研究課題/領域番号 |
23K18403
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分58:社会医学、看護学およびその関連分野
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研究機関 | 山陽小野田市立山口東京理科大学 |
研究代表者 |
小野田 淳人 山陽小野田市立山口東京理科大学, 薬学部, 講師 (70835389)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2025年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2024年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | ナノ粒子 / PM2.5 / タンパク質 / 表面反応 / 神経変性疾患 / プロテオパチー / 構造変化 / 脳組織病理 / 脳 / 構造 / 大気汚染 |
研究開始時の研究の概要 |
大気汚染の一因である超微小粒子による脳への影響が国際的な問題となっている。しかし、その抜本的な予防法は未だ存在しない。これは生体影響が生じる機序、特に粒子特有の影響が生じる原因が未解明であることに起因する。先行研究により、超微小粒子の曝露は加齢随伴性の脳機能異常を促進すること、粒子表面で生じるタンパク質の異常構造化がその原因の一端であることが示唆された。これは他の汚染物質には見られない粒子特有の現象であった。一方で、脳内の何のタンパク質が異常構造化をきたし、脳機能異常を引き起こすのか、未解明である。そこで本研究では、超微小粒子が脳機能異常を誘導する原因分子を探索・同定し、その機序解明を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、微小粒子が脳機能異常を誘導する機序解明に向け、環境中の微小粒子が特有の影響を引き起こす機序を明らかにする。特に微小粒子とタンパク質との相互作用による構造変化に注目し、異常構造化を誘導する粒子の性質を見出すことを目標としている。本年は、タンパク質の構造変化を引き起こす微小粒子の性質を明らかにするべく、様々な粒子を用意し、粒子径や粒径分布、表面電荷、表面の欠落構造などの物性を、電子顕微鏡による観察、元素分析、動的光散乱法、ラマン分光法などにより評価した。さらに、それらの粒子とタンパク質を反応させ、その構造変化を赤外スペクトルや円偏光二色性スペクトル測定を用いて分析し、各粒子ごとの違いを比較した。その結果、シリカ粒子は粒子径30 nm以下になると構造変化が誘発され、特に10 nm以下になると、その構造変化が短時間で生じることが明らかになった。また、ラマン分光分析で炭素原子の欠落が確認されカーボンブラックナノ粒子の場合、タンパク質二次構造の構造変化が生じることが明らかになった。一方で、炭素原子の欠落が認められない微小粒子では、構造の変化は認められなかった。これらの結果は、微小粒子に起因するタンパク質の構造変化を理解するうえで、粒子の曲率や表面電荷が重要となる可能性を示唆している。 さらに、微小粒子により構造の変化したタンパク質が脳に与える影響を評価するべく、微小粒子由来異常構造タンパク質を脳内に投与した結果、構造変化タンパク質は、投与直後から脳実質組織の間に入りこみ、主に大脳皮質前頭前野のミクログリアに、一部は脳境界型マクロファージの一種である髄膜マクロファージに取り込まれることが明らかになった。この結果から、微小粒子により構造の変化したタンパク質は、主にミクログリアに集積し、影響を与えている可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究計画では、新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、研究時間の減少や試薬輸送の遅延が懸念されたが、初年目終了時点までの目標であった、使用する微小粒子の収集と各種微小粒子の物性分析を完了させたうえ、それら複数種の微小粒子とタンパク質の反応実験を終えることができた。特に、様々な物性を持つ微小粒子ごとの比較検証は、次年度まで継続して行う必要があると想定していたが、それを初年度内の段階で完了できたことは、当初の計画を超える成果である。さらに、物性分析の内容に関しても、初年度遂行できるのは、粒子径と表面性状の2つだと想定していたが、この2つに加え、ラマン分光分析や元素分析、動的光散乱法などによる物性評価も初年度以内に終えることができた。 また、動物への投与に関する実験では、二年目の段階で、粒子により異常構造化したタンパク質の脳内挙動の評価と、集積する細胞を同定させた。さらに、次年度に行う予定だった、その細胞への影響評価に向けた検証も進めている。これもまた、当初の計画以上に研究が進展している理由となる。 海外を中心とした学外の研究者との交流や意見交換に関しては、これまで、新型コロナウイルス感染症拡大により自粛していた。しかし、今年度は拡大が終息したことを受けて、積極的に国内外の研究者と交流することができた。特に、英国Oxford大学に招待され、講演し、その時の聴衆であった先方の研究者に自身の研究が高く評価されたことは想像を超える収穫であった。その結果、その研究者と共同研究をすることになり、これもまた当初の計画以上に進展している理由となる。次年度も本年度で得られた成果を基盤に、当初の計画以上の進展をできるよう努める。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、微小粒子により構造の変化したタンパク質が集積する脳内の細胞に生じる変化を分析する。特に、細胞内でタンパク質の処理と関連のある、ユビキチン-プロテアソーム系やオートファジー、小胞体ストレスに関する変化を評価する。この実験系では、最初にミクログリアの培養細胞を用いて検証を進め、その結果に基づいて動物実験へと発展させ、実際の動物でのミクログリアの病態変化を評価する。また、これまでの検証では入手の容易なアルブミン分子を用いて解析を進めてきたが、今後は脳内で発現する生体分子の中で、特に構造変化が生じると細胞毒性を誘発するタンパク質に注目し、微小粒子との反応性を評価する。その後、その微小粒子由来異常構造タンパク質がミクログリアや神経細胞に及ぼす影響について培養細胞系で評価し、さらに、行動実験により脳機能を評価する。とくに、脳内に蓄積する異常構造化タンパク質は、プロテオパチーに関連する認知機能異常を誘発するため、微小粒子由来異常構造タンパク質を脳内投与した後、長期的に飼育し、認知機能や空間把握などの脳機能の変化を行動試験により評価する。これらを踏まえ、タンパク質の異常構造化を誘導しやすい粒子の特性やその異常構造化したタンパク質が脳に及ぼす影響について明らかにする。
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