研究課題/領域番号 |
23K18316
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分55:恒常性維持器官の外科学およびその関連分野
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
掛地 吉弘 神戸大学, 医学研究科, 教授 (80284488)
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研究分担者 |
中野 秀雄 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (00237348)
大野 真佐輔 愛知県がんセンター(研究所), 分子診断TR分野, 研究員 (40402606)
藤田 貢 近畿大学, 医学部, 准教授 (40609997)
船越 洋平 神戸大学, 医学部附属病院, 助教 (50566966)
山下 公大 神戸大学, 医学部附属病院, 特命准教授 (80535427)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2024年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 胃癌 / 抗体取得 / キメラ受容体抗体 / 三次リンパ構造 / AI病理 / CAR-T細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は以下の流れで進められる。深層学習アルゴリズムを基盤としたイメージングサイトメトリーを用いて、抗体取得に適切なB細胞の同定、Ecobody法による抗体取得、胃癌細胞/正常細胞を用いたスクリーニング、CAR-T細胞を作成し、ヒト細胞株腫瘍細胞移植マウスに対する治療効果の評価、及び取得抗体の抗原決定を行う。
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研究実績の概要 |
CARは抗腫瘍抗体をベースに設計されるため、CAR-T細胞には組織適合抗原(MHC/HLA)拘束性がないという利点がある。一方、従来のCAR設計には既知の抗体情報が用いられてきたため、CARレパートリーは極めて限定されてきた。そのため、CAR-T細胞療法によるがん克服には多くの抗腫瘍抗体の確保が最重要課題である。 本研究では、(1)AIを基盤としたイメージングサイトメトリーによる抗体取得に適切なB細胞の同定、(2)Ecobody法による抗体取得、(3)胃癌細胞/正常細胞を用いたスクリーニング、(4)CAR-T細胞の作成とヒト細胞株腫瘍細胞移植マウスに対する治療効果の評価、(5)取得抗体の抗原決定を行う。(1)については、独自開発したCu-Cytoを用いて多重染色による組織標本をデジタル画像として取り込み、本研究に関連する大学院生や研究員らのチーム(総勢8名)が、これを教師あり画像としてアノテーション作業によるチューニングを実施中である。定期的なレビュー作業により精度を上げており、AI-イメージサイトメトリーは実用レベルに達している。この技術では細胞認識から識別、位置情報の処理と通常の病理組織診断を超えた情報が取得可能である。 B細胞の取得源をTLSに絞り込むことで、精度の高い技術がより効率化される。また、抗原決定までの過程が従来より迅速化されている。抗体取得後、相補性決定領域(CDR)、抗原特異性、抗原とエピトープに関する情報を、ハイスループットかつ網羅的に解析可能となる統合解析システムが施行可能となっている。 本研究の挑戦的な意義は、独自開発のCu-Cytoを用いた多重染色による組織標本のデジタル画像解析、B細胞の取得源をTLSに絞り込むこと、抗体取得後の統合解析システムにより、精度と効率の高い技術が実現可能である点にある。また、過去の実績から安定したCAR-T細胞の開発が可能であり、胃癌に対する新たな治療法の開発につながることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、胃癌病理組織切片の多重免疫組織化学染色の条件設定が完了し、深層学習アルゴリズムに基づくイメージサイトメトリーであるCu-Cytoのアノテーション作業をほぼ終了している。Cu-Cytoは、細胞認識から識別、位置情報の処理と通常の病理組織診断を超えた情報が取得可能な技術である。本研究に関連する大学院生や研究員らのチーム(総勢8名)が、教師あり画像としてアノテーション作業によるチューニングを実施し、定期的なレビュー作業により精度を上げている。現在、Cu-Cytoは実用レベルに達しており、病理医による顕微鏡での評価所見に大きく矛盾しない結果が得られている。 本研究では、三次リンパ構造(TLS)に着目している。TLSは、がん組織内に形成されるリンパ節様構造であり、抗腫瘍免疫応答に重要な役割を果たすと考えられている。現時点では、TLSの遺伝学的定義は行っていないが、形態学的にB細胞の集簇が確認できれば、概ね問題ないような結果が得られている。Cu-Cytoでの解析所見から、一定の精度でTLSの識別が可能であることが示唆されている。今後は、標本選択を行い、改めて抗体情報を取得する計画を進める予定である。 一方、現在はすでに取得済の抗体について、機能解析を勧めている。免疫染色と組織ELISAを行い、抗体の結合性を確認した。胃癌細胞の表面に発現するタイプのタイピングを行い、その特徴を明らかにする予定である。また、同抗体よりキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)の作成を開始した。抗体情報に基づき、キメラ受容体のデザインを行っている。 現在、全体の進捗状況としてはやや遅れている状態であるが、着実に研究を進めている。今後は、TLSの遺伝学的定義を行い、より精度の高いTLSの識別を目指す。また、取得した抗体の特徴を明らかにし、CAR-T細胞の作成を進める。本研究の成果が、胃癌患者に対する新たな治療法の開発につながることを期待したい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の推進方策として、以下の点に注力する必要がある。まず、TLSの遺伝学的定義の確立を迅速に完遂することである。TLSの識別精度を向上させるためには、TLSを構成する細胞の遺伝子発現プロファイルを解析し、TLS特異的な遺伝子シグネチャーを同定する必要がある。これにより、Cu-Cytoを用いたTLSの識別の精度を向上させることができる。次に、取得抗体の機能解析の推進である。抗体の結合特異性や親和性、エピトープの同定などを行い、抗体の抗腫瘍効果を in vitro および in vivo で評価する必要がある。これらの解析により、CAR-T細胞の作成に最適な抗体を選択することができる。さらに、CAR-T細胞の作成と評価の推進を行う。CARの設計を最適化し、T細胞への遺伝子導入効率を向上させる必要がある。作成したCAR-T細胞については、in vitro での細胞障害活性や特異性を評価し、最適な細胞株を選択する。また、PDXモデルを用いて、CAR-T細胞の体内動態や抗腫瘍効果を評価する必要がある。加えて、研究体制の強化を行う必要がある。研究人材の確保や育成、共同研究体制の構築、研究設備の整備などを進め、研究費の確保に努め、研究の継続性を担保することが重要である。 以上の方策を着実に実行することにより、本研究の目的である胃癌に対する新たな治療法の開発に向けた基盤を確立することができると期待される。研究の進捗状況に応じて、方策の優先順位や内容を柔軟に見直し、研究の過程で得られた知見を積極的に公表し、研究コミュニティとの情報共有を図ることも重要である。
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