研究課題/領域番号 |
23K18649
|
研究種目 |
研究活動スタート支援
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0102:文学、言語学およびその関連分野
|
研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
横田 悠矢 三重大学, 人文学部, 特任准教授(教育担当) (10981813)
|
研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | フランス文学 / 自己の記述 / ミシェル・レリス / アニー・エルノー |
研究開始時の研究の概要 |
フランスでは1970年代以降、自伝文学が多様な形式を見せるようになる。とくに自己の記述の断章化によって、物語的な一貫性を備えた「私」のあり方は大きく問い直された。本研究ではこうした背景のもと、ミシェル・レリスおよびアニー・エルノーの諸作品を、物語に回収されない「短い形式」という観点から分析する。その際、自己=中心的な記述から距離をとる自伝的作品のなかに、歴史・社会学的な関心が認められる点をあわせて考察する。
|
研究実績の概要 |
本研究は、ミシェル・レリスおよびアニー・エルノーの自己の記述について、一貫性を備えた物語に回収されない「短い形式」という観点から分析するものである。 まず、レリスについては、雑誌『レフェメール』(1967-1972)との関連をおもな検討対象とした。詩や日誌、夢の記述といった多様な表現を含む断章形式は、レリスが『レフェメール』に寄稿したテクスト、ひいては『囁音』(1976)以降の自伝的作品に共通する特徴であることを確認した。さらに、レリスによる自己の記述が、とくに『レフェメール』誌後半に寄せられた諸作家のテクストと親和性の高いものであることを明らかにした。 次いで、エルノーに関しては『少女の記憶』(2016)を中心に扱った。エルノー作品は個人の生がもつ歴史・社会学的側面を重視するものとして理解されることが多いが、最初期の企図ではむしろ個人的な「イメージ」が重要な位置を占めていた点を指摘した。そのうえで、『少女の記憶』においては、当初の企図へ回帰するかのように強調されたイメージの機能によって、回顧的な物語としての自己の記述が避けられる傾向にあることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミシェル・レリスは、『レフェメール』誌に計5回寄稿し、第10号以降は編集委員も務めている。本年度は、とくに同誌第1・4・11・14号に掲載されたテクストを手がかりに、雑誌の動向とレリスの自伝的記述の特徴の間に見られる照応を確認した。なかでも、レリスが自伝的4部作『ゲームの規則』の第4巻に収録するテクストを、あらかじめ『レフェメール』に発表している点に着目したうえで、当該の第4巻『囁音』が断章構成となった経緯が、作家をとりまく当時の状況と関連する可能性を指摘した。以上の成果については、日本フランス語フランス文学会秋季大会ワークショップで発表した。 アニー・エルノーについては、『少女の記憶』を主たる分析対象とし、自己の来歴と社会の変遷の精緻な分析という、エルノー作品全体に妥当する特徴に加えて、同作では「イメージ」の機能が重要な役割を果たしていることを明らかにした。実際、エルノーは作家として知られる以前からイメージがもたらす時間の重層性に着目しており、それが十全に表現されたのが『歳月』(2008)だったと語る。本研究は、『少女の記憶』が『歳月』の書法上の特徴をいっそう洗練された形で示すものと捉えたうえで、人生の各瞬間を切り取る断片的なイメージが作品内で有する価値について考察した。エルノー研究の成果については、日本フランス語フランス文学会関西支部大会にて報告のうえ、支部会誌に論文を発表した。 以上のように、本研究は当初の計画に照らして、おおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
ミシェル・レリスおよびアニー・エルノーのテクストを、「短い形式」という観点から引き続き検討する。2024年度は個々のテクストの分析に加えて、両者と同時代の作家たちの関係性にも着目する。 レリスに関連して、『レフェメール』は気鋭の作家たちが詩や散文作品、さらには批評や翻訳を発表した、複合的な側面をもつ媒体である。現時点までの研究では十分に考察することができなかった、同誌に寄稿した作家たちのなかでのレリスの位置について、今後さらに検討する。 エルノーについては、作家による「イメージ」への関心をより正確に理解するため、『写真の使用法』(2005)およびクワルト版『生を書く』(2011)に収録されたフォトビオグラフィの分析を行う。そのうえで、近年の歴史・社会学が個人の記憶に対して示す関心と、エルノー文学がもつ歴史・社会学的側面の交叉に焦点を当てる。 なお、上記の研究に際して、フランス国立図書館での資料収集を予定している。
|