研究課題/領域番号 |
23K18701
|
研究種目 |
研究活動スタート支援
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0103:歴史学、考古学、博物館学およびその関連分野
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田村 円 東京大学, 大学院総合文化研究科, 学術研究員 (30983358)
|
研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
|
キーワード | 西ドイツ / 過去の克服 / 在独ユダヤ人 / 和解 / ローカルな取り組み / 青少年教育 / ドイツ / 西ドイツ建国期 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、初期西ドイツにおける「過去の克服」―ナチ時代の負の過去との取り組み―に、ドイツに留まったユダヤ人生存者(以下、在独ユダヤ人)がいかに関与したのか検討するものである。 具体的には、教育・司法領域での在独ユダヤ人の主体的関与とドイツ=ユダヤの間の協働の実態を明らかにする。アクターとして、ユダヤ人ゲマインデ、市政府、市民団体「キリスト教=ユダヤ教協力協会」に着目し、なかでもユダヤ側のイニシアティヴがみられたベルリン市とフランクフルト市の取り組みに光を当てる。
|
研究実績の概要 |
本研究は、西ドイツの「過去の克服」において、ドイツに留まったユダヤ人生存者(以下、在独ユダヤ人)がいかに主体的に関与したのか、検討するものである。「過去の克服」とは、1949 年に建国された西ドイツから現在の統一ドイツに至るまで続く、ナチ時代の負の過去との様々な取り組みの総称であるが、これに関連する先行研究では、加害者側であるドイツ側によるユダヤ側との和解の試みという見方が前提となっている。 たしかにこれらの評価は重要な事実を示しているものの、和解の対象となったユダヤ側のいわば客体化が生じ、その結果ユダヤ側の主体性が看過されてきた。なかでも在独ユダヤ人の間で、教育・司法分野での取り組みに広い関心が存在したこと、また彼ら自身も取り組みにイニシアティヴを発揮したことにはほとんど言及されてこなかった。本研究は、主体としての在独ユダヤ人という視点を取り入れることで、在独ユダヤ人による「過去の克服」への関与とはいかなるものだったのか、明らかにする。とくに、一般に過去の克服の取り組みが本格化したと言われる1950 年代後半から70 年代にかけて、いかなる在独ユダヤ人の関与やドイツ=ユダヤの間の協働が存在したのか、教育・司法領域における取り組みを中心にその実態を解明する。 ドイツ人の営為と位置づけて捉えられてきた戦後ドイツの「過去の克服」の取り組みを、ユダヤ側のイニシアティヴに着目して再検証しようとする本研究が完成した時には、マイノリティ研究や和解学などの諸分野に対してもインパクトを与え、広く示唆を与えるものになると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【2023年度の研究調査状況】 2023年度は、本研究の主要な調査対象である「キリスト教=ユダヤ教協力協会」の1950年代と1960年代の取り組みを中心に検討した。キリスト教=ユダヤ教協力協会とは、戦後のドイツ各地に設立された市民団体であり、西ドイツ初期における多様なドイツ=ユダヤ協働がみられた場として重要である。具体的には以下の課題に取り組んだ。 第一に、フランクフルト、ベルリン、ハンブルク、ミュンヘン、デュッセルドルフをはじめとする主要な協会が編纂した刊行一次史料を調査した上で、協会毎の取り組みの比較分析を行った。第二に、本研究の重要史料の一つであるアルゲマイネ紙(正式名称『在独ユダヤ人一般週刊新聞』)について、対象時期に発行された新聞記事の収集を進めた。そのうえで、同紙上に掲載された同協会に関連する報道記事および協会関係者による寄稿記事を調査し、その全体像を検討した。第三に、検討した記事の中から「過去の克服」の中でも教育分野と司法分野に関連する記事を精査し、記事内容の考察を進めた。 申請者は、2024年6月に日本女子大学で開催される「総合研究所研究プロジェクト:トランスナショナルな視点からの『人種』概念の変遷の研究―ヨーロッパ・アメリカ合衆国・東アジアにおける相互影響」第1回研究会にて行う報告「ドイツ=ユダヤ共生をめぐる議論―ホロコースト後の在独ユダヤ人に着目して―」の中で、2023年度の研究成果を公表する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度は、当初の研究実施計画に沿って、引き続き教育分野および司法分野における取り組みの解明に向けて研究を進める。その際、とくにユダヤ側のイニシアティヴがみられたベルリン市、ハンブルク市、フランクフルト市における取り組みを事例として、以下の課題を検討する。 [A.教育分野]1950年代末以降、ナチの過去に関する教育を充実させるべきであるという意識が各所で生まれはじめ「アウシュヴィッツ後の教育」が議論の俎上に上るようになった。本課題では、ドイツ人の青少年教育への問題意識の広がりに対し、これに積極的に取り組んだベルリン市とハンブルク市を事例として、キリスト教=ユダヤ教協力協会、ドイツ公共ラジオ局、市政府、ユダヤ人ゲマインデの取り組みを検討する。 [B.司法分野]1963年から1965年のアウシュヴィッツ裁判にはじまる強制収容所裁判に際し、加害者裁判をドイツ人青少年の啓蒙と教育に繋げようとする取り組みが見られた。本課題では、こうした取り組みに、フランクフルト市を中心とするキリスト教=ユダヤ教協力協会、ドイツ公共ラジオ局、市政府、ユダヤ人ゲマインデはいかに関わったのか、解明する。また、アウシュヴィッツ裁判以後の強制収容所裁判に際して、裁判での証言のために来独した強制収容所の生存者のための精神的サポートが、ベルリンをはじめとするキリスト教=ユダヤ教協力協会での重要な課題とされていくが、そうしたイニシアティヴの萌芽が、1960年代までの取り組みにいかに見られたのかも検討する。 本研究課題を進めるにあたり、2024年度は夏季にドイツに渡航し、各市の文書館と協力協会の文書室で調査を行う。加えて『ヨーロッパ研究』『ユダヤ・イスラエル研究』をはじめとする学術雑誌への論文投稿、学会・研究会での研究報告を通じて、本研究課題の成果を積極的に公表する。
|