研究課題/領域番号 |
23K18653
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0102:文学、言語学およびその関連分野
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
鈴木 優作 鹿児島大学, 法文学部, 特任助教 (50975802)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 探偵小説 / 推理小説 / ミステリ / 奇書 / 松本清張 / 江戸川乱歩 / 病跡学 / 精神医学 / 精神疾患 / 精神医療 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、人間存在を特徴づける〈心〉の失調状態を表し、かつ歴史的・普遍的な問題である精神疾患を社会的概念として捉え、文学によるアプローチを試みる。心を〈謎〉として扱い、精神医科学知識を推理手法やトリックとして作劇の基礎的構造に活用するなど、とりわけ精神疾患と親和性が高い文学ジャンルであるミステリを対象として、作品に投影された精神疾患をめぐる社会的諸問題を把握し、同時にミステリがそれらの問題に対して発してきたメッセージを読み解く。以上の分析から精神疾患とミステリの関係性を明らかにし、精神疾患をめぐる時代状況の反映と批評というミステリの果たしてきた役割を、社会背景とともに歴史的視点から探る。
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研究実績の概要 |
令和5年度は、研究課題である精神医学言説を視座とした戦後ミステリの作品分析を行った。 「ミステリにおける奇書の再考 内在する〈狂い〉について」(『ユリイカ』2023年7月)では、ミステリ文学における「日本三大奇書」における〈狂い〉の様相を析出し、「第四の奇書」とされる竹本健治「匣の中の失楽」(1978年)における「三大奇書」の〈狂い〉の継承を論じた。また、「三大奇書」が特異な位置づけをされた1970年代が〈狂い〉に価値を見いだす病跡学の時代であったことを指摘した。 また、戦後昭和期に社会派推理小説ブームを巻き起こした松本清張の作品について、同時代の精神医学言説を視座に分析を行った。論文「リアリズムとしての精神医療――松本清張「地の指」論――」(『社会文学』2023年8月)では、「地の指」(1962年)を対象に、精神病院建設ブームという時代背景を参照しつつ、従前の探偵小説が特殊な世界としてイメージ消費してきた精神医療界のステレオタイプを払拭し、「常人」にも異常性が孕まれる可能性を示唆する、読み手のまなざしを啓発する作品と位置づけた。また、「欲望される〈新人〉〈女流〉〈天才〉――松本清張「天才画の女」論――」(『近代文学論集』2024年3月)では、「天才画の女」(1978年)を対象に、本作が70年代の画壇状況や当時流行の病跡学を取り入れ、謎に〈新人〉〈女流〉〈天才〉という三重の属性を付与し、それらを誘惑的な話題としていた同時代メディアと共振することで、謎の解明過程において読者の暴露への欲望を喚起した推理小説であること、謎解きが消化不良に終わることから大衆のセンセーショナリズムを批評した作品と論じた。 そして、戦前戦後の探偵小説界を牽引した江戸川乱歩の作品世界における精神病理について、講演「乱歩の世界~心理と狂気を読み解く~」(鹿児島市立天文館図書館、2024年2月10日)を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度の研究実施状況としては、当初の予定通り、松本清張「地の指」、同「天才画の女」、竹本健治「匣の中の失楽」といった戦後ミステリ作品の分析を通じて、時代の精神医学や社会における精神病理観の投影を明らかにし、それらに対して〈謎解き〉という固有のジャンル表現の作用を分析することができた。また、公立図書館における講演という形で、市民に対して本研究の成果を公開することができた。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、研究課題である精神医学言説を視座とした戦後ミステリの作品分析を行っていき、最終的に精神医学史や精神疾患表象の変遷に沿った通史的な研究として纏め上げていく。また、今年度と同様に、講演等の形式で、市民に本研究の成果を公開していく。
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