研究課題/領域番号 |
23K18293
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分53:器官システム内科学およびその関連分野
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
森本 充 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (70544344)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | AT2細胞 / オルガノイド / シングルセル / 組織幹細胞 / 1細胞解析 / 細胞内小器官 |
研究開始時の研究の概要 |
幹細胞集団に含まれる亜集団が、それぞれ異なる特徴を示すことを幹細胞の不均一性と呼び、その理解は組織再生や疾患の研究と深く関わっている。シングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq)は、多細胞システムにおける細胞の不均一性を解き明かすツールとして世界中で使用されている。我々は先行研究で、単一幹細胞の形態計測、オルガノイド形成アッセイ、そしてscRNA-seqを統合した新しい1細胞解析法「scMORN法」の開発を進めてきた。本研究では、scMORN法を幹細胞の亜集団解析で使用するため、細胞の外見に加えて内部の構造を特徴量として画像化し、幹細胞の能力と相関性のある特徴量を探索する。
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研究実績の概要 |
ある幹細胞集団に含まれる亜集団が、それぞれ異なる特徴を示すことを幹細胞の不均一性と呼び、その理解は組織再生や疾患の研究と深く関わっている。シングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq)は、複雑な多細胞システムにおける細胞の不均一性を解き明かすための強力なツールとして世界中で使用されているが、一方で休止期にいる組織幹細胞の研究においては、scRNA-seqは完璧な選択肢とは言えない。なぜなら、scRNA-seqは休眠状態の組織幹細胞の増殖能や分化能を推定することが困難だからである。我々は先行研究で、単一幹細胞の形態計測、オルガノイド形成アッセイ、scRNA-seqを統合した新しい1細胞解析法「scMORN法(single-cell morphometrics, organoid-forming assay, and RNA sequencing)」の開発を進めてきた。 本研究の目的は、幹細胞の1細胞形態と細胞内構造に着目し、scMORN法の欠点であった幹細胞の特徴量の種類を増やし、特徴を伴う細胞画像を集め、亜集団固有の特徴量の発見までをスループット処理するパイプラインを開発することで、新scMORN法を確立することである。本研究では、申請者が最も得意とする呼吸器の組織幹細胞のAT2細胞をモデルとして技術開発を行う。具体的にはマウス肺から単離したAT2細胞のオルガネラや細胞内構造を可視化し、顕微鏡で1細胞画像を撮影する。今年度は、シグナル強度を基準にAT2細胞を分画し、それぞれオルガノイド培養を行うことで幹細胞能を検定した。興味深いことに、特定のオルガネラの含有量とオルガノイド形成能力が負の相関関係にあることが見えてきた。今後は他のオルガネラ、細胞骨格でも検討するとともに、オルガノイド形成能が高い幹細胞の特徴をRNA-seq解析で調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、組織幹細胞のオルガノイド形成効率が一般的に集団中の1ー10%程度であることを利用して、5つのステップで亜集団を同定する。①標的とする肺胞の組織幹細胞であるAT2細胞を単離し、単一細胞の撮影を行った後、オルガノイド培養を行う。②撮影データを時系列に並べ、逆追跡によりスフェロイドを作ることができたorできない幹細胞、すなわち増殖する幹細胞としない幹細胞の培養開始日の1細胞イメージを収集する。③画像データの1細胞形態を定量測定し、増殖能を持った幹細胞の形態的特徴を探索する。④再度幹細胞集団を調整し、1細胞イメージを撮影してから、scRNA-seq解析を行う。⑤③で同定した形態的特徴を持つ細胞だけが示す遺伝子発現パターンを解明し、増殖能の高い幹細胞の亜集団を同定する。 解析において重要なステップが、②の画像データをもとに③の1細胞形態解析を行い、形態的特徴を同定する過程である。そこで今年度は、AT2細胞のオルガネラを可視化し、その特徴量を測定する実験を進めた。まず、マウス肺から単離したAT2細胞のオルガネラを標識して、細胞別の特徴を顕微鏡撮影とFACSで検証した。興味深いことにオルガネラの含有量が細胞によって大きく異なっていた。観察を反映し、FACSにより異なるオルガネラ含有量のAT2細胞を分取して、オルガノイド培養を実施している。想定した通り、いくつかのオルガネラについては、その含有量の違いがオルガノイド形成能を反映していることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、オルガネラの特徴量によって分取したAT2細胞のオルガノイド形成能を順次測定するとともに、AT2細胞の他のオルガネラ、細胞骨格を可視化して、AT2細胞群の中での多様性を観察する。得られた多様性を特徴量として定量し、それぞれの特徴量を基準に分取する実験を行う。分取された細胞をライブイメージングで追跡しながらオルガノイド培養を行う。具体的には、横河電機CSU-W1を搭載したオリンパス共焦点顕微鏡で1細胞画像を高速低毒性撮影する。顕微鏡ステージトップ型の恒温機を使用することで、撮影後そのまま培養を行い、1回/24時間の撮影を続けて培養10日目で直径50um以上のスフェロイドに成長できたAT2細胞をスフェロイド形成能有りと判定する。形成能あり/なしのAT2細胞を時系列画像から逆追跡し、培養初日の1細胞画像を収集する。画像解析ソフトImageJを使った2値化処理、および形態の数値化を行う。本計画では数値データを統計ソフト上で解析し、特徴を探索する。将来的には機械学習を使った解析に発展させる予定である。 形成能ありのAT2細胞に特徴的な形態が発見できた場合、scRNA-seqを行う。FACSで分画できる場合はbulk RNA-seqで、難しい場合はQuartz-seq2法を用いた1細胞ライブラリー作成(Sasagawa et al.,Genome Bio. 2018)およびDeep Sequenceを行う。scRNA-seq解析データから遺伝子発現レベルでの特徴を見出し、AT2細胞の中で増殖能の高い亜集団の遺伝的特徴を同定する。もしも蛍光染色試薬が撮影や特徴量の抽出に適さなかった場合に備えて、細胞内構造および細胞内小器官を可視化するトランスジェニックマウスを所内で入手し、交配している(Abe et al., Genesis 2011)。
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