研究課題/領域番号 |
23K18698
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0103:歴史学、考古学、博物館学およびその関連分野
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
石黒 志保 山形大学, 人文社会科学部, 講師 (70978410)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 日本中世史 / 慈円 / 愚管抄 / 新古今和歌集 / 神仏観 / 言語認識 / 認知機能 / 仏教的世界観 / 和歌論 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、中世の仏教的世界観及びそれを背景とする中世国家の成立について、鎌倉初期の歴史書や歌論書を主な題材として、当時の貴族層が自らを取り巻く現象的・観念的世界の構造をいかに認識し、表現したのか考察するものである。 特に和歌を神代から存在する和語(やまとことば)で詠んできたものとする歌論書が、当該期に頻出したことは「日本」におけることばのありようが振り返られたものと捉え、そのことばの真理性をめぐる言語認識が、いかにその世界の構造に統一性を与えたのか、検討することを目的とする。これにより、日本中世における仏教的世界の構造の把握と、中世国家の成立の因果関係の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究は、中世国家成立期に、当時の貴族層が自らを取り巻く現象的・観念的世界の構造をいかに認識し、それを叙述したのか検討することを目的としている。その認識は中世国家の理論基盤である本地垂迹思想を成立させる言説として現れており、本研究は中世の仏教的世界観の変遷を解明することに繋がるものである。 令和4年度は、天台座主慈円や藤原俊成、藤原定家らの『新古今和歌集』成立過程における貴族層の言語認識の調査、またそれを成立させた仏教的言語認識の分析をし、その成果を古代学・聖地学センター研究会にて報告を行った。報告では、勅撰和歌集『新古今和歌集』成立過程における人と神仏の関係が再構築されている点、またその再構築にあたり、和歌という「和語」で詠うこの国の言葉の歴史を語ることで、人と神仏のありようが「勅撰集」として、貴族層における認識の共有化が図られたのではないかと考察した。 さらに、慈円による歴史書『愚管抄』にて言及される「仮名」への認識を通じて、六国史以来、「真名」である漢字で叙述されたものが正史であるとされてきた、日本における歴史叙述の問題について、現在、考察を進めている。「真名」で書かれた六国史が平安中期以降、姿を消し、変わって『栄華物語』や『大鏡』などの歴史物語が登場するが、それらは仮名文で書かれたものである。『愚管抄』成立の背景にはその影響が多大であったと思われるが、しかし同書は『大鏡』のような複数人で語る歴史叙述とは異なり、慈円の独白によって物事の是非を論じた論説書である。慈円は歴史の「道理」を理解するため、当時の人々に共有された正しい意味を持つ「和語」にて歴史書を書き表そうとし、その結果、一人称でも物事の是非が論ぜられるとの認識に立ったのではないかと考察した。その省察は、「中世における二つの言語認識―『愚管抄』を手がかりとして」(『寧楽史苑』第69号、2024年2月)にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、言語の問題を取り扱う関係上、特に史料の文脈や語句の精読が必須である。そのため写本の調査を行い、語句の補遺を精査し、史料の文意を正確に把握することが重要である。初年度である2023年度は、『愚管抄』や『拾玉集』などの史料の解読を、引用される仏典解釈とともに行うことを優先し、その成果を論文として公表することができた。また、同論文で本研究の研究視座である、日本中世の言語認識、及び歴史叙述の問題がいかに中世国家成立期の社会に影響を及ぼしたのか、仮説を立てることができたため、次年度は写本調査を行い、さらなる史料読解を進め、その仮説を補強することに取り組む。加えて、本年度は歴史学及び国文学の歴史叙述に関する先行研究のみならず、言語学や文化人類学の言語認識、認知機能の拡張に関する研究資料の収集・読解を行い、次年度以降の研究成果に反映できる予備的考察を終えている。以上の点から、概ね順調に研究が遂行されていると評価しえる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、前年度に持ち越していた写本調査を進め、さらなる史料及び先行研究の読解に努める。また並行して、「仮名」という日本語の歴史のなかで、その文字の発明が人の認知機能の拡張に及ぼした影響について、平安中期の歴史物語や言説に遡り、分析・考察を行う予定である。 その歴史叙述や言語認識のあり方が、いかに中世における仏教的世界の構造の把握に影響を与えたのか。その構造把握と、中世国家の成立の因果関係の解明について、当初の研究計画に基づき、研究を進め、成果の公表を計画している。
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