研究課題/領域番号 |
23K18728
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0104:地理学、文化人類学、民俗学およびその関連分野
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
植村 円香 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (70710292)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 新規参入者 / コーヒー / COVID-19 / 葉さび病 / コナ / ハワイ島 / コーヒー生産 / 持続性 |
研究開始時の研究の概要 |
ハワイ島コナで生産されるコナコーヒーは、高品質・高価格のコーヒーとして消費地で認識されてきたが、1970年代には生産者不足から衰退の危機に直面した。その後、世界的なスペシャリティコーヒーブームが起きると、アメリカ本土等から移住した新規参入者がコーヒー生産を始め、コナコーヒー産地は維持された。しかし、2020年以降、季節労働者不足や葉さび病の影響で、コーヒーチェリーの生産量や品質が低下しており、コナコーヒー生産は転換期を迎えている。そこで本課題では、転換期における新規参入者の農業経営について聞き取り調査等を実施し、豆の生産量や価格データと関連づけながら、コナコーヒー産地の持続性を明らかにする。
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研究実績の概要 |
2023年は,コナコーヒー農園の種類を把握したうえで,新規参入者への農業経営に関する聞き取り調査と各種データ分析から,転換期における新規参入者のコーヒー生産と産地の変化を捉えることを目標とした.その結果は,(1)~(3)の通りである. (1)コナコーヒー農園の種類:2023年時点で新規参入者が経営するコーヒー農園は,約180存在し,そのうちの約40がチェリー生産,精製,焙煎,販売まで携わるコーヒー関連企業等,約40農園がコーヒーチェリー(以下,チェリー)生産,精製と焙煎の全工程または一部,販売に携わる個人生産者であった.そのほか,既存の生産者が経営する農園が約400存在し,生産したチェリーをコーヒー関連企業等へ販売していた. (2)転換期における新規参入者のコナコーヒー生産:COVID-19の影響では,メキシコからの収穫労働者不足が深刻化していた.また,葉さび病被害では,豆の品質や生産量の低下がみられた.こうした問題により既存の生産者は減少しており,彼らからチェリーを購入していた新規参入者の農園では,チェリー購入量の減少,買取価格や販売価格の引き上げ,島内での収穫労働者の調達,品種転換などの変化がみられた. (3)転換期におけるコナコーヒー産地の変化:コナでは,伝統的にコナティピカという爽やかな酸味が特徴の品種が栽培されており,グルメコーヒーとして消費地で評価されてきた.しかし,コナティピカは,葉さび病に弱いことから,新規参入者は葉さび病への耐性があると考えられる多様な品種への転換を急速に進めていた.また,新品種がコナティピカよりも斬新な風味であることからコンペティションで評価される社会的背景や,コナコーヒーの表示規定において品種に関する規制がないという制度的背景も品種転換に拍車をかけていた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年は,(1)新規参入者への農業経営に関する聞き取り調査,(2)転換期におけるコナコーヒー産地の変化に関するデータ分析,(3)品種転換に関するデータ分析を以下の通り実施した. (1)新規参入者が経営する10農園を対象に,転換期以降のコナコーヒー産地と各農園の農業経営の変化について聞き取り調査を実施した.その結果,新規参入者は,「研究実績の概要」で取り上げた問題が発生したことから,チェリー購入価格や生豆・焙煎豆の販売価格の引き上げ,島内からの収穫労働者の調達,品種転換など様々な対応策を講じていた. (2)転換期におけるコナコーヒー産地の変化を分析するためには,コナ全体のコーヒー生産に関するデータが必要であるが公開されていない.そこで,コナ最大級の農園(コナの既存生産者の約半数からチェリー購入している農園)から,チェリー生産量と購入量,1lb(454g)あたりのチェリー平均購入価格のデータを提供していただき,転換期におけるコナコーヒー産地の変化を捉えることができた. (3)コナコーヒーの品種に関するデータはないが,ハワイ州で実施されたカッピングコンテストの地区別・品種別データを使用し,コナコーヒー産地の品種転換の動向を捉えた.その結果,2020年の葉さび病拡大以降,コナでは他の地区に比べてコナティピカの比率が大幅に減少しており,産地全体として品種転換が進んでいることを裏付けることができた. こうした一連の研究成果は,2023年3月の日本地理学会春季学術大会(青山学院大学)で発表した.また,2024年8月のInternational Geographical Congress (Dublin City University, Ireland)での発表がすでに採択されている状況である.以上のことから,本研究はおおむね順調であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は,コナコーヒー産地の持続性について2つの視点から研究を遂行する.ひとつは,2023年と同様に新規参入者の農業経営に注目するものである.新規参入者(約180農園)のホームページを参考に,農業経営に関するデータベースを作成し,新規参入者のタイプを類型する.そのうえで,類型ごとに典型的あるいは特徴的と考えられる農園に対して,農業経営や今後の経営展開に関する聞き取り調査を実施する.もうひとつは,消費地における新品種の「コナコーヒー」の評価等に注目するものである.スペシャリティコーヒーブームのなかで,新規参入者は,コナコーヒー産地のブランド向上よりも,個々の農園のブランド向上を目指す傾向にある.このことから,コナコーヒーという「産地性」は失われつつあるのだろうか,また,新品種の「コナコーヒー」を消費地側はどのように評価しているのだろうか.こうした疑問を明らかにするため,コナコーヒーを取り扱うコーヒー卸売・小売業者対して,コモディティコーヒーとスペシャリティコーヒーの今後の動向や,伝統的なコナティピカではない新品種の「コナコーヒー」に関する考えや評価に関する聞き取り調査を実施する.以上の調査を遂行することで,生産地と消費地の視点から,コナコーヒー産地の持続性を捉えることができる.
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