研究課題/領域番号 |
23K18696
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0103:歴史学、考古学、博物館学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高橋 健 北海道大学, 医学研究院, 客員研究員 (20451776)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | オホーツク文化 / 骨角器 / 三次元計測 / 製作技術 |
研究開始時の研究の概要 |
北海道東北部沿岸に5~9世紀頃展開したオホーツク文化は、北方に起源をもつ「異民族」の文化として知られている。オホーツク文化の遺跡からは豊富な骨角器(動物の骨や角を素材とした道具)が出土し、特に狩猟漁撈具や動物・人間をモチーフとした彫刻などが注目されてきた。しかし、これまでの研究は遺物の形態的な比較に留まり、素材や製作技術の検討は十分に行われてこなかった。特に道東部のオホーツク文化の集落である網走市モヨロ貝塚からの出土資料の多くが未報告であることが、研究上のボトルネックとなっていた。本研究ではこうした過去の出土資料の分析を進めることによって、オホーツク文化の骨角器の全体像を明らかにする。
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研究実績の概要 |
北海道東北部沿岸に5~9世紀頃展開したオホーツク文化は、北方に起源をもつ「異民族」の文化である。オホーツク文化は豊富な骨角器をもつことで知られてきたが、本研究ではこのオホーツク文化の骨角器に焦点をあて、その全体像を明らかにすることを目指している。 オホーツク文化の骨角器としては銛頭や釣針といった狩猟漁労具や、動物や人物の彫像が注目されてきた。しかし、実は遺跡から出土する器種としてもっとも数が多いのは鯨骨製の掘り具である。骨角製掘り具の分類としては、大場利夫による骨斧・骨箆・骨鍬などの形態にもとづく分類がよく知られている。だが大場が扱った資料はごく一部の実測図が示されただけであり、分類の検証をおこなうことができなかった。また、掘り具は再加工がさかんに行われていることがわかっており、単純な形態による分類では不十分であることがわかってきている。 本研究では、網走市モヨロ貝塚から出土した資料の三次元計測を行うことによって、これら未報告資料のデータ化を行う。令和5年度は、3Dスキャナ(EINSCAN SP V2)および三次元計測ソフトの導入を行い、次年度に行う本格的な整理作業に向けての地ならしをおこなった。北海道大学医学部人類進化学教室において、同大学所蔵のモヨロ貝塚出土資料のうち、大型の鯨骨製掘り具を対象として、3Dスキャナ(EINSCAN SP)による三次元計測を行った。手作業よりも迅速な処理が可能であることに加え、任意の箇所での断面図が作成可能であること、体積(比重)が計算可能であることなど、手実測にはないメリットがあることを確認できた。また、体積(比重)は算出困難であることもあってこれまであまり注目されてこなかった属性だが、データを増やすことで掘り具の分析の手掛かりの一つとして活用できる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は、機材の調達など次年度の調査の準備に専念した。このため実際の資料調査はまだ進んでいないが、これは予定通りの進捗である。 3Dスキャナとしては、EINSCAN社のEINSCAN SP V2(白色LED使用)を購入し、2024年1月に北海道大学医学部人類進化学教室においてモヨロ貝塚出土の大型鯨骨製掘り具の計測を開始した。現時点では、200点以上の資料のうち16点を計測した段階である。現時点では1日当たり5点程度の計測が可能であるが、これはあくまで手順と精度の確認を主眼としたため、今後セッティングを詰めることによって大幅に作業を効率化することも可能だと思われる。 上記の3Dスキャナは鯨骨製掘り具のような大型資料の三次元計測にはきわめて有効だが、ある程度の大きさ・厚みのある資料でないと実用に耐える結果が得られない。そのため、小型資料の三次元計測においてはフォトグラメトリを利用することとし、PCと専用ソフト(Agisoft Metashape)を購入した。過去の撮影データの再処理によって動作と作業環境の確認を行った。 網走市立郷土博物館において鯨骨製掘り具の保管資料を調査したところ、2009年に報告された史跡整備事業に伴う発掘調査での出土資料を含めても、大型鯨骨製掘り具がそれほど多くないことを確認した。この結果にもとづき、令和6年度の資料調査は北海道大学医学部所蔵資料を中心に進めることを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、予定通りモヨロ貝塚出土資料の観察と三次元計測による記録作業を進めていく。すでに必要な機材はそろっており、1週間程度の出張を複数回(3回程度)行う予定である。令和5年度に実施した所在確認の結果、まずは1941・42年に行われた緊急調査の出土資料の計測作業を進めるのがもっとも効率が良いと考えられるため、北海道大学医学部と函館市北方民族資料館での作業を予定している。両者はもともと同じコレクションから分かれた資料群である。対象とする器種は大型の鯨骨製掘り具を中心とするが、骨製釣針や銛頭などの資料も可能な限り計測したい。 海外調査として米国ペンシルベニア州フィラデルフィアに所在するブリンマー大学博物館が所蔵している牙製人物像の調査を行う。この資料は、オホーツク文化の牙製婦人像に関連する可能性があるものとして日本人研究者の間で1960年代から注目されていたものだが、個人コレクションだったためにその後所在不明となっていた。申請者は2021年にこの資料がブリンマー大学博物館に所蔵されていることを知ったが、今日に至るまで実地調査の機会を得なかった。牙製婦人像はオホーツク文化を代表する遺物とされながら、これまでに10点余りしか確認されていない稀少な資料である。このため、この牙製像が本当にオホーツク文化の牙製婦人像であれば、その学術的価値はきわめて高い。この牙製像に対しては、フォトグラメトリによる三次元計測を行う予定である。
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