研究課題/領域番号 |
23K18478
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分61:人間情報学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
服部 裕子 京都大学, ヒト行動進化研究センター, 助教 (60621670)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2025年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 霊長類 / 身体運動 / 感覚運動能力 / 運動制御 / sensorimotor signal / non-human primates / interaction / social cognition / coordination |
研究開始時の研究の概要 |
ヒトは、他者とインタラクションをする時、動き自体の速さや軌道の微細な変化を調整してシグナルとして用いている。こうした感覚運動シグナルは、自分の目的や意図を相手が予測しやすいように運動を調節することで、相手との協調行動を円滑にしており、柔軟な運動制御能力と他者表象が関係していると考えられるが、その進化的な経緯についてはほとんどわかっていない。そこで本研究では、ヒトとチンパンジーを対象に、上半身の微細な運動制御能力がどのように物理的・社会的環境適応の際の内的モデルの生成に関係しているのかを明らかにする。本研究により、微細な運動を指標にした新たな他者理解の解明が進むことが期待される。
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研究実績の概要 |
ヒトは、他者とインタラクションをする時、言葉や指さしといった特定の意味をもつ身振りだけでなく、動き自体の速さや軌道の微細な変化などもシグナルとして用いている。こうした感覚運動シグナルは、自分の目的や意図を相手が予測しやすいように運動を調節することで生成され、他者との協調行動を円滑にしていると言われている。ヒトが行う高度な協調行動をささえる感覚運動シグナルは、柔軟な運動制御能力と他者表象が関係していると考えられるが、どの点において他の霊長類に比べ特徴的なのか、生物としてのヒトの運動制御能力や感覚運動シグナルの特徴については、あまりよくわかっていない。そこで本研究では、ヒトと系統発生的に最も近いチンパンジーを対象に、生物としてのヒトの運動制御能力および感覚運動シグナルの特徴およびその進化過程を明らかにすることを目的としている。今年度は特に、「物理的環境における上半身の運動制御能力の特徴」に焦点をあてて研究を行った。タッチパネルで提示された視覚刺激への反応課題やタッピング課題を用いて、刺激に到達するまでの上腕の動きの加速度およびその軌跡、上半身の姿勢変動をビデオカメラの動画をもとに分析した。タッピング課題に関しては、光ナビゲーション機能のついた電子キーボードを用いて、特定のキーをタッピングすると報酬が得られる状況を利用した。上部より高サンプリングレートのビデオカメラで手の水平方向の動きを撮影し、動きの速さや軌跡にかんする時系列的な変化を分析した。それぞれ、30fps、60fps、120fpsで上半身の動きを録画し、後に動画から指先や手首の運動の軌跡を分析した。目的遂行までの指先の移動の速度が最も速くなる期間では、120fps以上のサンプリングレートでの撮影が望ましいことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の計画は、1個体が装置に反応するという状況で、チンパンジーの上腕の運動制御や上半身の姿勢制御について動画を用いて分析するというものであり、当初の計画通りそれらの実験条件で分析可能な動画を撮影することができたため、計画は順調に進展しているといえる。実験期間中では最適な撮影状況に至るまでに、特に、動画のサンプリングレート、被験体と実験装置の色のコントラスト、実験室の照明について、いくつか探索的な試行を実施した。例えば、タッピング課題では、2つの異なるキーを交互にタッピングすると報酬がもらえるという文脈で、手首および指先の運動軌跡の分析を行ったが、30fps、60fpsではキーからキーへ指が異動する際に最も速度が速くなる期間の軌跡を計測することができず、120fps以上のサンプリングレートが必要であることがわかった。また、被験体の肌の色とキーボードの黒鍵の色の類似性から、画像分析の際に身体部位特定で誤認識がおきたため、キーボードやタッチパネルといった実験装置と被験体の肌の色はなるべく色味が異なるように工夫をした。これらの点は実験開始前からある程度予測されていた事から、想定内の問題であった。
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今後の研究の推進方策 |
来年度の計画として、他者との協調が上半身の運動制御に与える影響を調べる。同種他個体あるいはヒト実験者がパートナーになり、同じタッチパネルにアクセスすることができる状況もしくは同じキーボードにアクセスできる状況を用いて、両個体が協働して装置に反応すると報酬を得られる状況を利用する。各個体の上部にビデオカメラを設置し、今年度と同様、OpenPoseを用いたマーカーレスモーションキャプチャシステムから上半身の動きを分析する。実験結果からそれぞれの種の運動制御能力を特徴づけるパラメータを明らかにし、物理的環境および社会的環境における内的な運動モデルと新奇な環境への運動適応過程の種差を明らかにする。また、これらの計画が完了次第、自然な社会的インタラクションで用いられる感覚運動シグナルの特徴についての研究計画を開始する。放飼場でのチンパンジーを対象に、日常の社会的インタラクション(グルーミング、遊び行動など)をビデオカメラで撮影し、各個体の上半身の動きの随伴性を時系列的に分析する。観察データから得られたチンパンジーの特徴とヒトの協調行動等の場面を用いた先行研究を比較し、自然な社会的インタラクションにおける感覚運動シグナルの種差を明らかにする。
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