研究課題/領域番号 |
23K18680
|
研究種目 |
研究活動スタート支援
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0102:文学、言語学およびその関連分野
|
研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
雨宮 迪子 駒澤大学, 総合教育研究部, 助教 (50980215)
|
研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | 建国期アメリカ文学 / 赦し / 記憶 / 許し / ゴシック |
研究開始時の研究の概要 |
近年「記憶研究(memory studies)」という研究分野において、数多くの哲学者や歴史学者らが第二次世界大戦以降加速した「許し」の精神の政治化について論じてきた。本研究はこの批評的観点から、建国期アメリカにおける「国家的記憶」と「許し」の関係を検討する。合衆国建国後の政治的・文化的主導者たちは、ネイティブ・アメリカンの迫害、ジェンダーや階級に基づく不平等などといった暴力を忘却するかのように、「許し」を領土内の人々の美徳・義務であると説いた。当時の文学作品は、このような政治的記憶言説へのカウンター・ナラティブとして位置付けられるだろう。
|
研究実績の概要 |
①論文1 “The Economy of Forgiveness: Revenge, Removal, and Revisionist History in Hope Leslie and the U.S. Founding Era”(2023年時点で投稿済み) 本科研費研究プロジェクトの基盤をなす論考である。本論文では、建国期アメリカの植民者たちが「赦し」というキリスト教徒的美徳を恣意的に用いて、ネイティブ・アメリカンに対する殺戮行為や簒奪を正当化したことを、「赦しの経済(the economy of forgiveness)」と名付けた。その上で、当時の暴力的な道徳経済に絡め取られない赦しのモデルを、Catharine Maria Sedgwickの代表作Hope Leslieが打ち出していることを指摘した。 ②研究発表 “The Economy of Forgiveness: The Christian Language of Pardon and Indian Removal in Hope Leslie and the U.S. Founding Era” (2023年時点で審査通過済み。論文①と同内容) ③論文2「赦さない者を、赦さないーーキャサリン・マリア・セジウィックのThe Linwoodsにおける慈悲と排除の建国力学」(2023年時点で原稿完成) 独立革命を題材とするセジウィックの歴史ロマンスThe Linwoodsを分析し、「寛恕」という道徳的・宗教的使命と、英国支持者らの排除という建国力学との関係を明らかにした。The Linwoodsにおいてセジウィックは、「赦し」というアメリカの国民的エトスと「赦さない者を、赦さない」という断罪の思想を表裏一体としつつ、建国期アメリカおよび近年の国際社会やアカデミアに共通する「寛容さの理想化・制度化」への抵抗の道筋を示している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書で述べたとおり、「許し」にまつわる本研究は建国期アメリカ文学研究の更なる学際化に資するものであり、2023年度は、その成果を日本国内外で広く共有する下地を十分に作ることができた。 ①論文1 The Economy of Forgiveness: Revenge, Removal, and Revisionist History in Hope Leslie and the U.S. Founding Era" に関する進捗報告 4月から8月にかけて、本論文の執筆に必要な資料を収集した。9月から12月までの4ヶ月間で本論文を書き上げ、当該分野に深く精通するユタ大学英文科名誉教授Howard Horwitz氏に送付し、改稿の助言を受けた。1月から3月は、Horwitz教授と4度ほど原稿のやりとりをしながら論文を書き直し、その間、国際学会American Literature Associationに発表のプロポーザルを提出し、審査を通過した。3月末に、アメリカ文学研究分野の最も権威的な国際誌のひとつであるAmerican Literary Historyに投稿した。今後、査読員からのコメントによっては、同誌からの掲載に向けて修正を加えるか、もしくはその他の有力な国際誌に投稿をすることになる見込みである。 ②論文2「赦さない者を、赦さないーーキャサリン・マリア・セジウィックのThe Linwoodsにおける慈悲と排除の建国力学」に関する進捗報告 12月から3月末にかけて、本科研費研究プロジェクトの成果を日本国内でも発表するために、論文1の執筆で得た知見を応用しつつ、論文2を執筆した(その後4月上旬に、本論文を日本国内のアメリカ文学研究分野のトップジャーナルである『アメリカ文学研究』に投稿した)。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度は、論文1と2の両方が、日本国内外のアメリカ文学研究分野において影響力の高い学術誌に掲載されるよう、必要に応じて修正を加えつつ、新たに3本目の論文(タイトル未定)を執筆する予定である。 論文3の目的は、近年社会的にも学術的にも多大な関心を集めているBlack Redressの問題を、19世紀アメリカ文学研究の見地から再考することである。論文1と2で検討した、ネイティブ・アメリカンや英国支持者らにアメリカ白人が抱いていたステレオタイプを考慮に入れつつ、南北戦争前後の政治的言説および文学作品において、黒人の許しがどのように描かれていたかを分析する。 Frederick DouglassのNarrative of the Life of Frederick DouglassかHarriet JacobsのIncidents in the Life of a Slave Girlのいずれかと、Lydia Maria ChildのA Romance of the RepublicかHarriet Beecher StoweのUncle Tom’s Cabinのいずれかの計2点を主要テクストとし、両者を比較分析する予定である。
|