研究課題/領域番号 |
23K18691
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0102:文学、言語学およびその関連分野
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
甲斐 温子 国文学研究資料館, 情報事業センター学術資料事業部, 機関研究員 (70985572)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 万葉集 / 禁裏御本 / 中院本 / 中世万葉集享受 / 上代文学 / 中世文学 / 万葉集享受 |
研究開始時の研究の概要 |
本課題は、中世における万葉集享受の実態解明に向けた基礎的な調査と研究を行うものである。従来、中世万葉集享受の研究は部分的な事象の把握に留まる傾向にあり、体系的な研究が進んでいない。その原因の一に資料面の未整備の問題がある。本課題では、万葉集の二次的編纂物を中心に、伝本や本文系統等の調査を行うことで、今後の研究の素地を整える目的を含む。加えて、それらの編纂物を生んだ中世後期社会の実態を射程に入れ、同時代において万葉集ないしは万葉集の二次的編纂物の生成がいかなる社会的意義や機能を有したかという点につき一定の見解を見出すことを目的とする。
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研究実績の概要 |
中近世にかけて広く流布したとされる禁裏御本万葉集(散佚)の流布の実態、及び中院本伝搬の背景解明に関する資料調査と研究を進めた。主な成果は以下の二点である。 ①本研究で扱った京都女子大学図書館蔵『かながき万葉集』は、1996年時点で三条西実隆の手になる万葉集抜書として紹介され、実隆が晩年に作成した校本を利用したものとされていた。この度の再検証により、史料の上からは実隆の校本作成の事実は認めがたく、本書は禁裏御本を利用したものであることが明らかとなった。禁裏御本の利用事例としては、現時点で最も早いものとなる。加えて、天文年間の三条西家に禁裏御本(乃至は禁裏御本系の万葉集)が存在したことを示す例としても、きわめて重要な資料であることが明らかとなった。 ②今日、禁裏御本万葉集の訓や書入れを有する伝本群を「中院本系」と呼称する。中院本の繰り返しの書写により、中近世において禁裏御本訓が一定の広がりを見る。一方、いかにして中院本が伝搬したか、具体的な状況が不明であった。本研究では、近年デジタル公開が進んだ宮内庁書陵部蔵桂宮文書の調査から、八条宮智仁親王が中院本の所持者であり、その息智忠まで二代に渡り、各方面に貸与したことが大きな要因であったことを明らかにした。 本研究によって、大正期より一世紀の間研究上の空白として残されていた、禁裏御本及び中院本の同時代における動向の解明が進展するとともに、これまで寛元本の遡源に資する点のみが注目されてきた禁裏御本を、万葉集享受の歴史軸に立体的に配置することが可能となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
禁裏御本、中院本関連伝本をはじめ、蔵書目録や桂宮家文書等の史料の調査と研究、データ整備を進め、その成果を以下に示す二度の研究発表(シンポジウムを含む)において広く問うことができた。 「『かながき萬葉集』の本文について―禁裏御本との関連を中心に―」(和歌文学会特別例会、於日本女子大学、2023年7月15日)においては、『かながき万葉集』と禁裏御本の関連について報告を行った。報告内容は、「『かながき万葉集』について―禁裏御本との関連から―」(『和歌文学研究』127、pp.17-24 2023年12月)として公開している。 「八条宮智仁親王と万葉集―禁裏御本の利用と広がり―」(日本女子大学学術交流企画「万葉集禁裏御本の解明―知られざる中世の万葉集証本―」(於日本女子大学目白キャンパス、2024年3月9日)においては、禁裏御本を取り込む中院本がいかに伝搬したかという点について、八条宮智仁親王、智忠親王がきわめて重要な役割を果たしたことを報告した。加えて、水戸徳川家における収書活動迄を射程に入れ、応永二五年(一四一八)の禁裏御本誕生から近世までの享受の足跡を体系的に捉えることを目した報告を行った。この報告をまとめた研究論文については、2024年度内の公開を予定している。 以上の点から、おおむね研究計画は順調に進展しているものと考える。一方で、当初計画に含まれていた中近世に作成された万葉集の抄出本の総合的分析の為の資料調査と整備に関してはやや遅れていることから、引き続き計画遂行に努めてゆく。
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今後の研究の推進方策 |
以下の三点を挙げたい。 一点目は、引き続き中院本の伝搬の実態と、禁裏御本の利用実態について資料調査と研究を行うことである。中院本系に属する伝本は多く、個々の実態や性質は必ずしも明らかではない。各伝本の詳細な研究は大正期に作成された『校本万葉集』以降停滞傾向にあり、それらの悉皆調査を進めることで、新たに禁裏御本を始点とする系統図の完成を目指す。 二点目は、中近世に作成された部類本・抄出本等の二次的編纂物に関する資料整備と研究である。中御門宣胤『万葉類葉抄』、三条西実隆『万葉一葉抄』等は、伝本系統やその訓の性質について再考すべき段階にある。歌数が膨大であることから、まずは各資料の調査を進め、引き続いて諸本系統の再考を行う。 最後に、中世後期における万葉集享受の一側面として、連句文芸における万葉摂取についての研究を進めたい。中世における万葉集と連歌の研究は、必ずしも進展した分野ではないことから、先ずは基礎的な資料整理を進め、研究下地を整備する計画である。
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