研究課題/領域番号 |
23K18313
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分55:恒常性維持器官の外科学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
原 知明 大阪大学, 大学院医学系研究科, 特任助教(常勤) (30779161)
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研究分担者 |
石井 秀始 大阪大学, 大学院医学系研究科, 招へい教授 (10280736)
江口 英利 大阪大学, 大学院医学系研究科, 教授 (90542118)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2025年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2024年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | エクソソーム / RN7SL1 / SRP9 / lncRNA / 膵がん / m6A / CAF |
研究開始時の研究の概要 |
蛋白をコードしないlncRNAはmRNAの10倍数以上存在し、ポリメラーゼⅢの制御下に生成される5'末端3リン酸(5'ppp)と分子全体の構造がパターン認識されて免疫原性となる。RN7SLを代表とする免疫原性lncRNAは、アデニンのメチル化(m6A)やRNA結合蛋白によりパターン認識を回避していることが明らかとなった。実際に、がん症例末梢血のエクソソーム(Ex)内のlncRNAには5′pppやm6Aがあり、難治がんの治療抵抗性を予測できると期待される。本研究では「Ex内lncRNAのパターン」を先端技術で精密に計測できる方法を確立し、難治がんの治療応答性を最高精度で評価する方法を開発する。
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研究実績の概要 |
本研究では以前に実施した膵がんのシングル細胞解析(iScience, 25(8): 104659, 2022.)を土台とし、エクソソーム(EX;細胞外分泌小胞)内の「RNAパターン」による治療応答予測制御法を開発する。具体的には、1《計測技術》膵がん患者の「Ex内lncRNAのパターン」を精密に計測できる方法を確立する。2《臨床材料》膵がん患者の試料で、腫瘍本体の状態(がん活性化線維芽細胞[CAF]の種類、CD8+T細胞疲弊化)「炎症」との関連性を解明する。3《創薬展開》Ex内RNAを標的として、RNA蛋白(signal recognition particle [SRP]等)結合およびメチル化(m6A)を制御する新たな創薬のシーズを生み出す。以上の研究目的の下、本年度は膵がん患者由来のがん組織およびその周辺の正常組織の遺伝子発現とN6-メチルアデノシン(m6A)修飾RNAについてRNA-seqおよびMeRIP-seqによる解析を行った。その結果がん組織で高m6A修飾されたRNAを特定した。その中の一つであるTCEAL8 mRNAのm6A修飾は膵がんの新たなマーカーとなることが示唆された。またエクソソームとして伝達されるRN7SL1に結合するSRP9のバリアント1、2に関して、核内で結合するRNAをRIP-seqによって特定した。バリアント2では74種のlncRNAへの結合が検出されたがバリアント1では926種のlncRNAへの結合が検出された。これらのlncRNAはRN7SL1の脱被覆化に関係していることが示唆された。さらにRN7SL1のORFの1つをGFPに置換すると、RNAポリメラーゼⅢプロモーター下でGFPの発現が発がん状態の細胞で見られた。したがってRN7SL1の脱被覆化がRN7SL1の翻訳および発がんに関係していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膵がん患者由来のがん組織およびその周辺の正常組織の遺伝子発現とN6-メチルアデノシン(m6A)修飾RNAについてRNA-seqおよびMeRIP-seqによる解析を行った。その結果がん組織で高m6A修飾されたRNAを数十個特定した。その中の一つであるTCEAL8 mRNAは、visiumデータの解析により特定の細胞で高発現しており、それらの細胞ではがん関連シグナル伝達経路の活性化が見られたことから、TCEAL8 mRNAの m6A修飾は膵がんの新たなマーカーとなることが示唆された。またエクソソームとして伝達されるRN7SL1に結合するSRP9のバリアント1、2に関して、核内で結合するRNAをRIP-seqによって特定した。バリアント2では74種のlncRNAへの結合が検出されたがバリアント1では926種のlncRNAへの結合が検出された。これらのlncRNAはRN7SL1の脱被覆化に関係していることが示唆された。アミノ酸欠乏はSRP9の選択的スプラシイングに影響を与え、腸菅細胞の遺伝子発現と腸内細菌叢に影響を与えることが示唆された。さらにRN7SL1には理論的に2つのsmall open reading frame (smORF) が存在していることからその1つをGFPに置換すると、RNAポリメラーゼⅢプロモーター下でも特定の細胞でGFPが発現することを確かめた。フローサイトメーターでGFPポジティブ細胞およびGFPネガティブ細胞を分離し、RNAを抽出後、RNA-seqによりそれぞれの遺伝子発現を確認したところGFPポジティブ細胞ではがんに関わるパスウェイの活性化が見られた。したがってRN7SL1の脱被覆化がRN7SL1の翻訳および発がんに関係していることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
がん関連m6A修飾、発がんにおけるRN7SL1、SRP9の機能についてlncRNAおよびエクソソーム内lncRNAとの関係性を明らかにしていく。そのために下記項目について検討を進める。1《計測技術》複数の方法の感度・特異度を比較検討するために、第一に、5′pppを修飾してライブラリーを構築する5′ppp-seq法(Cell, 120: 352-366, 2017.)、第二に、大阪大学発のトンネル電流シークエンス法で末端計測を繰り返して実施する方法(Sci Rep, 11(1):19304, 2021)、第三に、核酸を捕捉濃縮して質量分析する方法を実施する (Nat Commun, 10(1):3888, 2019)。 2《臨床材料》膵がん患者の手術切除材料と末梢血を用いて、Ex内lncRNAの脱被覆化を氷解し、腫瘍浸潤CD8+T細胞の疲弊化分子の発現(PD1, TIM3)、CAFの種類をRNA-seqで明らかにする(iCAF[inflammatory CAF], myCAF[myo fibroblast CAF])。iCAFではPD1抗体が、myCAFではTGFb阻害剤が、臨床的なシナジー効果を期待できる。 3《創薬展開》臨床的なシナジー効果を狙って、Ex内RNAを標的とするRNA蛋白結合およびm6Aを制御する新たな創薬のシーズのProof-of-Concept[POC]を確保する。 以上の計画を合わせて、Ex内lncRNAの計測と、画期的な創薬の両輪からなる「コンパニオン診断」の技術を開発研究する。
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