研究課題/領域番号 |
23K18602
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0101:思想、芸術およびその関連分野
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
入江 哲朗 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 講師 (40982187)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | アメリカ思想史 / アメリカ哲学 / アメリカ文学 / 社会有機体説 |
研究開始時の研究の概要 |
アメリカ思想史においては、さまざまな思想的変動が本格化した1890年代がひとつの分水嶺であった。本研究は、かかる諸変動のなかでも、社会有機体説──社会を有機的なものと捉える見方──の普及に注目している。当初はヨーロッパ思想からの輸入品であった社会有機体説は、世紀転換期米国において、米国の思想的文脈に沿うかたちでの土着化をこうむった。たとえば、社会問題の元凶がしばしばタコとして表象されたことは、社会有機体説的な想像力のアメリカ的な表れであった。こうした米国独自の諸特徴に注目しながら、1890年代前後における社会有機体説のアメリカ化の過程を思想史的に解明することが、本研究の目的である。
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研究実績の概要 |
アメリカ思想史(American intellectual history)において、19世紀末から20世紀初めにかけての世紀転換期、とりわけ1890年代はひとつの分水嶺であり、この時期にさまざまな思想的変動が本格化した。かかる諸変動のなかで本研究が注目しているのが、社会有機体説(social organicism)の普及、すなわち社会を有機的なものと捉える見方の普及である。それはたとえば哲学者ジョン・デューイや社会学者チャールズ・ホートン・クーリーの著作で打ち出されていた。 当初はヨーロッパ思想からの輸入品であった社会有機体説は、世紀転換期米国において、米国の思想的文脈に沿うかたちでの土着化──ひとことで言えばアメリカ化──をこうむった。たとえば、社会問題の元凶がしばしばタコとして表象されたことは、社会有機体説的な想像力のアメリカ的な表れであった。こうした米国独自の諸特徴に注目しながら、世紀転換期をとおして社会有機体説がアメリカ化していった過程を思想史的に解明することが、本研究の目的である。 2023年8月末に科学研究費助成事業「研究活動スタート支援」への本研究の採択が決定してから2023年度末までのあいだの主たる研究成果としては、2024年3月に発表した論文「観念論的でも機械論的でもない社会のかたち──世紀転換期米国におけるタコの形象」を挙げられる。この論文は、いましがた言及した社会有機体説的な想像力のアメリカ的な表れを、作家フランク・ノリスの小説『オクトパス』(1901)や哲学者ウィリアム・ジェイムズの論文「PhDオクトパス」(1903)などにおけるタコの形象の利用に焦点を据えながら探究したものである。この論文をとおして、社会有機体説がアメリカ的な観念へ再形成されてゆく過程の重要な一面に光を当てられたことは、本研究の目的への小さからぬ前進であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年8月末に科学研究費助成事業「研究活動スタート支援」への本研究の採択が決定してから2023年度末までのあいだの主たる研究成果としては、2024年3月に発表した論文「観念論的でも機械論的でもない社会のかたち──世紀転換期米国におけるタコの形象」を挙げられる。研究計画で掲げた探究対象のうち、「19世紀末から20世紀初めにかけての世紀転換期に、米国流の社会有機体説的な想像力がどう表出したか」という問いに関しては、この論文をとおして、作家フランク・ノリスと哲学者ウィリアム・ジェイムズがともに利用したタコの形象に注目しながらひとつの回答を提起した。 当初の計画では、本研究にとって重要な史料を蔵する米国の図書館(ノリスの手稿を保管しているカリフォルニア大学バークリー校バンクロフト図書館など)での史料調査を2024年3月におこなう予定だったが、結局2023年度中にはこの史料調査をおこなえなかった。主たる理由は、筆者にとって2023年度が大学の専任教員として勤務する最初の年度であり、年度末に本務校での業務がどの程度忙しくなるかを計画立案時には正確に見とおせていなかったことに存する。ゆえにこの史料調査については、2024年度の夏に実施する計画を新たに立てている。 こうした計画の変更はあったものの、先述の論文という成果も踏まえながら本研究の進捗に関して総合的に判断するなら、おおむね順調に進展したと言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
19世紀末から20世紀初めにかけての世紀転換期をとおして社会有機体説がアメリカ化していった過程を思想史的に解明することを目指す本研究は、研究計画においてふたつの具体的な目標を掲げた。第一に、ハーバート・スペンサーらが唱えた社会有機体説を世紀転換期米国の知識人たちがどう受容したかを明らかにすること。第二に、米国流の社会有機体説的な想像力がどう表出したかに関する表象分析をおこなうこと。 これらふたつの目標のうち後者は、2024年3月に発表した論文「観念論的でも機械論的でもない社会のかたち──世紀転換期米国におけるタコの形象」によって一定の達成を得た。したがって2024年度には、第一の目標に注力する。 社会有機体説の唱道者のひとりであるスペンサーが米国でどう受容されたかに関しては、トレヴァー・ピアースのPragmatism’s Evolution(2020)という重要な先行研究があるものの、同書の焦点は社会有機体説よりもむしろ生物学思想に据えられている。したがって、ピアースの著書を社会有機体説の受容という観点から批判的に検討することが、2024年度にまず取り組む作業のひとつとなるだろう。 当初の計画では、本研究にとって重要な史料を蔵する米国の図書館(作家フランク・ノリスの手稿を保管しているカリフォルニア大学バークリー校バンクロフト図書館など)での史料調査を2024年3月におこなう予定だったが結局叶わなかったため、2024年度の夏にこの史料調査を実施する予定である。 また、筆者が2022年度に担当した『英会話タイムトライアル』(NHK出版)誌上の連載「現代に息づくアメリカ思想の伝統」が、2024年度中に書籍化される予定である。筆者によるアメリカ思想史の入門書の出版によりこの領域の日本における認知度が高まれば、本研究の成果を公表する際のインパクトもより広い範囲に届くようになるだろう。
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