研究課題/領域番号 |
23K18624
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0101:思想、芸術およびその関連分野
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
末永 絵里子 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 講師 (50979325)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | ポール・リクール / イマニュエル・カント / エマニュエル・レヴィナス / 解釈学 / 批判哲学 / 現象学 / 京都学派の哲学 / 現代フランス思想 / 西田幾多郎 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、現代フランス思想の側に自らの足場と視座を置き、そこから京都学派の哲学の側へ接近するという仕方で、両思索の突き合わせを行うものである。その根底には、1960年代から80年代にかけてエマニュエル・レヴィナスが行った「無限の観念の現象学」に、1960年代後半のポール・リクールが開発した解釈学的アプローチ(異質な二つの言説を接近させ、一方が他方へ与える意味上の衝撃を触媒とする研究手法)を適用するという着想がある。本研究では、京都学派の哲学を触媒としつつ、とくに「事象そのもの/方法」という現象学の二大テーマに即してレヴィナス現象学の全体像を刷新することを目指す。
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研究実績の概要 |
初年度に当たる2023年度は、本研究の「予備的考察」に当たる作業に力を注いだ。すなわち、フッサール的見地からのレヴィナス現象学の全容解明を困難にしている「事象そのもの/方法」それぞれの二義性の起源を明らかにすること、さらに、レヴィナス現象学を「無限の観念の現象学」たらしめている「事象そのもの(出来事)」の成り立ちを明らかにすることに集中した。 本年度の研究成果(2024年3月刊行の日本語論文)は、1960年代から80年代にかけてレヴィナスが行った「無限の観念の現象学」の中で問題になる「暴力」という事象と、それを解明する方法に関わるものである。具体的には、カント『単なる理性の限界内における宗教』(1793年)をめぐるリクールの二つの解釈学試論(1969年/1992年)を補助線として、そこで言及される「悪」の問題(人間理性の全体性要求と結びついて発現する「宗教の悪」)と、それを明るみに出す仕方を検討した。その結果、レヴィナスが漠然と「戦争と全体性の経験」と言い表す事柄を西洋哲学史上の問題系へ接続させることが可能になると同時に、その問題性を解明する仕方の一部を「志向的分析」という現象学固有の方法が担いうると示すことができた。 なお、論文の形で刊行するに至っていないが(次年度にフランス語論文として発表予定)、デカルト『省察』の「神の観念」をめぐる議論を、とくにその「表象的実在性」と「形相的実在性」の区別に関して再読する一方、リクールの1950年代の現象学研究および1970年代の解釈学試論を参照し、「無限の観念の現象学」の核となる二つの「出来事」の競合と、競合する二つの出来事が連関する「仕方」を考察した。その結果、レヴィナス現象学の原点である「有限な〈私〉が無限なるものの観念をもつ」という事態において何が起こっており、それをどのように記述しうるのか、一定の見通しを立てることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の開始時から現在に至るまで、研究代表者は、エマニュエル・レヴィナスにおける「無限の観念の現象学」を、その細部と全体の両方の見地から再考してきた。細部に関する研究は、「研究実績の概要」欄で述べた日本語論文として結実しており、全体に関する研究は、執筆中のフランス語論文の形で進められている。 本研究は、京都学派の哲学を触媒としつつ、とくに「事象そのもの/方法」という現象学の二大テーマに即してレヴィナス現象学の全体像を刷新することを目指すものである。しかし、今年度の研究に関して言えば、「触媒」となる京都学派の哲学への直接的な言及はない。とはいえ、例えば「研究実績の概要」欄で述べた二つの「出来事」の競合を考える際にも、西田哲学(とくに「純粋経験」概念が示唆する哲学的思索の〈もと〉になる原的体験という着想)や、西谷宗教哲学(とくに「哲学以前」という概念が示唆する「哲学」の問題領域の〈もと〉になる原的圏域という発想)は、常に視野に入れてきた。むしろそこから考えていると言ってもよい。 以上のことから、研究全体としてはおおむね予定通り進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、論文発表を主軸として研究を進めていく。具体的には、まず「研究実績の概要」欄で述べたフランス語論文(レヴィナス現象学を「無限の観念の現象学」たらしめている「事象そのもの(出来事)」に関する研究)を完成させる。次に、同じく「研究実績の概要」欄で述べた日本語論文の続編に当たる論考(前述の「事象そのもの(出来事)」のうち、カントやリクールが注視したような「悪」の問題と繋がる事象に関する研究)を形にする。 その上で、西谷宗教哲学(とくに「哲学以前」という概念が示唆する「哲学以前/哲学/哲学以後」という問題設定)に依拠して「無限の観念の現象学」全体を再編成し、再編成されたレヴィナス現象学の内容がそれとして知られる「仕方」を、リクールの1970年代の解釈学試論(とくに「説明と了解の弁証法」という解釈手法)を手がかりとして明らかにする。これもフランス語論文(レヴィナス現象学の「方法」に関する研究)としてまとめる予定である。
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