研究課題/領域番号 |
23K19035
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研究種目 |
研究活動スタート支援
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
0202:物性物理学、プラズマ学、原子力工学、地球資源工学、エネルギー学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田之上 智宏 大阪大学, 大学院理学研究科, 助教 (70980316)
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研究期間 (年度) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 乱流 / 情報 / 普遍性 |
研究開始時の研究の概要 |
乱流では大スケールから小スケールへのエネルギーの輸送があり、それに伴って小スケールでの速度ゆらぎが普遍的振る舞いを示す。この普遍性はエネルギー輸送の過程で大スケール速度場の情報が失われることによって創発するという直観的描像が広く受け入れられている。一方、大スケールの情報はむしろ小スケールへと伝達されていることがごく最近理論的に明らかにされた。この事実は普遍性の創発メカニズムに関する既存の直観的描像の再考を迫っている。本研究では情報理論や情報熱力学的アプローチをとることで、乱流における普遍性が情報の流れのもとで創発する機構を明らかにすることを目指す。
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研究実績の概要 |
乱流中では従来の直観的描像に反してマクロからミクロへの情報の流れがあるということがすでに予備的知見として得られている。本研究の目的は、乱流における普遍性と情報の流れがどのように両立しているのかを情報熱力学の観点から明らかにすることである。具体的には、(i)情報の流れのもとで普遍性が創発するメカニズムの解明、および(ii)情報の流れによる乱流ゆらぎの特徴づけを行う。本年度は、(i)に関しては情報流のスケール局所性を解析的に示すことに成功した。これは乱流ゆらぎの情報がマクロからミクロへ伝言ゲームのように順繰りに伝達されているということであり、情報流があるにもかかわらず普遍的統計則が生じるメカニズムの解明に向けて有力な手がかりを与えている。(ii)に関しては、情報流と乱流ゆらぎ(速度場の高次モーメント)の間の普遍的不等式を発見した。この不等式はマクロからミクロへ情報が流れれば流れるほど小スケールでの乱流ゆらぎが増強されるということを主張している。数値的検証も行った結果、この不等式が以前の研究で得ていた不等式に比べて極めてタイトであることが判明した。この結果は、乱流ゆらぎの統計的性質の解明およびその制御に関して本質的に新しい視点を提供すると期待される。また、これらの結果に関連して、情報流が大スケール有効モデルの位相空間収縮率に等しいという非自明な等式も得られた。この等式が上記の(i)(ii)の結果を導く上で重要な関係式となっている。この結果は情報流が情報損失率を表すKolmogorov-Sinaiエントロピーとは異なる量であることも意味しており、力学系の観点から興味深い結果といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は(i)情報の流れのもとで普遍性が創発するメカニズムの解明、および(ii)情報の流れによる乱流ゆらぎの特徴づけという2つの研究内容から構成されている。 (i)に関しては、Shannon第2定理を応用するという当初の計画とは異なるが、情報流のスケール局所性を解析的に示すことができた。スケール局所性は普遍性が生じるメカニズムとして極めて本質的な性質であると考えられるため、当初の計画以上に急所をついた結果が得られたといえる。 (ii)に関しては、当初の計画で予想していた通り、情報流と速度場の高次モーメントの間の普遍的不等式を証明することができた。(ii)はもともと挑戦的な最終課題という位置付けだったが1年目で達成されたため、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
(i)情報の流れのもとで普遍性が創発するメカニズムの解明、および(ii)情報の流れによる乱流ゆらぎの特徴づけという2つの研究内容のいずれも当初の計画以上に進展し、ある程度目標は達成されたため、今後はこれらの結果の一般化を推し進める。具体的には、これらの結果はシェルモデルというNavier-Stokes方程式を簡単化したモデルに対してのみ証明されたものであるため、Navier-Stokes方程式に対して同様の結果を示すことを目指す。また、2次元乱流や量子乱流など他の乱流に対しても同様の解析を行い、通常の3次元流体乱流の場合と比較することも検討している。
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