研究課題/領域番号 |
23K18846
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0108:社会学およびその関連分野
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研究機関 | 和光大学 |
研究代表者 |
新倉 久乃 和光大学, 現代人間学部, 非常勤講師・客員研究員 (80840777)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 公助へのアクセスと共助 / エスニックコミュニティ / エスニックグループ / 移民の高齢化 / 移民と社会保障 / エスニックビジネス / アウトリーチ / 国際移動の女性化 / 共助と公助 / 埋め込まれたジェンダー / 日米比較 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の背景は、グローバリゼーションによる「国際移動の女性化」から続く2000年代前半に日本とアメリカに移動したタイ人と、在外タイ人が形成したエスニックコミュニティである。2000年代には、日米ともタイ人の集住地区では同国人の間にケアやエスニックビジネスという共助が見られ、在外タイ人支援団体(以下、支援団体)が公助へのアクセスの機能を果たしてきた。2000年代に日米に移住したタイ人(ミクロ)と支援団体(メゾ)へのインタビューを通じ、埋め込まれたジェンダーが与える公助へのアクセスへの影響を考察する。これにより、多文化共生政策に対して共助の果たす機能とジェンダー視角から新たな提言を行う。
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研究実績の概要 |
ロサンゼルス市において、在米タイ人コミュニティの共助と公助の関係について現地調査を行った。ロサンゼルス市はアジア太平洋地域(AAPI)のエスニックコミュニティを対象に、街づくりや地域経済向上のため協議会運営や予算配分をしている。調査協力団体のThai Community Development Center (Thai CDC)は、タイ人および他の移民を含むコミュニティ住民を対象にし、スモールビジネス起業支援とスタート事業としてマーケット運営や設置、COVID-19無料ワクチン接種拠点での福祉相談を実施している。現在は特に深刻なアジアンヘイトに対して、タイロータリークラブ、タイマッサージ協会、タイ領事館の共催で、自己防衛トレーニングと移民が被害者となった時の法的知識に関する研修プログラムを実施した。本年度は、以上の実施事業内容を把握したうえで、コミュニティのニーズと社会課題解決を探る活動について質的調査を行った。具体的には、アウトリーチ活動に携わる職員やボランティアへのインタビューと各プログラムにおける参与観察を行った。 日本では、横浜市にあるNGOカラバオの会のアクトリーチ活動に参加し、市内の在日タイ人集住地区のエスニックビジネスの参与観察を行った。その地域からタイに本帰国した高齢タイ女性のタイでのインタビューと参与観察を実施した。また、在日タイ人組織Thai Network in Japan(TNJ)の労働問題に関するZoom研修で参与観察を行った。 なお、2024年1月に明石書店から出版した「在日タイ女性の高齢期と脆弱性―トランスナショナルな社会空間と埋め込まれたジェンダー規範」をもとに、本研究のテーマである共助と公助の関係について、日本とロサンゼルスで年金や健康保険等の社会保障へのアクセスについて同じ内容でアンケートを収集した。これら調査結果を学会や研究会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ロサンゼルス市で行った、インタビュー内容を日本語に翻訳し、参与観察の記録を作成した。ここでの現在の社会課題は、従来からある貧困の他に、移民の高齢化、エスニックビジネスの中の起業家と従業員の労働問題、人身取引、COVID-19以降のエスニックビジネスへの経済的ダメージがあった。Thai CDCが連邦政府や地方自治体から得た補助金・助成金で実施される事業が、公助の役割を担っていた。生活の向上や地域の安全を目指す公助のさらなる進展のため、コミュニティニーズの把握や支援を浸透させるために、組織として新たな機能を必要としていた。今回のインタビューと参与観察では、その機能を担うコミュニティを熟知するタイ人職員が行うアウトリーチ活動について情報を収集した。その結果、エスニックマイノリティ当事者が実施するアウトリーチ活動が、同国人との共助の要となり、公助のアクセスやその成果をコミュニティに生かすことがわかった。また、人身取引被害者への統合政策によって家族単位の渡米が見られた。2000年代前半多数の被害者を出した農業強制労働による人身取引元被害者が集住する地域で、私的な共助のあり方も参与観察した。 日本では、横浜市の在日タイ人集住地区のアウトリーチ活動から、エスニックビジネス従事者もアウトリーチ活動ボランティアも女性のみであることが明らかになった。また、TNJ研修の参与観察の場でもリーダーとボランティアは女性が大部分を占めた。TNJはタイ大使館の資金支援をうけているが、いずれの活動も日本の自治体からの助成金等は受けず、無償ボランティアが担っていることが明らかである。 現在、日本と米国で収集したアンケートの整理と分析に取り掛かっている。日本のアンケートは、タイレストランなどの他のエスニックビジネス従事者、日本企業でパートタイム就労するタイ人、少数ではあるがタイ人男性も対象に追加する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの日米比較では、米国は、家族単位の移動と財源に裏付けられた統合政策をもとに公助をエスニックコミュニティの組織が担うが、日本は、女性に偏った移動とボランティア中心の多文化共生政策であり、公助の提供は自治体が担っていた。このように両国の間では、政府の移民政策や財源というマクロレベルの相違点が明らかになった。本研究では、在外タイ人のメゾとミクロレベルに注目して日米比較を行い、相違点のみならず在外タイ人としての共助と公助へのアクセスを分析する。メゾレベルとしてエスニックコミュニティやグループの社会課題は何か、ミクロレベルでは在外タイ人個人や家族を調査対象とする。 今後のロサンゼルス市と横浜市でのフィールドワークでは、いずれの地域でも社会課題とされている高齢化を共助と公助へのアクセスを中心に、以下の二点を調査する。1)高齢化とエスニックビジネスでの就労や住居に関する公助と共助の関係を、地域のリーダーや世話役を担うタイ人にインタビューを実施、2)家族と高齢期のライフプランについて、家族や高齢者を対象にインタビューするとともに、在外高齢単身者のケアと社会保障利用、住居、法的手続きについても参与観察を実施する予定である。 日本においては、横浜市以外でもTNJがとらえる在日タイ人の社会課題とそれを解決するための公助との関係を、TNJのリーダーたちを中心にインタビュー調査を行う。 以上の調査から日米の公助へのアクセスと共助のあり方を、家族や同国人グループというミクロレベル、エスニックコミュニティ組織、エスニックグループというメゾレベル、移民政策や多文化共生政策というマクロレベルに注目し、比較分析する予定である。 これらの調査や分析の結果を、2024年の移民学会と移民政策学会で報告し、本研究の成果論文作成する予定である。
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