研究課題/領域番号 |
23K18704
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0103:歴史学、考古学、博物館学およびその関連分野
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
新津 健一郎 信州大学, 学術研究院人文科学系, 助教 (40982799)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 吐谷渾 / 西南中国 / 南北朝 / 東洋史 / 東部ユーラシア / 歴史地理 / 東アジア |
研究開始時の研究の概要 |
吐谷渾は3世紀末から7世紀まで現在の中国青海一帯を支配した鮮卑系国家であり、中国諸王朝と接触した記録が残る。一方、青海では近年考古調査が進み、吐谷渾関連の新資料が相次ぎ公表されている。本研究では、中国諸王朝が分立興亡し中華世界の再編が進んだ4~6世紀に焦点を当て、既存研究及び新情報の網羅的整理に基づき基本史料を再度精査することで、歴史地理及び対外接触の観点から吐谷渾の歴史展開とその意義を解明する。
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研究実績の概要 |
本年度は『晋書』吐谷渾伝の訳注作業を軸として研究を進めた。この文献は、概ね3世紀末から5世紀初頭の吐谷渾史を復元する基本史料である。『宋書』・『魏書』及び『資治通鑑』などにもこの時期の記述が散見するため、各書の記述を見比べつつ、文献から確認できる基本的な事実関係を整理した。年度末までに『晋書』については一通りの作業を終えた。 また、『晋書』吐谷渾伝の訳注作業の一環として、5世紀初頭までの吐谷渾史に関する物証の検討も進めた。とくに、初期の吐谷渾が拠点を置いた「沙州」、東方から圧迫を受けた際に拠点となった「白蘭」の位置や、国内の社会経済構造について、地形・環境・栽培植物や飼育家畜の特性などに注目し、関連領域の成果も参照しながら分析を行った。 なかでも、政治・経済活動を復元する鍵となる定住地については、古城に関する考古研究をもとに精査を行った。目下、6世紀ごろ以降に吐谷渾が拠点とした伏俟城については調査が進み、報道などにより成果の一端が明らかとなりつつある。一方、それ以前の拠点については位置の比定に諸説あり、当該地区においてはそれぞれ古城遺跡こそ少なくないものの、年代が確定している古城は限られている。そこで、「沙州」の可能性が高いとされる貴南県に焦点を当て、『中国文物地図集』などから古城及び関連遺跡をリストアップした。そのうえで、該当する遺跡に関する調査報告や地方志などによる現地情報と、文献によって得られる歴史地理的知見とを照合する作業を行った。 加えて、吐谷渾と中国華北・江南の政権との接触には、それぞれ河西地域・四川地域を経由することが必要となる。そこで、経由地の交通状況及び各政権の勢力範囲についても検討を行った。 以上の作業を通じ、5世紀初頭までの吐谷渾について文献・物証の両面から、国内の政治社会状況と対外関係とを関連付けて検討するための基礎的知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『晋書』吐谷渾伝の訳注作業については概ね予定通り進めることができた。とくに、オンラインの古籍データベースを利用することで、効率的に文献学的検討を行うことができた。また、考古資料に関する情報も、書籍や雑誌論文を遅滞なく入手することができた。研究遂行の過程で新たに知りえた資料、具体的にいえば地方志や博物館における展示図録、考古関係機関による出版物などの中には、先行研究での参照頻度が低いもの、またはここ数年で刊行されたばかりであるため日本国内の研究機関等にほとんど所蔵されていないものもいくらかあったが、書店を通じた取り寄せなどにより滞りなく調達し、研究に反映することができた。前記の研究実績概要は当初の計画に照らして予定通りと判断できる。 また、以上の作業が順調に進行したことにより、現地調査の課題の洗い出し及び具体的計画の準備も計画通りに進んだ。課題については、学術的論点だけでなく、COVID-19対策による移動規制への対応、調査者自身の感染症対策、また現地における法令順守に留意して情報の収集と検討を行った。具体的には、学会・研究会等の機会を利用して、現地滞在中の研究者や、最近現地への渡航・調査を実施した研究者との情報交換を行い、最新の状況や情報収集手段についての知見を得た。なお、そうした事前準備の一環として現地の気候条件を確認する中で、安全確保及び効率的な研究活動実施のため、青海省における調査は夏季に実施することが望ましいという結論に達した。そこで、渡航は第二年度に行うこととし、年度内は文献研究及び予備的調査を優先させる形で研究活動を行った。 以上の理由により、2023年度において本研究は「おおむね順調に進展した」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
まず、前年度に訳注作業を進めた『晋書』吐谷渾伝については、2024年度中に活字化を予定している。ただし、訳注原稿を掲載可能な媒体は多くないため、公表方法を早めに検討し、成果公表に進むこととしたい。また、『晋書』吐谷渾伝と同じ手法により『宋書』・『魏書』における吐谷渾伝についても訳注作業を行う予定である。とくに、より成立年代が早い『宋書』については『晋書』と同様のプロセスにより作業を進め、早期に訳注の公表を目指す。これにより、5世紀までの吐谷渾史に関する基本的な情報を復元することになる。 さらに、2024年度には、これまでの準備を踏まえて現地調査を予定している。これにより、地形(景観)・博物館収蔵品などを実見するとともに主要地点の距離関係を確認する。これまで専ら紙上で行ってきた検討作業を実際の事物と結びつけることで、研究を一層深化させる。 加えて、歴史地理的分析にも本格的に踏み込む予定である。本研究は吐谷渾の対外関係に目を向けるものだが、通交は使節が実際に移動してこそ成立した。そこで、現地調査の結果も踏まえつつ、経由地の歴史展開に関する検討を行う。具体的には、吐谷渾支配地から華北へ向かう際に通過する河西地域、江南へ向かう際に経由する四川地域について、本研究対象時期の状況を整理し、それぞれ長安・洛陽・建康など遠方に所在する政権との関係や、地方統治官・在地有力者の配置状況や権限を考察する。これにより、吐谷渾との通交がいかなる歴史的条件の下で行われたか、ということを明らかにする。 以上を踏まえて、本研究の総論である広域史的考察にも取り組む。すなわち、これまでの検討結果について、東南アジア・朝鮮半島および日本列島など他地域の事例と比較することによって、その意義を明確化する。 以上の取り組みを通じて、本研究について一層の推進を図る予定である。
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