研究課題/領域番号 |
23K18558
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分90:人間医工学およびその関連分野
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
安楽 泰孝 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (60581585)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2024年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | mRNA / 血液脳関門 / 薬剤送達システム / 酵素補充療法 / 高分子ミセル |
研究開始時の研究の概要 |
近年、脳内で欠損した酵素を補充することによる脳機能の再生は、ライソゾーム病などの 難治性中枢神経系疾患の治療において注目されている。本課題では、効率的に脳内に集積する高分子ミセルの独自技術を応用することで、mRNAを全身投与で脳内に送り届け、神経細胞で大量の治療用酵素を持続的に産生し、有害物質を分解することによる脳機能の再生、という全く新しい治療法の開拓に挑戦する。
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研究実績の概要 |
酵素補充療法(ERT)は、体内に足りない酵素を補充することで症状の改善を計る治療法で、疾患部位まで酵素を送り届け代謝を促すシステムを組み込んだ薬剤送達システム (DDS)は、とりわけ副作用の低い革新的治療法として期待されている。一方で、脳内に酵素を持続的に送達する技術開発に関しては未だに挑戦的な課題である。ここでタンパク質の設計図であるMessenger RNA (mRNA)は、細胞内で任意のタンパク質を大量にかつ持続的に産生することができる上、ゲノムDNAに変異を与える心配がなく安全性が高い。そのため、mRNAを脳内細胞に送達できれば、酵素を大量にかつ持続的に産生することが可能になる。そこで、本研究課題では「精密設計した血液脳関門通過型高分子ミセル技術に基づいて、①生体内安定性が低いmRNAを全身投与で脳内に送り届け、②神経細胞内で大量の酵素を持続的に産生させることで、蓄積した不純物除去を実現する革新的ライソゾーム病治療法を確立すること」を目的とした。 当該年度は、研究計画に基づいて、まず生体内での安定性の著しく低いmRNAを安定に高分子ミセルコアに保持可能なカチオン性ブロック共重合体を合成した。合成したカチオン性ブロック共重合体とアニオン性のmRNAを任意の割合で混合したところ、直径50 nm程度で単分散性の高いmRNAを封入した高分子ミセル(mRNA@PM)の調製を確認した。生理環境における安定性評価を行なったところ、mRNA単体、既存のmRNAを封入した高分子ミセルと比べ、当該研究で構築したmRNA@PMが著しく高い安定性を示した。またPM表層にリガンド分子を搭載することで細胞取り込み量と細胞内でのタンパク質(治療用酵素)発現量が劇的に向上した。 以上のように、安定性の低いmRNAを安定にコアに保持した高分子ミセルを構築することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
カチオン性ブロック共重合体の精密な分子設計・合成からin vitro及びin vivoでの機能評価、さらにはモデル動物を用いた治療効果の検討へと展開される本研究計画において、下記の特筆すべき成果を得ることに成功した。 (1) 既存のアンモニウムカチオン(Nカチオン)ではなく、よりカチオン性の高いホスフォニウムカチオン(Pカチオン)を側鎖に有するカチオン性ブロック共重合体を合成することに成功した。 (2) Pカチオン性ブロック共重合体はイオン強度に応答して構造変化することが明らかになった。 (3) FBS中での安定性を評価したところ、mRNA単体、既存のNカチオン性ブロック共重合体を用いて調製した高分子ミセルと比べて、本研究で開発したmRNA@PMが100倍近く安定性が向上した。 (4) 当初の計画を前倒しして、mRNA@PM表層に脳内移行リガンドを搭載したところ、細胞取り込みと細胞内でのタンパク質発現量が劇的に向上した。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」に記述した様に、本研究は当初の計画以上に進展していると自己評価される。次年度については、計画書に基づき、生体内、特に脳内でのタンパク質発現について動物実験を中心に実施する。 具体的には、 (1) mRNA@ PMの脳内投与による機能評価: mRNA@ PMが目的の機能を発揮することを確認するために、病態モデルマウス(B6N.Cg-Idstm1Muen/J)に対して、mRNA@ PMを第三脳室に局所投与し、酵素産生量の経時変化をウエスタンブロット(WB)法などで評価する。併せて炎症分子(IL-6など)も同様に定量し、免疫原性についても評価を行う。 (2) mRNA@PMの全身投与による機能評価: 本研究の最終的な目標は、mRNA@PMを全身投与し、血液脳関門(BBB)を通過し脳内で酵素を多量に産生し、蓄積した不純物を分解することで治療効果を得ることである。従って病態モデルマウスに対して、mRNA@PMを尾静脈(iv)投与し機能評価を行う。まず蛍光標識mRNAを封入したmRNA@PMをiv投与後、脳集積性、臓器分布、脳細胞への取り込みをマルチプレートリーダー、共焦点顕微鏡(CLSM)によって評価する。またBBB通過性については、in vivo CLSMを駆使して観察する。脳内に送達されたmRNA濃度をリアルタイム定量PCR法で定量する。
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