研究課題/領域番号 |
23K18562
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分90:人間医工学およびその関連分野
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
王 建青 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70250694)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2025年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | ワイヤレス制御 / 超音波通信 / 体内ロボット / マイクロロボット |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、体内マイクロロボットのワイヤレス制御を、人体内で伝搬容易な機械波に基づく超音波通信を利用して実現することを探索・研究する。具体的には、①マイクロロボットの移動・回転による超音波の受信感度の劣化を解消する超音波角度受信ダイバーシチの提案、②広帯域の超音波を利用し、1 Mbit/sの高速伝送の実現、及び伝送速度を可変とする適応変調による超音波伝送の耐損失・耐ノイズ性の向上、③超音波によるワイヤレス給電を実現するための圧電素子等価回路及び整合インピーダンス設計ツールの開発を行い、超音波によるワイヤレス制御・給電手法を学術体系化する。
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研究実績の概要 |
本研究では、体内を自由に移動し、患部のサンプル採取・薬剤注入・手術等のリモート治療が行えるマイクロロボットのワイヤレス制御を人体内で伝搬容易な機械波に基づく超音波通信を利用して実現することを探索・研究する。超音波通信は体内での伝搬損が電波より小さく波長が1mm 前後であるため、体内マイクロロボットへの適用親和性が高い。しかし、超音波の体内における減衰は、拡散、吸収、散乱の効果が重なっているうえ、複数の経路を伝搬した音波のマルチパス干渉が加わる。超音波によるマイクロロボットのワイヤレス制御の実現可能性を探求するために、本年度では、体内における超音波ダイバーシチ受信の導入を視野に、解剖学的人体数値モデルに対し、FDTD(Finite Difference Time Domain)法に基づく超音波解析ツールを用いて、体内外間の伝搬特性を数値解析した。音源として半径5mmの円形平板振動子を体表の前面、側面の5箇所にそれぞれ配置し、人体組織ごとに周波数に応じて音速、質量密度、減衰定数を与えた。解析は0.1 MHzから1 MHzまで0.1 MHzの間隔で行った。その結果、様々な体内受信位置と受信角度の影響を含めた伝搬損のモデルとしてP(d)dB = P(d0)dB + 20n log10(d/d0) + α(d-d0)±σで定式化ができた。この場合の減数指数nは1.1~1.3、吸収による減衰係数αは0.1~0.2、平均値からの変動量の標準偏差は3.5~6.6dBであった。また、体内外における伝搬特性の観点から総合的考えると、0.3~0.5 MHzの周波数帯が安定して25 dB以下の音圧減衰を確保した優れた伝搬特性を有することがわかった。これにより、超音波受信素子の伝搬損モデル及び様々な角度に対する受信感度の変化量が把握でき、超音波角度受信ダイバーシチの設計のための基礎データが得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書で記述しているように、本研究での超音波を用いた人体内外間の通信を実現するために、①超音波の受信ダイバーシチ技術、②超音波の高速広帯域変調技術、及び③超音波によるワイヤレス給電技術の3つの課題(チャレンジ・ポイント)に取り組む必要がある。本年度では、①の超音波受信ダイバーシチを中心に研究を遂行してきた。超音波は、筋肉などの軟部組織での伝搬損失が小さいが、骨などの組織があると伝搬特性が大きく劣化する。超音波による機械的振動の方向は、圧電素子表面に垂直するほうは効率がよいが、マイクロロボットは体内で移動・回転するので、向きの確保が難しく、受信する音圧の大きさは送受信間の距離、角度によって変動する。そこで、今年度では受信ダイバーシチの検討に向けて、まず人体数値モデルに対する計算機シミュレーションを行い、人体内での超音波伝搬特性の統計モデルの定式化を行った。その定式化結果から、送受信素子間の角度及び受信素子の体内位置による音圧の変動量は3.5~6.6dBで、周波数的には0.3MHz~0.5MHzが有利であることが分かった。これにより、受信ダイバーシチの設計指標が明確になった。さらに、超音波の振動方向と圧電素子配置向きの不一致に起因する受信信号の劣化を補償できるように、受信部に互いに直交する2つの圧電素子を配置し、2方向から同時に超音波を受信して電気信号に変換させる試験系を構築した。異なる向きの圧電素子から検出した受信信号の大きいほうを選択する受信ダイバーシチとして、現在は試験は準備中である。以上のように、3つの課題のうち初年度の1つ目の課題については、ほぼ予定通りに進捗しており、その伝搬特性定式化の成果が電子情報通信学会で発表できたため、おおむね順調に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度では、超音波による体内伝搬モデルの定式化、及び向きが直交する2つの圧電素子から構成される角度受信ダイバーシチの試験系が構築できた。次年度では、まず、構築された角度受信ダイバーシチの試験系を用いてダイバーシチ効果を検証する。この際に生体等価ファントムを用いて、受信用圧電素子を生体ファントム内に複数箇所(最低10以上)配置し、ファントム外表面に配置された送信素子からの音圧を受信して、選択ダイバーシチで合成する。そして、ダイバーシチ合成した受信音圧と1つの圧電素子を用いた場合の音圧のそれぞれの累積統計分布(CDF)を求め、統計的に超音波受信ダイバーシチの有効性を実証する。次に、課題(チャレンジ・ポイント)②の広帯域高速変復調方式の検討に取り組む。具体的には、超音波の単一周波数を利用するのではなく、ある範囲の帯域をフルに利用し、1Mbit/sの伝送速度の実現を目指す。圧電素子を用いて構成される送信機では、伝送しようとするディジタル制御信号を超音波パルスにまず変換し、そのパルスの有無によって変調するOOK(On-Off Keying)または時間軸の位置によって変調するPPM (Pulse Position Modulation)方式で変調してから、圧電素子に加えて超音波として送出させる。さらに、マイクロロボットの体内での深さに応じて、ディジタル制御信号の1ビットを複数個のパルスで表し、例えば体表面に近い時は2パルス(0.5 Mbit/s)、体内深部の時は8パルス(0.125 Mbit/s)で符号化し、伝送速度を可変とする適応変調を取り入れる。複数パルスで1ビットの情報を表しているため、1ビット中の半分以上のパルスが誤らなければ、受信機での復調が期待できる。その復調方式の最適アルゴリズムを検討・提案し、実験によって変調が適切に行われることを実証する。
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