研究課題/領域番号 |
23K18747
|
研究種目 |
研究活動スタート支援
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0105:法学およびその関連分野
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
門田 美貴 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (50982526)
|
研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | 萎縮効果論 / 集会の監視 / 間接的・事実上の干渉 / 監視と萎縮 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、これまで曖昧で法学上の議論に馴染まないと批判されることも多かった萎縮効果論につき、理論的審査枠組みを提示しようとするものである。近時、憲法上の権利の行使は、直接的な禁止のみならず、こうした行使に対する負荷やコストが課されることがある。人々が自由を行使することを控えさせるような萎縮効果は個人のみならず、社会全体へのネガティブな影響をもたらす。本研究では、一方では個人権的なアプローチから、憲法審査の段階のうち「介入」概念を修正し、他方では客観法的な観点から法規範を憲法上統制する途を探る。
|
研究実績の概要 |
重要な参考文献となる書籍の発表が遅れていたことや議論の熟し度合に照らし、研究課題の検討の順番やその射程を変更している。 第一に、萎縮効果論が違法な「介入」行為を基礎づける際に用いられており、我が国における発展可能性を説いている。萎縮効果論は監視カメラの設置の違法性を根拠づける際に参照されており、その違法性の認定においては、我が国では差し当たり個人を萎縮させるという「目的」の違法性を具体的事実関係に照らして抽出する手法が採用されていることを明らかにした。このほか、ドイツの判例・学説を参照し、従来、情報の収集・保存を伴う監視のみに法的保護が限定されていたところ、とりわけ集会の開催といった場面での情報収集を伴わないモニタ―上での監視なども前者と同様に自由権行使への否定的な効果が期待されるのであり、法的規制の対象とすべきであるとの見解が説かれていることに着目し、萎縮効果論による法的保護の拡張可能性を説いた。 第二に、現在萎縮効果の新しい局面として説かれる、「集会開催のコスト」の統制手法について、チューリヒ大学において研究を行った。アメリカ、ドイツ、スイスなど各国で集会開催に対する数々の条件づけが集会開催を実質的に妨げているのではないかとの疑問が提起されているが、そのうち、集会の警備コストを対象に、集会に対して課されるこうした負荷がいかにして統制されてきたのか、その他の欧州諸国に比して議論および判例の蓄積の豊富なドイツ法を参照に検討を行った。在外研究中に行った成果は学内紀要での公表を予定している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一年目の研究内容については、上記の通り研究計画を変更する必要があったが、臨機応変に研究対象を変え、別のアプローチを試みることによって、新規性が高く、また萎縮効果論に関する多様な論点を提起させるテーマについて検討するに至っている。とりわけ、上記「集会のコスト」に関する検討は、一般的萎縮効果が問題となる明確性の問題(いかなる場合に、どの程度、集会参加者がコストを払う必要があるのか)を検討することもできるほか、具体的な事案において当該個人がコスト徴収を課されることが妥当か、といった点も幅広く論じる。また、これらの検討は、租税国家論や公課徴収の議論にまで一定の検討を行うものであり、「監視と萎縮」という、当初予定されていた研究の射程をさらに広げるものである。さらに、当該テーマは、広く援用されている「萎縮効果論」というコンセプトそのものでは統制に限界をもたらすことも示唆した。従来、明確性の要請を十分に満たしていればコスト徴収も許されるとの考えや、コストの金額が僅少であれば憲法上コスト徴収が問題とならず、萎縮的な効果をもたらさないという見解が散見された。これに対して、本研究では、自由権行使への負荷を課すのは許容されるのか、という観点から、集会へのコスト徴収そのものを統制することを志向している。このように、萎縮効果を出発点としながら、当該論拠の意義と限界を認識したうえで、あらゆる多面的なアプローチから、集会の自由への間接的・事実上の干渉への審査・統制を行おうとしている。
|
今後の研究の推進方策 |
第一に、前年度に行う予定であった、「帰責」概念の検討を行う。私化に伴い、刑事捜査段階においても私人からの情報提供や私人の動員が広範になされるようになったが、これらは国家の「私的領域への逃避」を許してしまうのではないかという懸念とともに、個人の自己負罪特権を空洞化させる危険があるのではないか、との批判が刑事法学者のみならず、憲法の視点からも説かれるようになった。今後の研究では、「帰責」概念の拡張によって、個人に課せられる間接的・事実上の干渉への公法的統制の途を開くことを目指す。 第二に、集会のコストを含め、集会に対して課される条件づけは、さらなる検討の必要がある。まず、集会への間接的・事実上の干渉としてのコスト徴収は、警備コストのみならず、さらには民事上・刑事上の責任も存在することが説かれている。こうした集会のコスト化に関して、憲法上どのような統制を課すべきなのかを、ドイツの判例・学説を例に検討する必要がある。さらに、こうした種々の条件づけが、基本権――ここでは集会の自由――の本質的領域を損なうのではないかとの疑問が提起されており、民主政との関係でネガティブな影響をもたらすのではないか、との指摘がドイツでは行われている。この問題は、それぞれは小さな制約が累積すれば大きな介入になり得ることを指す「介入の加算」概念との関係で本研究を発展させる可能性があり、どのようにこれら種々の制約を統制すべきか、ドイツの議論を参考に理論的示唆を我が国にもたらすことを志向する。
|