研究課題/領域番号 |
23K18799
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0107:経済学、経営学およびその関連分野
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
伏島 光毅 一橋大学, 社会科学高等研究院, 特任講師 (80979336)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 処置効果 |
研究開始時の研究の概要 |
パネルデータとは、複数の個体を複数の時点にわたって観察したデータである。社会科学の実証分析においては、内生性の問題として欠落変数によるバイアスの問題が多く指摘されるが、その対処策としてパネルデータを用いた様々な推定手法が研究されてきた。本研究では、パネルデータについて個体に特有の要素(個体効果)が時間を通じて変化し得るモデルを考え、まず(政策及び介入の)処置効果の識別問題に取り組み、これに基づき時点数が少ない場合にも適用できる処置効果の推定方法の提案を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、時点数が少ないパネルデータにおいて、個体効果が時間を通じて変化し得るモデルの下での処置効果の識別及び推定手法について、共同研究者である東北大学の石原卓弥先生と取り組んだ。 まず、処置効果の母集団における真の値が観測可能な変数の平均、分散、共分散等の関数としてどのように書き表せるか、またそれはどのような識別条件の下であるかを明らかにした。このような処置効果の識別問題は、本研究で考える処置効果の推定量を構成する上で重要である。本研究では、従属変数及び処置変数の他に、時間と共に値が変化しない共変量が観測可能である状況に基づき、このような共変量を含む変数同士の相関に基づく識別方法を提案している。時間と共に値が変化しない共変量の利用は、パネルデータにおける処置効果に関する研究で多く見られる。 そして、提案した識別方法に基づき、処置効果の推定量を提案し、推定量の性質を調べた。ここで、個体効果が時間を通じて変化し得るパネルデータモデルの下での処置効果の代表的な推定手法として、合成コントロール法が挙げられるが、この手法は1個体のみが介入を受ける実証例に適用可能である点においても重要視されている。そこで、本研究においても、1個体のみが介入を受ける状況を考え、個体数が十分大きい下で提案手法の妥当性を示す理論的な性質を導出した。また、観測不可能な個体効果の数は基本的に未知であるが、本研究ではチューニングパラメータを導入することで、個体効果の数の特定を必要としない推定量を提案している。さらに、提案した推定量のパフォーマンスを数値実験により検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、処置効果の識別条件は観測可能な変数により少なくとも理論上は検証が可能であり、また推定量における共変量の利用について、状況に合わせて比較的自由に構成できる手法を提案している。また、数値実験においては、提案した推定量は前述の合成コントロール法と比較しても時点数が少ない場合に全体的に良いパフォーマンスを示した。一方、識別条件及び推定量について、本研究と同様の設定に基づく他の研究で用いられている手法と提案手法の比較を含めた解釈については検討の余地がある。研究内容を取りまとめた論文の公開には至っていないが、これまでに実施した研究の結果について複数の研究集会及びワークショップにて報告しており、頂いたフィードバックを今後の研究に活かしていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き提案手法の識別条件及び推定量の性質等についての分析を進めると共に、推定方法に基づく処置効果の有意性の検定方法の提案を目指す。検定方法については、パネルデータモデルの下での処置効果の代表的な推定手法である差分の差分法や合成コントロール法で既に提案されている手法が参考になると考えている。また、合成コントロール法等の手法を用いた実証分析に用いられているデータに提案手法を適用し、パフォーマンスを比較したい。数値実験では共変量が1つ観測される比較的シンプルな設定を考えたが、実証分析では共変量が複数観測されることも多く、実際のデータへ適用する上で複数の共変量を用いた推定量の構成についても検討したい。そして、研究内容を論文に取りまとめて公開し、国際学術誌への投稿を目指す。
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