研究課題/領域番号 |
23K18917
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0109:教育学およびその関連分野
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
家本 繁 中央大学, 理工学部, 准教授 (00980137)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | デザイン思考 / PBL / PDCAサイクル / 問題解決学習 / 生成AI / 課題解決学習 / 数学科 / 情報科 / 総合的な学習 |
研究開始時の研究の概要 |
数学科や情報科, 中等教育で教科間の横断的な視点に立って行われる総合的な学習等における課題解決学習へデザイン思考を取り入れた教材を開発し, デザイン思考の重要な要素である「共感」によって人間中心のアプローチができる生徒の育成を目的とする。 デザイン思考は問題解決のプロセスにおいて, 人間の内面や行動を注意深く観察し, 問題の本質にアプローチすることを重視する思考法である。このようなアプローチはAIによる代替が困難であり, VUCA時代, すなわち先行きが不透明で, 将来の予測が困難な時代において求められる「思考力・判断力・表現力」を養う為に有益な思考法の一つである。
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研究実績の概要 |
中等教育における各教科における探究、総合的な探究の時間における教科・科目等横断的な学習や探究のプロセスでは、PBL(Project Based Learning)がしばしば用いられる学習方法であり、PBLを進める代表的なフレームワークとしてPDCAサイクルが頻繁に用いられる。 しかしながらPDCAサイクルは中長期的な課題解決に適しており、授業時数に強い制約がある中等教育での活用には、綿密な授業計画と継続的なカリキュラム・マネジメントが求められる。またPDCAサイクルは問題解決を進める一つの手段を提供しているに過ぎず、教育目標をどのように設定するかは教師に委ねられる。そのため田中ら(2009)は、問題解決学習において肝要な生徒の内面に「問題把握―究明― 解決(および新たな課題)」という一連の流れを生み出せず、単なる「調べ学習」で終わってしまう危険性を指摘している。 一方、デザイン思考は商品やサービスを使用するユーザ目線で「共感」「定義」「発想」「プロ トタイプ」「テスト」の過程を繰り返しながら解決策を組み立てていくフレームワークであり、ユーザへの「共感」(=問題解決の視点)、「プロトタイプ」(=荒い試作品を元に改善を重ねる)が軸にあるため、田中ら(2009)の指摘に陥りにくく、教育活動との親和性も高い。 今年度は研究計画に従い、特に情報科におけるプログラミングやデータ分析を伴う問題解決学習においてデザイン思考を体験する教材を開発した。身近にインタビューできるユーザがいない場合、従来はペルソナをアナログ的に設定して「共感」を高めていたが、開発した教材ではペルソナを生成AIを用いて作成し、対話を通じて「共感」を高められる点が顕著な工夫として挙げられる。この教材を大学の総合教養科目や教職課程の授業において実践し、形成的・総括的評価を行った結果を予稿集にまとめ、日本教育工学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画では、「先行研究の調査」「デザイン思考活動の体験教材の開発」「教育現場でのデザイン思考活動の実施と評価」「実施結果の分析と改善」の4つの段階に基づいて研究を進めていく予定であった。 このうち、「先行研究の調査」「デザイン思考活動の体験教材の開発」については、計画以上の成果が得られたと考えられる。「先行研究の調査」では計画時に挙げた以外の先行研究を調査し、特に国内で発刊されているビジネスや教育にデザイン思考を応用した実践にまつわる書籍に触れ、著者と情報交換する機会にも恵まれた。これによって、「デザイン思考活動の体験教材の開発」を進める上で多くの有益な示唆を得ることができた。 「デザイン思考活動の体験教材の開発」「実施結果の分析と改善」では、情報科におけるプログラミングやデータ分析を伴う問題解決学習においてデザイン思考を体験する短期実施型の教材を2つ開発した。開発した教材は、生徒自身がプログラミングを伴う問題解決学習においてデザイン思考を体験する教材と、生徒が身近に感じる課題解決学習のテーマを教師が開発する際にデザイン思考を用いる教師教育用教材である。開発した教材ではペルソナを生成AIを用いて作成し、対話を通じて「共感」を高められる点が顕著な工夫として挙げられる。この教材を大学の総合教養科目や教職課程の授業において実践し、形成的・総括的評価を行った結果を予稿集にまとめ、日本教育工学会で発表した。 しかしながら「教育現場でのデザイン思考活動の実施と評価」に関して先行研究の分析や教材開発に時間を要したため、高等学校での実践に向けた指導案や指導の手引き等の作成、実施日の調整が不調に終わったため、今年度は大学の総合教養科目や教職課程の授業でのみ実践することになった。この点が「おおむね順調に進展としている」と評価した理由である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は採択の決定が9月であったことの影響もあり、開発した教材を高等学校で実践する機会を持つことができなかった。次年度はこの機会を設けられるよう先方と綿密に調整を進めていく。
それと同時に当初の研究計画に従い、生徒の内面に問題解決を進める方法論の一つとしてデザイン思考が定着していくよう、長期的に取り組んでいくために必要な教師用研修教材やカリキュラム例の開発を「教科横断型の探究学習への展開」を視野に入れ進めていく。その上で、実践を通じて得られたデータを記述統計や因子分析, クラスター分析を用いることで評価基準の改善、体験教材の改善を行う。また、研究成果の出版、国内外での学会発表や講演を通じて本研究の更なる深化と今後に向けた展望を定める(「教育現場での実施と評価」「実施結果の分析と改善」)。
加えて今年度の先行研究を分析する中で、国外においてデザイン思考を初等・中等教育の数学教育へ活用する実践やそれを整理する研究に触れる機会をもった。これらは特に国内では類例がほとんど見られないものである一方、デザイン思考が実際に使われていない授業実践までが分析対象に含まれてしまっている実践が見られ、「デザイン思考の教育への活用」に関する研究の未成熟な部分が確認された。デザイン思考は、国内において今後STEAM教育を推める上で有効な手段の一つとして認識されつつあるため、「デザイン思考の教育への活用」の国内外の研究動向を改めて整理するという研究調査を当初の計画と併せて行なっていく。
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