研究課題/領域番号 |
23K18740
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0104:地理学、文化人類学、民俗学およびその関連分野
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
竹内 祥一朗 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 飛鳥資料館, 研究員 (50976165)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 景観史 / 文化的景観 / 歴史的風土 / 生活・生業 / 博物館 / 飛鳥 / 水田稲作 / 写真 / 文化の社会的構築 / ライフヒストリー |
研究開始時の研究の概要 |
奈良県明日香村一帯に広がる飛鳥地域には、古代の遺跡と一体となった古都の農村景観が広がる。「日本の原風景」として讃えられるこの地域では、歴史的風土の審美的・考古学的な保全を目的に、農地や山林が収公されては管理の担い手を失い、景観の荒廃が進んでいる。 この問題に対し、本研究では文化的景観の概念と博物館の機能を基軸に、動態的な景観保全の指針となるべき地域特性の再構築を試みる。現代飛鳥地域における景観と風景認識の変遷を踏まえ、必ずしも「古都」や「歴史的風土」に収斂されない飛鳥の地域特性を抽出し、博物館を拠点として成果を広く発信する。この試みは、地理学からの景観保全への関わり方を提示するものでもある。
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研究実績の概要 |
交付後の半年間では、関連する資料の収集・調査及び分析を中心に研究を実施した。収集した資料は主に、①近現代の飛鳥地域の地図・空中写真資料、②1960年代から1980年代にかけての新聞資料、③戦後以降の飛鳥地域を表象したガイドブック、写真類、④その他の地域の生活・生業に関わる資料に分類される。 ①では、飛鳥地域の実存的な景観変遷を把握するため、過去の地形図類や空中写真などを収集し、分析に着手した。まずは奈良文化財研究所内にて作成、撮影、保管されてきた資料から収集をおこなった。これらの資料は、国土地理院などが発行する旧版地形図や空中写真よりも、大縮尺で作成・撮影されているため、今後により詳細な分析を実施する。 ②は、飛鳥地域の景観保護策の基幹となっている、古都保存法や明日香法の制定前後での、動向や世論、地域住民の意見の確認を目的とした。個々の記事とその内容をまとめ、当時の景観保護に関する実践や言説の全体像の把握を進めた。 ③は地域外部からの景観表象に着目し、飛鳥の景観が戦後以降のガイドブック内でいかに評価されているかを確認した。また、複数のガイドブック類では、写真家入江泰吉による風景写真が挿入されていることが確認できた。入江の写真は直接的に飛鳥の景観を広く発信する媒体として、重要な意義を持っていたと想定されたため、入江個人の飛鳥地域の認識や表象の実践も含めて検討を始めた。さらに、現在の景観認識を探るため、飛鳥資料館の写真コンテストに応募された写真群を対象に、撮影者や来館者の飛鳥に対する景観認識についての分析を行い、『奈良文化財研究所紀要2024』に投稿した。 対して、④では、地域内部の生活・生業の記録を通して、「古代史の舞台」といった外部からの価値づけとは関係なく存立してきた地域特性の把握を試みた。具体的には、地域の集会所などに残される、農業や薬業などの資料の調査に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、飛鳥地域ではいかに景観が変遷し、景観に対する認識も変化し構築されてきたのか、という課題の解明を前提に、「古代史」や「日本の原風景」といったイメージに収斂されない、地域特性の存在を探索し、展示公開することを目的としている。研究期間の1/3が終了した現時点において、目的の前半部分にあたる景観と認識の変遷についての資料収集が終了し、その分析も順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の資料調査の成果を踏まえ、今後は地域の生活・生業に関わる聞き取り調査や現地調査を中心に研究を推進していく予定である。本年度前半には、前年度に収集した資料の取りまとめや分析を引き続き実施する。 一方で、本年度4月からは、水田稲作や水利を中心とする飛鳥地域の生業活動を中心とする聞き取り調査を開始した。今後もこうした調査を重ねることで、生活・生業に焦点を当てた地域特性の掘り起こしを図る。 さらに、本研究では調査成果を広く一般に発信することも重要な目的に位置付けている。本年度後半には、上述の資料調査や聞き取り調査の成果を、研究代表者が所属する飛鳥資料館の特別展のなかで、わかりやすく解説することを計画している。展示に際しては、インタビュー映像の撮影や、現地での景観調査の成果を平易に解説する地図ジオラマなどの製作を計画している。そのほか、資料調査のなかで地域から発見できた資料のなかには、破損が激しいものも少なくない。展示のなかで出陳が不可欠と考えられる資料については、資料の修理も視野にいれて展示計画を進める。 本年度末には、上記の調査・分析を通して得られた知見を、論文や報告書などの形でまとめ、学術誌や研究紀要等への投稿を目指す。
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