研究課題/領域番号 |
23K18832
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0108:社会学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
服部 恵典 東京大学, 高大接続研究開発センター, 特任研究員 (00979750)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | アダルトビデオ / 性的主体化 / アーキテクチャ / 環境管理型権力 / ポルノグラフィ / レンタルビデオ |
研究開始時の研究の概要 |
M.フーコーの「性的主体化の権力」が働く場として、ポルノグラフィは重要な研究対象とされてきた。こうした既存の研究成果ゆえに、欲望が先立ってポルノを選ぶという見方はもはや自明視できないにもかかわらず、「選び方」を管理するメディア環境、流通過程は分析されてこなかった。そこで本研究は、アダルトビデオを流通させるビデオ店や動画サイトなどの映像プラットフォームに着目し、物質的・技術的環境がいかに利用者を欲望させているかを問う。セクシュアリティ研究とメディア研究を結びつけるこの研究視角は、個人の内面に働きかける性的主体化の権力と、無意識に働きかけるアーキテクチャ型権力の接点を問う理論的発展性を有する。
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研究実績の概要 |
送り手による表象の問題性がどこにあるのか、逆に受け手は表象をいかに解釈するのかを争点の中心としていたこれまでのポルノ研究に対して、本研究は送り手と受け手の間に位置するがゆえに双方の実践を規定する流通過程に焦点を当てることで貢献を目指すものである。 本年度は、第96回日本社会学会において「アダルトビデオからビデオ史を逆照射する――「アーカイブ」の困難に着目して」と題して報告を行った。レンタルビデオ店は、かつては映画館で一回性のもと視聴されていた映画を人々に安価でアクセス可能にする「アーカイブ」としての機能を持った。しかし、アダルトビデオがビデオ店にとって例外的でありながら重要なジャンルであったことは十分分析されてこなかった。AVを研究してきたセクシュアリティ研究にとっても、視聴者の性的アイデンティティ探索=ポルノグラフィ選択を可能にする条件を問う必要があった。 ビデオストレート、膨大な新作数の割に狭い販売スペース、「古典」を持たない、といった特徴を持つAVは、映画のレンタルビデオとは異なる独自の新陳代謝のリズムを持っていた。いかに魅力的な幅広い品揃え=「アーカイブ」を実現するか、いかに旧作に対処するか、といったビデオ店の課題は、実はAVにこそ顕著に表れていたといえる。 DMM.com創業者の亀山敬司がアダルトビデオ業界に導入した、返本制度に似た「富山の薬売り」方式は、仕入れのリスクや旧作ソフトの廃棄といったビデオ店の課題の解決策となっただけでなく、アダルトビデオ業界にPOSシステムを導入するきっかけとなった。アダルトビデオからアダルト動画への移行にあたっては、亀山敬司が蝶番の役割を果たしていたと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1年度は、まず研究の基盤となる資料アーカイブを構築していくことを計画していた。この点は、初期レンタルビデオ店の経営指南書のほか、主要なアダルトビデオ情報誌である『ビデオ・ザ・ワールド』や『オレンジ通信』などの資料を収集し、概ね達成された。国会図書館や大宅壮一文庫にも所蔵されていないその他の雑誌資料は、古書店などを利用して継続して収集を進める。 これらの資料から、(a)ビデオ店はいかなる区分と配列でアダルトビデオを選ぶことを可能にしたか、(b)アダルト動画配信サイトはビデオ店の何を引き継ぎ何を変えたのか、という2つの問いに答えることを計画していた。配列は十分に明らかになっていないものの、アダルトビデオ情報誌からジャンル区分とその間に生じている独特のヒエラルキーが読み取れた。そして、レンタルビデオが便宜的な「アーカイブ」たりうるための諸問題が特に色濃く表れたのがアダルトビデオであり、その独特な新陳代謝の速度に対処したのがアダルト動画配信サイトであったことを明らかにした。 また、(c) アダルト動画サイト利用者はいかにして自分が観たい映像を見つけるのか、に答えるためのインタビュー調査の準備を行っていくことを計画していた。しかし、文献資料の収集と整理に時間がかかり、インタビュー調査に遅れが生じている。ただし、アダルトビデオ情報誌や動画販売サイトレビュー欄などのデータを利用して、一部解答が可能であるという見通しが立っている。
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今後の研究の推進方策 |
アダルトビデオ情報誌の資料収集を進め、さらに読み込んでいくことを通して、日本社会学会での報告を査読論文に結実させ、投稿・掲載することを目指す。また、これまでの実証研究と権力論を往還しながら、性的主体化の権力と環境管理型権力の接点に関する総合的な分析をまとめていく。 アダルト動画サイト利用者がいかにして自分の欲望に応える作品を探すのかについてはインタビュー調査から明らかにすることを想定していたが、聞き取りデータの比率を下げ、アダルトビデオ情報誌や動画販売サイトレビュー欄など書き残された資料の比率を上げることで対処したい。
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