研究課題
挑戦的研究(萌芽)
慢性腎臓病では心血管病リスクが非常に高いが、その分子機序は十分に解明されていない。我々はこれまでRNA修飾とその意義について研究を進め、修飾ヌクレオシドが多彩な生理的・病態生理的意義を有することを明らかにした。修飾核酸は尿中に多く排泄されるため、腎不全ではその血中濃度が増加する。そこで、血中に異常高値となった修飾ヌクレオシドが心血管系に障害を与える可能性を考えた。本研究は、腎不全での修飾ヌクレオシド上昇が心血管病リスクを上昇させるという新規心腎連関仮説を検証し、さらにRNA修飾病という新たな疾患概念を提唱するとともに、心腎連関の分子機序に迫る研究であり、極めて独創的かつ挑戦的研究といえる。
慢性腎臓病(CKD)に伴う心血管病の発症・進展機序解明と新たな診断・治療法開発を目指して、特に修飾ヌクレオシドに注目して研究を進めてきた。まず、種々の原因によるCKD患者約300名の血中・尿中の修飾ヌクレオシド100種類に対し高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)を用いて網羅的に解析し、各修飾ヌクレオシドと腎機能との相関を検討した。その結果、多くの修飾ヌクレオシドの血中濃度が腎機能低下に伴い上昇するが、特にその中でも3種類の修飾ヌクレオシドはeGFRと極めて強い逆相関を示し(いずれもP < 0.0001)、健常人サンプルと比較して末期腎不全患者サンプルでは数十倍以上に増加した。さらに、その1種である修飾ヌクレオシドXの血中濃度は心負荷を反映する血中BNP濃度と強い正相関を示した。次に、修飾ヌクレオシドXが心血管系に及ぼす影響とその機序の解明を目指して、ヒト大動脈由来培養血管内皮細胞(HAoEC)を用いてその作用と細胞内シグナル、および受容体の検討を行った。その結果、修飾ヌクレオシドXは濃度依存性にHAoECの増殖を亢進させるとともに、ERK1/2のリン酸化増強、interferon (IFN)-alpha、IFN-betaなど炎症性サイトカインの発現亢進を誘導した。一方、HeLa細胞では作用を示さず、みられた作用は内皮細胞特異的と考えられた。また、修飾ヌクレオシドXはアデノシンA2A受容体を介することが示唆された。さらにin vivo実験として、シスプラチン誘発腎不全マウスに対し修飾ヌクレオシドXを2週間腹腔内に持続投与したところ、明らかな血管内膜肥厚の増悪を認めた。以上から、CKDでは特定の修飾ヌクレオシドの血中濃度が上昇すること、それにより心血管系に障害を与える可能性が示された。今後、この新たな心腎連関仮説について、さらに多方面から検証を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に示した内容について、進み方に違いはあるものの、ある程度成果が出てきており、また一部は想定した範囲をこえて内容が広がっている。また、そのいくつかについて学会発表(日本内科学会、日本腎臓学会、日本生理学会など)を行うことができた。さらに、これらの成果について論文発表の準備を進めている。
心血管系に及ぼす修飾ヌクレオシドの作用について、in vitro、in vivoの多方面から解析を行う。In vitro実験では、これまで用いてきた血管内皮細胞以外に血管平滑筋細胞、メサンギウム細胞、iPS細胞由来分化心筋細胞等を用いて同様の検討を行う。細胞内シグナルについてもさらに解析を進めていく。細胞増殖能や細胞死を評価するとともに、パルスチェイス法を用いてタンパク質翻訳への影響を評価する。これらの実験では、修飾ヌクレオシドX以外の複数の修飾ヌクレオシドの候補を用いた検討も行う。また、in vivo実験として、急性腎不全モデルとしての腎虚血再灌流、慢性腎不全モデルとしての5/6腎摘モデルやアデニン腎症モデル等を用いて、まずこれらモデルの血中・尿中修飾ヌクレオシドの挙動を解析する。さらにこれら動物モデルに対し、腹腔内投与やosmotic minipumpを用いての候補修飾ヌクレオシドの投与実験を行い、心血管系に及ぼす作用を解析する。さらには、これらのCKDモデルに対して既存の薬剤投与(レニン-アンジオテンシン系阻害薬、SGLT2阻害薬)を用いた解析を行い、CKDの病態と修飾ヌクレオシドの動態との関連を検討する予定である。一方で、先行研究で修飾ヌクレオシドの排泄にヌクレオシドトランスポータ(ENT)が関与していることを示した。そこで、ENTトランスポータを分子的に抑制して、修飾ヌクレオシドの挙動変化とCKD病態との関連を評価することも視野に検討を進め、修飾ヌクレオシドが心腎連関の新たな媒介因子となるかの検証を行いたい。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 3件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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