研究課題/領域番号 |
23K18347
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分57:口腔科学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
飯村 忠浩 北海道大学, 歯学研究院, 教授 (20282775)
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研究分担者 |
丸岡 豊 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 歯科口腔外科長 (10323726)
樋田 京子 北海道大学, 歯学研究院, 教授 (40399952)
李 智媛 北海道大学, 歯学研究院, 助教 (70711274)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2023年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 放射線性顎骨骨髄炎 / 骨再生 / CCR5 / 骨壊死 / 顎骨 / 微小循環 / 血管 / 骨 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、CCR5阻害による骨組織内血管新生機構を解明し、CCR5阻害薬の骨壊死治療薬としての適応拡大の可能性と新規分子標的を探索する。骨の微小循環の回復と腐骨分離を促進し新生骨に置換するための積極的な骨再生を目的とした薬物療法の確立を目指す本研究構想は、新たな治療戦略の確立に挑戦するものである。
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研究実績の概要 |
放射線性顎骨骨髄炎・壊死は、放射線照射範囲に含まれる顎骨組織内の血管系と骨系細胞に障害が後遺し、治癒不全をきたした病態である。保存的治療では対応できない場合、外科的な治療が必要になるが、治療前の顔貌や咬合を再建するのは高侵襲である。そこで、骨の微小循環と腐骨分離を促進し新生骨に置換するための積極的な骨再生を目的とした画期的な治療法の開発が望まれる。申請者らは、ケモカイン受容体CCR5をコードするCcr5(-/-)遺伝子欠損マウスの骨では、骨内血管形成の亢進を介して骨形成が亢進していることを観察している。また、CCR5阻害薬投与により同様の表現系が観察される。虚血性顎骨壊死の臨床病態において、CCR5のリガンドであるCCL5が骨形成低下と脂肪変性に関与することが報告されている。本研究では、CCR5阻害による骨組織内血管新生機構を解明し、CCR5阻害薬の骨壊死治療薬としての適応拡大の可能性と新規分子標的を探索する。骨の微小循環の回復と腐骨分離を促進し新生骨に置換するための積極的な骨再生を目的とした薬物療法の確立を目指す本研究構想は、新たな治療戦略の確立に挑戦するものである。 今年度は、歯科領域における代表的な骨・関節吸収性疾患である顎関節退行性病変(DJD-TMJ)の臨床検体から、CCR5およびそのリガンドであるCCL5の病態における機能を探索した。その結果、CCL5の体内増加が顎関節の退行性病変の発症に関わることが考えられた。さらに、比較的若い女性患者では骨代謝のわずかな亢進が、一方で高齢の女性患者では炎症性変化の亢進が、下顎頭吸収に関与することが明らかになった。病態には顎関節への強い機械的負荷が関与することが知られていることから、これらの病態が関連しあって、体内のCCL5が増加し、この病気に関与していると考えらた。これは、本研究での仮説を臨床的にも裏付ける成果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは、HIVの共受容体であるCCR5がリンパ球のみならず破骨細胞にも高発現し、CCR5の機能阻害は破骨細胞の機能低下を生じることを報告した(Nature Commun.2017)。その後の観察から、Ccr5(-/-)遺伝子欠損(CCR5KO)マウスは野生型と比べ骨形成が有意に亢進しており、CCR5KOマウス由来破骨細胞では、分化・成熟期における細胞極性化が失われ、その結果、骨吸収能が低下していることを観察した(Lee et .al., Scientific Reports 2023)。RNAseqによるトランスクリプトーム解析から、CCR5を介したシグナルは、適切な細胞骨格のリモデリングや小胞輸送、多核の細胞核の凝集に必須であることを解明した。さらに、GWAS解析により、CCR5によって調節を受ける分子群には、骨大理石病の関連遺伝子群を含むことが明らかとなった。このことは、CCR5が、骨代謝および代謝性骨疾患に重要であり、その機能低下が、骨代謝バランスを性の方向にシフトさせることを明らかにした。 申請者らは、体液中に循環するCCL5が、骨や関節でのCCR5の機能発現に重要なリガンドであることを観察してきた(Lee et. Al., 2018 Nature Commun)。そこで、血中CCL5レベルが、骨破壊性疾患の診断および治療マーカーとしても有効であるかどうかを、顎関節退行性病変の患者血清より測定し解析した(Watanabe et al., IJMS, 2023)。その結果、CCL5が患者の血清において有意に上昇していることを明らかにした。さらに、血清や尿中の骨代謝に関わる分子や炎症性分子の量も同時に解析した結果、比較的若い女性患者では骨代謝のわずかな亢進が、高齢の女性患者では炎症性変化の亢進が、この病気に関与することを解明した。
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今後の研究の推進方策 |
CCR5阻害薬Maravirocの上記で述べた組織間リレーによる「骨微小循環の改善」効果の検証を行う。このことで、骨代謝、骨代謝疾患、骨再生におけるCCR5の病態機能をさらに解明し、創薬基盤研究へと展開する。血清CCL5が、放射線性顎骨骨髄炎・壊死の診断および治療マーカーとしても有効であるかどうかを検証して行く。これらの作業仮説を臨床検体で検証するため、国立国際医療研究センター・バイオバンクに「骨壊死」として登録されている、患者血清(50人が登録済)と健常人血清でのCCL5および他の炎症性マーカー(TNF-αやIL-6)をELISA法で測定比較し、病歴・治療歴との比較検討を進める。また、同センター病院・歯科口腔外科には、放射線性顎骨壊死の患者が多数来院することから、これらの患者での外科治療前後の血清を採取し、同様の比較検討を加え、場合摘出組織での血管網とCCL5/CCR5との相関を免疫組織学的に観察する。
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