、AMED難病プラットフォーム研究班、がん全ゲノム解析研究班と連携する。一方、腫瘍組織では増殖・生存に有意な独自の代謝機構が存在し、それが腫瘍の進展や治療抵抗性に寄与していると考えられる。遺伝子変異が少ない小児がんにおいて、がん特有の代謝機構が病態に寄与している可能性を想定し、腫瘍組織のメタボローム解析も行う。抗がん剤・代謝拮抗剤・放射線照射・siRNAやshRNAによる遺伝子発現抑制・過剰発現などの介入手技を加えたPDX細胞と、対照となる介入手技を加えていない細胞を用意し、それらの培養培地溶媒および細胞からの抽出液に対して、キャピラリー電気泳動と質量分析法を組み合わせた手法(CE-MS法)によるメタボローム解析を行う。細胞の特性や、それぞれの介入手技によりがん細胞の代謝機構がどのように変化するかの検討を行う。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 2件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 14件) 学会発表 (24件) (うち招待講演 3件)
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